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言い渡される任務(2)

◇ ◇ ◇


 山の中心部分をくり抜いて草を植えたかのようなこの地方には、二つの侵入ルートが存在している。


 一つは先程述べた俺達の国の西側。

 もう一つは、この地方唯一の森林地帯を有している北側の国、星ノホシノミヤ


 だからと言って、残り二つの国が劣っている訳ではない。

 他二つの国は南と東に位置し、それぞれが海上ルートを開拓し、他の小国と貿易を行っている。

 南の海上ルートを擁する都市を城下に持つのが孔神コウガミ

 東の海上ルートを持つ港町をいくつも領土に納めているのがミュロイド。


 つまり、地上での交易を行っているのがルフェヴィリアと星ノ宮。海上での貿易を行っているのが孔神とミュロイド。

 我が地方は、これら四つの国で構成されているのだ。


 そしてこの四国は、それぞれの国と、何百年にも及ぶ領土争いを繰り広げていた。


 山岳中央に広がる大きな草原。

 その土地を治めれば国土は大きくなるとされてきた。

 だからその土地を巡って、何度も何度も、戦争が繰り広げられてきたのだ。

 その結果、その草原がただの荒れ果てた荒野になろうとも、戦いは終わらなかった。


 当初の目的である草原ではなくなり、農絡的価値が損なわれてしまっていようとも、戦争は続いた。

 その中央を治め、他の国々を落とす足がかりとしようとばかりに最初の目的を忘れ、全ての国を落とすためとばかりに、戦争を続けていた。


 だがそんなある年。

 我が国はその戦争から手を引いた。


 七五六年。

 この世に存在していなかった、伝承や御伽噺・発掘される古文等に記されていただけの「魔法」。

 それに似た「何か」をこの世に顕現化し、全ての民で扱えるようにすることができる「ある核」の譲渡と、荒野と化した中央への戦争不介入を約束するのを条件に、他の三国それぞれと、個別に同盟を結んだ。


 その甲斐あって我が国だけは、戦争回避に成功した。


 けれどもその結果、他の三国による争いはより激化した。


 それは今、七七三年になっても、続いている。


◇ ◇ ◇


「だが表立っての戦争は、今から十年前の七六三年に発生したマホウ災害『影陰かげかくし』によってとりあえずの冷戦状態へと移行した。私達はこの『影陰』を利用して、四国全てがそれぞれの国と争わないと約束する四国同時平和条約を結ばせようと画策している」

「それが師匠の言う、四天同盟計画ですか」

「そういうことだ」


 大きな胸を寄せ付けるように、机に肘をつき口元で指同士を絡ませる。


「各国にした交渉はこうだ。“お前達の国にいる『影陰』を我が国ルフェヴィリアが一手に引き受けて全滅させてやる”」

「……そんなの可能なんですか?」

「何を言う。そのための準備をこちらもずっと行ってきたし、向こうが納得できる成果も既に提示してある。向こうとしても始めて『影陰』が現れた時に兵士を半分持っていかれているからな。この提案は渡りに船だろう」


 あの新しい沢山実験にも参加させられた『不然発破まほう』のことだろうか。


「なんせこの提案を受け入れれば、向こうの『影陰』被害は同盟を持ちかけて戦争から逃げたルフェヴィリアという国の兵士だけで済むのだからな」

「……師匠にしては、相手に譲歩し過ぎですね」


 裏があるようにしか思えない。


「さすが愛弟子。もちろん相手には、こちらの本来の狙いである四天同盟計画の話はしていない」


 ということは、他の三国は、それぞれと同盟を結ばされるという話を聞いていないということになる


「それなのに『影陰』退治を引き受けた……その交換条件が師匠の言う“裏”ですか?」

「ご名答」

「で、そこから俺に友達を紹介する、って話に繋がるんですね?」

「パーフェクトだ、愛弟子。『影陰』を倒すために作り出した武器を安心して使い続けられるようにするために、『核』を宿した子達を一箇所に集めて守りたいからこちらに寄越せ、と話した」


 真の狙いである四天同盟計画を隠すために提示した条件が、それ。


「キミにはその『核』を埋め込まれた子達を守り、共に暮らしながら、全員を友人にして、全員と友人になって欲しい」

「『核』を宿した子達……? ……『核』って、昔同盟の時こちらが渡したとされてる、『換核ヒメア』ですよね」

「ああ」

「……………………」


 師匠からの短い返事を聞いた後、しばらく状況を頭の中で整理し始める。


 その間にも、フカフカそうな椅子から立ち上がり、背を向け窓へと向かいながら師匠は続ける。


「彼女達全員からの要望でね。露骨に守られてるといった感じや丁寧な言葉を使われるのは苦手なんだそうだ。『姫』同士それぞれが一度も顔合わせしていないのに、四人全員が口裏を合わせたように、言い方は色々だったが護衛に関して“気兼ねのしない相手”という要望を出してきた。そうなると、叶えてやるのが優しさだろ。そこで愛弟子の出番というわけだ。キミなら年齢も近いしな」

