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色々と決まり、共同生活の始まりを実感する、……その前に(3)

前回までのあらすじっぽいもの:敷地内への侵入者。逃げられたその場に、何故かハルがやってきた

 ミュロイドが裏切ることは無い。


 確かにそう考えていた。


 だがもしそれが間違いで、さっき侵入して来ようとした奴とハルちゃんが会おうとしていたのなら?


 もちろん、そんな可能性は無いと思っている。

 しかしそれに感情論が含まれていないかと問われると、首を傾げてしまうのもまた事実。

 『崩色唱ミューゼ』を昔のように巧く扱えない、というハルちゃんの悩みを聞いて、それに同情しているのは間違いない。


 だが、ハルちゃんが抱いているその悩みが嘘だとは、とても思えない。

 でなければ昨夜、燃えた小屋の前であんな悔しそうな表情を浮かべていた理由の説明がつかない。


 あの表情は間違いなく、自らの不甲斐なさを悔いてのものだった。


「そういうフラットは、こんな時間にどうしたの?」

「見回りだよ。異常が無いかのね」


 侵入者がやってきた、というのは言わないでおく。


「それに俺からしてみたら、キリナちゃんが寝るって伝えてくれてからちょっとしか経ってないしね」


 風呂掃除をして熱を止めて、の後すぐに侵入者だから、そんなに時間は経っていない。

 しかしハルちゃんにしてみれば昨日と同様、皆が寝静まったと思ったから出てきたのだろう。昨夜表から出たときに音がしたから今度は裏から、といったところか。


「で、ハルちゃんはどうしてここに?」

「……なんだっていいでしょ」


 照れくさそうに、フイっと視線を逸らす。努力を見られたくない子なのだろう。


「それより、フラットはまだ寝ないの?」

「まあ、後で仮眠ぐらいは取るけど」

「じゃあさっさと寝れば?」

「それでも『姫』が外に出てるのに一人で休むってのはね」


 もし侵入者がいなくて寝ていたとしても、ハルちゃんが二階から降りて来た時点で気付いて起きていたに違いない。

 結局、こうして声をかけるか、昨日のように見届けているかの違いしかないのだ。


「という訳で、ここで見ているよ」

「あたしのことは良いから寝てて。敵が来ても大丈夫だから」

「『崩色唱』も満足に使えないくせに?」

「…………」


 むーっと頬が膨れた。年不相応に子供っぽくて可愛い。


「ほら、事情は知ってるんだし。気にしないで。それよりも試したいことがあって出てきたんでしょ? どういうことするつもりなの?」

「……はぁ~……」


 どう言っても俺が帰らないことを悟ったのだろう。

 観念したのか、大きく息を吐きだしてからこちらへと歩み寄ってくる。


「いっ!?」

「? なに?」


 月明かりに照らされて、初めてその姿をしっかりと見た。


 今まで暗がりだったせいでよく見えていなかったが、なんという格好で外に出てきてるんだ、この子は。


 チラチラと肌が透けて見えるぐらい薄く白いワンピース。その上から赤色の上着を着た、幼く見えるのにどこか扇情的なその姿。

 しかも歩いてきた時に上着の裾からチラチラとショーツっぽいものが見えた。情欲を掻き立ててくる。


「どうしたのよ。話、聞くんでしょ」

「えっ!? あ、ああ、うん」


 自分の服装がどれだけ男を刺激するものなのか気付いていないのか。呆然としながらも魅入っていたのにその視線すら気付いていない。

 いや、ただ単に俺が男として認識されていないだけかもしれない。

 そう考えればなんとか興奮を抑え込むことだって出来る。

 相手にとって俺は男じゃない。男として見られていない。こちらが興奮するだけ馬鹿らしい。……よしっ。自己暗示完璧。


「……………それじゃあ、お願い」

「その間が気になるけど……ま、良いわ。何をしに来たか、よね。実は昨日考えた結果、魔力が足りないせいで元通りの『崩色唱』が使えなかったんじゃないか、って結論に至ったの。で、魔力が充填された今なら、昨日使えなかった『崩色唱ルーダー』が使えるかもって試すためにここに来たのよ」

