プロローグ
黒々とした煙が立ち昇り、空の茜へと溶けていく。
そんな光景を、つい呆然とした面持ちで眺めてしまった。
急いで消さなければいけないのに。
この、住むことになっていた俺の建物を燃やす火を。
広がる、熱いオレンジと赤の塊を。
でなければ、このまま住むところが無くなってしまう。
「…………」
そこまで分かっているのに、腕も脚も、動いてはくれなかった。
足掻いて足掻いて、井戸から水を汲みこの勢いある火にぶつけ続け、それでも留まらない現状に、ついに心が折れてしまっているせいだろう。
諦める訳にはいかない。
そう己を鼓舞しても、上辺を撫でるだけで芯まで届かない。
活力にならないその応援は、何の意味も成さなくなってしまっていた。
「…………っ」
ふと、強い風をその身に浴びる。
風向きが、燃え朽ちる小屋から隣にある堅牢な屋敷へと、向きを変えた。
このままでは、今日から女の子二人が住むことになっているその屋敷に、飛び火してしまうかもしれない。
そう、どこか冷静に考えることが出来た時、ようやく心の芯を再び固定化することに成功した。
消さなければいけない……っ!
その、使命感という包帯のおかげで。
先程までの自分と同じように、折れた心で足を止め、その火事現場を見上げる一人の少女と……燃やした張本人にして、最初からその火を消そうともせず、何やらブツブツと呟き続けているもう一人の少女へと視線を向ける。
その視線に気づくことなく、二人は相変わらずそのままだ。
手助けをアテにした訳じゃない。
ただ、その姿を見て、心を元気にするエネルギーをもらおうと思っただけだ。
使命感で繋がった心は、自分が何をしなければいけないのかを確認することで、活力を得る。
そう。
俺はただ、この二人を守るという任務を言い渡されたのにここで諦めるわけにはいかないという、当たり前なことなのに考えることが出来なくなっていたことを、再確認したかったのだ。