「…………ん?」


 整理中に話してくれたその師匠の言葉のおかげでようやく、話を指先ほど掠めることが出来た。


「もしかして、ですけど……俺に紹介するっていう友達ってのは……」

「ああ。『換核』を宿す、我が国も含んだそれぞれの『姫』達四人のことだ」


 …………………………………………。


「……………………いや、いやいやいや……! そんな結構重要そうな任務、俺になんて任せないで下さいよっ!」


 理解した。

 完璧に理解した。


 『換核』を宿す『姫』と呼ばれる子達。

 それはその国にとって、それぞれの国独自の『不然発破』を扱うのに必要な存在そのものだ。

 彼女達がいなければ、『不然発破』は何一つ使えない。ある意味においては王よりも大切な、その国の戦う力の源、と言っても良い。


 師匠はそんな子達を、俺に守れと……!?


「何を言う。愛弟子」


 窓に背を預け、師匠は立ったまま耐冷熱タイツで覆われた黒く長い足を軽く組んだ。


「だから任せられるんじゃないか。これまでの私の試練に耐えてこれたのだからな」

「その評価は正直言ってすっごく嬉しいですよ! でも俺なんかよりもっと強い、それこそ騎士の位の人とかに――」

「さっきの話を聞いていなかったのか? 騎士の位となると、最低三十代だ。そんなヤツを護衛にすると確かに安心だろうが、そうなると彼女達と歳が離れ過ぎてしまう。それは彼女達の望むところじゃない。正直、二十歳のキミでも彼女達の中では最年長なぐらいだ」

「でも……!」


 俺なんて、師匠がスゴいだけで、位としては一兵士となんら変わりない。


 そんな俺に……それぞれの国の命運を左右させるような存在を護衛だなんて……本当この人は、無茶が過ぎる!


 歳が離れすぎては友人のような関係にはなれない。

 だから歳の近い人を使う。

 その中で師匠が信頼できるのが俺だった。


 そういうことになるのだろう。

 それは分かる。分かるが……いや、正直言ってその条件で俺を選んでくれたのは嬉しい。

 嬉しいが……。


「というか他の国も、よくそんな大事な人を他国に渡しましたね?」

「色々と渋ったりしたがな。だがこちらが提示した対『影陰』用の武器のためには、各国全ての『換核』が必要なのは事実だ。それを向こうも理解してくれたから、我が国が彼女達を守らぬはずが無い、と信頼してくれたんだよ」

「って、それなら余計に俺一人じゃ色々とプレッシャーが酷過ぎでしょ!」


 それはつまり、もし『姫』を一人でも守れなければ、『影陰』討伐も出来なくなるという訳で……。


「今までのどんな修行よりも辛いですぶっちゃけっ!」

「なに、そう不安がることも無いぞ愛弟子。もっと気楽で良い」

「無理です! 俺一人の責任でともすれば他国と戦争になるかもだなんて――」

「さすがの私でも、自分の可愛い弟子一人に責任を押し付けるつもりは無い。お前達が住むことになる場所の周辺にはしっかりと兵も置くし、連絡があればすぐに駆けつけられるようにはしておく。お前は危なくなったとき、その増援が来るまで耐えてくれればそれで良い」


 最悪の未来を想像して顔が青くなっていくのが自分でも分かる。


 そんな俺の心情を分かっているはずなのに、師匠は余裕綽々に自分の髪を掻き上げる。


「それに、愛弟子の主な任務は護衛じゃない」

「えっ……?」

「言っただろ? 私はキミに、友達を紹介する、と」

「それは……比喩表現みたいなものかと……」

「違う。文字通りの友達だ。私は愛弟子には彼女達を守ることより、彼女達と友達になることと、彼女達それぞれが互いに仲良くなるよう、頑張って欲しいと思っている」

「守ることより、仲良くなることが任務、ってことですか……?」

「あくまでも主な任務は、だがな。さっきも言ったが、建前でもある彼女達の護衛はちゃんとしてもらうぞ。それに友達になるためにいきなり女の子四人との共同生活だなんて、ある意味においてはただ護衛するよりも大変だからな。もしかしたら余計に苦労をかけてしまうかもしれない」