「魔力の充填……?」

「ああ、そっか。フラットって『崩色唱』のこと、どれぐらい知ってる?」

「どれぐらいって言われても……」


 『五法術ヴィンサー』を扱う上で学ばされた基本的なことを思い出す。


「魔力を使って、自分の想い描いた空想を具現化する、その具現化の際にそれぞれにある属性を伴っていないといけない、ってことぐらいかな」

「ふ~ん……じゃあフラットは『唱情術ルーダー』を介してどうしてそんなことが出来るのか、っていう理論までは知らない?」

「それに必要なのが魔力ってこと?」

「そ。魔力っていうのは言ってしまえば、ストックされた感情のことよ」


 嬉しそうにするでもなく、逆に面倒くさそうにするでもなく、ハルちゃんは淡々と嫌味なく教えてくれる。


「どの『不全発破マホウ』にも言えることだけど、使うには“想い”が必要でしょ? 想いをそのまま物理に変換して声としてぶつける『唱情術』然り、想いを口からではなく身体の部位に移動させあらゆる力を意図的に増加させる『練裂唱グロウ』然りね。『崩色唱』っていうのは、その想いの元となる感情を一度溜めてから使う『不全発破』なのよ」

「……根本的なことを聞くんだけど、なんでそんな面倒なことをする必要があるんだ? 直接想いをエネルギーにしても良いと思うんだけど」

「“想い”をそのまま物理に変換するのは簡単だけど、他の属性に変換するのは難しいのよ。だからどうしても必要な“想い”の強さが多くなっちゃうの。そうなると、『唱情術』みたいにその場での感情で使うのにはとてつもなく大変なのよ。それこそ、親を目の前で殺された際の怒りぐらいの感情が必要ね。そんな欠点を解消するために、わざわざ感情をストックするっていう「魔力」と呼ばれるものを『崩色唱』の中に定着させたって訳」


 そういえば……人それぞれの属性に則らなければ使えないのは、『崩色唱』を使う上で必要な制約だってのも習った。


 なるほど。難易度が高いからそういう制限を付けて、具現化しやすい方向へと持っていってるって訳だったのか。


「で、昨晩とさっきまでとで魔力をある程度作り終えたから、今日『崩色唱』が元通り使えるかどうかを試しに来たの」

「ふ~ん……ちなみに、魔力ってどうやって作るんだ?」

「どうやってって言われても……その日あったことを思い出して、苛立ったり悲しかったりとか、そんな感じで想いの振れ幅があったら、頭の別の場所にもっていくイメージを作って、何回も何回も思い出して、何回も何回も同じことをやって、そうやって記憶の中から引っ張りだしてもどうも思わなくなるまで繰り返していくのよ」

「なんか……聞いてもよく分からんけど、しんどそうだな」

「しんどいわよ。特に今なんて昔の力を取り戻せてない焦りが魔力への変換中に何回も何回も過ぎって、その度に感情が沸いてくるんだから。魔力だけ貯蔵されてきてる自分にもさらに焦ってそれでまた魔力を変換できたりして……もう無限ループよ」


 魔力のストックに上限が無いから無駄ではないんだけどね、と自嘲するかのように苦笑いを浮かべて話を締めたが、正直なんて言って良いのか分からなかった。


 感情が振れれば良いということは、マイナスの感情でも良いということ。

 今、力を取り戻せない自分への焦りで魔力を作り出しても、その作り出した魔力を有効活用できない自分にまた焦り、また魔力を生み出し、それにまた焦り……と、一見永久機関的で便利に思えるが、しかしそれは同時に、その度に悲しい思いをしなければいけないということになる。

 もし上限でもあればそこで歯止めが利くのに、上限がないからいくらでも続けられ、止めるキッカケも無く続いてしまうから、余計に辛くなってしまって……。


 その小さな身体に、どれだけの無茶を詰め込んでいるのだろう、この子は。


「さて……それじゃあ説明も終わったし、そろそろ試してみようかな」


 立ったまま、スッと手の平を地面へと向ける。

 ちょうど俺とハルちゃんの中間ぐらいの場所。

 そこ目掛けて目を瞑り、何やらブツブツと唱えだす。


「……………………」

「……………………」


 だがしばらく待ってみても、何も起きなかった。


 でも、失敗? とは声をかけられない。

 そんな結果を急かすような言葉、相手をイラつかせるだけだ。その言葉で良いことなんて何一つ起きない。どうせ彼女が満足するまで見守り続けるつもりなんだ。静かに待っていよう。