「うっ……確かに、そうですね」


 安心のし過ぎで油断して気を抜かないようにだろう。軽い脅しのような念押しをされてしまった。


「でも師匠、どうしてその子達と友人になる必要があるんですか? それと四天同盟計画とどう関係が……」

「動揺しすぎだ、愛弟子。普段のお前なら分かるはずだ」

「え?」

「四天同盟計画というのは各国の『影陰』問題を解決して、平和になってから交渉に入る。だが、それだけじゃあ数歩足りない。むしろマホウ災害が無くなったことにより、冷戦状態が解除され、再び激しい戦争になる可能性すらある」


 胸を持ち上げるように組んだ師匠のその腕には苛立ちからか、強い力が篭っていた。


「だがもしそこで、『姫』同士の繋がりがあればどうだ? 国の戦う力そのものである彼女達が、それぞれと仲良くなっている。これは大きなポイントだと思わないか?」

「……そんな上手くいきますか?」

「もちろん、これは足りない数歩の内の一歩だ。だが足りない内の一歩である以上、しっかりとこなして欲しい」

「……分かりました」


 足りない数歩の内の一歩……か……。


「なんだ愛弟子。腑に落ちない顔だな」

「いえ、そんなことは……」

「……ま、考えてることは分かる」


 組んでいた腕をほどき、額を抑えるように髪を持ち上げる。


「四天同盟計画については、お前以外に国王を含めた一部の人間しか知らない。だから他国から基本、“本当に戦う力を失わないために守っている”と思われるだろう。とはいえ、中には真意に気付く者もいるに違いない。何のために各国の『影陰』を今まで戦争を避けてきた国がわざわざ危険を冒してまで狩ろうとしてくれるのか。そこを考えていけば、可能性の一つとして至ってもおかしくはないのだからな」

「ということは、やっぱり……」

「ああ。悪いけれど愛弟子達は、囮でもある」


 他国との同盟なんて真っ平ゴメン。そんなことをしたら地方統一が出来ない。資源だって独占できない。

 ……そう考えて襲ってくるであろう、四天同盟計画反対者を炙り出す。


 それもまた、足りない数歩の内の一歩。


「尤も、直接危害が及ぶような行為はあまりしてこないだろう。そんなことをしては自国の『姫』が死んでしまうかもしれないからな」

「あまり、ですか」

「どこにでも過激派はいるものだ。自国の『姫』は狙わぬように命令したから絶対に死なない、なんて考えるバカとかな。だから断定は出来ない。もっとも、やはり何かしてくるなら外交テーブルになるのは間違いない。だがそれはこちらで処理する問題だ。愛弟子達は気にしなくて良い。何より、ある意味王よりも大切な存在を預けてくれたんだ」


 窓から離れ、立ったまま机の上に両手を置き体重を乗せる。


「向こうの王もこちらの意図を汲み取り同意して預けてくれている。表立っての行動も無いだろう」

「なるほど……それで、その任務はいつからなんです?」

「え? 今日からだが」

「はっ!?」


 ギリギリまで考えさせてくれ、と続けようとした言葉が一気に無意味になることを言われた。

 ……いや、案外聞き間違いの可能性もある。


「だから今日からだ。愛弟子、聞こえなかったのか?」

「くそっ! 聞き間違えじゃなかった!」

「それじゃあ、これから着替えやら簡単な荷物だけまとめて、馬車に乗ってもらおうか」


 企みが成功した、という考えがその笑みから容易に悟ることが出来た。


「ちょっ、待ってください! それちょっとおかしいでしょ! 断らなかったらどうするつもりだったんですかっ!」

「お前は断らないからな。さ、早く例の四人と一緒に住んでもらうことになる場所への移動を始めよう」

「いや、ちょっ! その断定は色々と……!」

「なに、安心しろ。大きい荷物は後日改めて取りに来い。今日は二つの国から、明日は残りの二つの国からそれぞれやってくるから、ちゃんと出迎えてやってくれ。あ、それとこれ。資料だ。馬車の中で目を通しておくように」


 最初に机の上に軽く叩きつけた資料を、トントンと指で叩く。


「それでは愛弟子よ。健闘を祈るぞ」

「えっ、ちょっとだからまだ心の準備が……!」

「…………」


 見たこともない、ニッコリとした笑み。

 ……すっごい出て行かないといけない空気を感じる……。


「…………いや、あの……!」

「…………」


 続く、ニッコリとした笑み。

 ……いやマジか……なんの心の準備もしてないんだが……。


「………………えっと……その……」

「…………」


 引き続く、ニッコリとした笑み。

 無言の圧力で行動を急かしてくる……なんだこれ。一種のホラーだよマジで……。


 微動だにせずに睨みつけるわけでもなくジッと……。

 ……なまじ美人なだけに、本当に怖い……。

 明日は予定通り休み。

 今日長かったのは、明後日ももしかしたら休むことに鳴るかもしれないから。

 更新できたらするけど、出来たとしても今日みたいにギリギリだろうなぁ……本当すいません

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