「…………ダメ、ね」


 苛立ちを募らせながらも、ハルちゃんは冷静にどうすれば良いのかを思考し始める。


「あ、先に戻っても良いのよ。本当に」


 集中を始めるその前に、ずっと目の前に立っている俺に気を遣ってくれた。


 というか、こんな近くで見られていては集中できないことこの上ない。これは俺のミスだ。


「いや、ハルちゃんが終わるまで待つよ。ハルちゃんこそ、俺なんかに気を遣わないで、いくらでも思うことを試してみなよ」

「……いつ終わるか分からないわよ?」

「だから、それで待つことになる俺なんか気にしないでって。ハルちゃんが満足するまで見ているのが、俺が今満足することなんだから」

「…………あっそ」


 素っ気無い返事の後、再び思考を始める。


 そんな彼女を眺めながら、屋敷の壁にもたれかかるように地べたへと座り、空を眺めるようにしながら意識だけをそちらに向け、相手に意識されないよう努める。


「『唱情術』は、想いの力を物理的に具現化する。『崩色唱』はその具現化の際、唱えている人それぞれにある属性を一度介することで、物理を別の何かへと変化させる。だから……その属性のフィルターに通す際に、『換核ヒメア』が邪魔をしてる? だから、その邪魔になるものを避けるように、フィルターを通すように……原理的にはそうだけど、もっともっと、具現化したい現象を……明確に、順序良く作ることで……きっと、邪魔されても、向こう側に…………」


 風に乗って聞こえてくる言葉の意味はあまり分からない。

 思考が口から出ているのではなく、口に出しながらも思考するタイプなのだろう。

 頭の中で考えたことを口に出して耳に入れつつ、他のこともまた頭の中で並列処理的に考える。

 師匠のところにいた頃に何人が同じような人を見てきた。その人は、その人にしか読めない文字を書くことでそれをやっていたが。


 なんて思い出していると、再び同じ姿勢を取り、挑戦するハル。


 すると狙い済ましていた箇所の地面から、小さな爆発が起きた。


 ちょうどハルちゃんの膝ぐらいまでの高さまで火柱が上がる。


「おっ」


 成功か? と思ったが――




 その爆発した箇所から、『影陰かげかくし』が生まれてきた。




「っ!」


 ゾゾゾゾ……! と六体ほど生まれてくる。

 爆発の規模が極々小さなもの――それこそ俺の指先から手首までの直径ほどしかないのに、だ。


 だがまだ完全じゃない。


 すぐさま視界の端で廻し続けていたリールを止め、その両手に装着された拳手甲で生えてくるように現れていきている『影陰』を、地面へと押し戻すように飛び掛り押さえ込む。


 発生場所の上で殺せたからだろう。

 そこから被害が広がることは無かった。


「ふぅ……」

「あ……あ……!」


 燃えた箇所が芝へと戻り安堵する俺とは対称的に、ハルちゃんは自分がしでかしてしまったことを激しく後悔してしまったようで、顔を青くしてしまっている。


 ミュロイドの『影陰』発生量から見ると当然と言えば当然のことだけど、ここで『崩色唱』を取り戻すのに尻込みされるのも困る。


 ガンガンガンガンガン……!


「っ!」


 いきなり地面を殴り出した俺を見てビクりと震える。まあ俺だって同じことをされたら同じ反応を取る。


 ただ今は、急いでこの『五法術ヴィンサー』を解除したかった。


 そうして五十の耐久度を全て地面を無駄に殴ることで使い果たした後、『利具』を嵌めていない右手でそっと、ハルの頭を撫でた。


「とまぁ、こんな感じでいくらでも『影陰』は倒してやるからさ。何度も試してくれよ。近くで発生する『影陰』なんてこうやってすぐに対処できるから、失敗なんか気にせず、どんどんやれ」

「……………………」


 しばらく、俺の顔を見た後、コクッと一つ、頷いてくれた。


 ここにいる以上、自分で戦う力は何よりの安心に繋がる。

 だから元の力を取り戻して欲しい。


 ちょっと『影陰』を発生させてしまっただけであそこまで怯えてしまう子なのだ。

 本当は怖がりで、日頃は強がっているだけなのかもしれない。


 そんな彼女が安心してこの屋敷に住んでいられるようにするためには、元の力は必要不可欠。

 だからそのためにも、彼女をいくらでも手伝ってやろう。


 そうでなければ俺の任務も、達成なんて出来やしないだろうから。

 今日また応募用に手を出せなかったので明日はお休みです。

 代わりに少し長くした。

 っていうか応募用が間に合う気しないんだけど…マジヤバイ。

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