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部屋のキオク2

あの日から彼女は来なくなった。私に言葉を残して。

 しばらく一人が続いた。あの狭い所に一人。どこにも行けず、何もできず。

 また一人になる。そう思って怯えていた。

 どれぐらいそうしていただろう。もうわからない。

 彼女が去ってどれぐらい経っただろう。もうわからない。

 窓からの光が消えては差し、消えては差し……それをずっと見ていた。

 そんなある時だ。不意に多くの光が部屋に降り注いだ。突然のことに驚きながらも、急いで開けられた扉を見た。もしかたら、彼女が帰ってきたのかもしれない――そんな希望を胸に秘めて。

 しかし、そこにいたのは彼女ではなかった。

 見知らぬ男女二人。二人は雫を見下ろすなり、

「代わりに来たよ」

 代わり? じゃあ……

「じゃあ、カノジョは……?」

「あの人はもう来れなくなったの。ごめんね」

 来れない? 何で。何で。何で。

 また来るって言ったのに。

 さよならって言ってないのに。聞いてないのに。

「だから僕たちがこれからは来るよ」

 でも、彼女は来ない。

「しばらく寂しかった? もう大丈夫よ」

 と、その時、私は口を開いた。

「本当にもうあえないの?」

 何度も言われているけど、認めたくなかった。

 それを認めてしまうといけない。認めない。でないと今まで彼女が来てくれたこと、彼女と行った場所……その全てが、初めから何もなかったことになるような気がして。

 しかし、返ってきたのは残酷な現実だった。

「ごめんね……もう」

 その時初めて彼女の不在が、ぐっとその小さな体にのしかかった。

 もう彼女は来ない。

 来ない。来ない。来ない。来ない……。

「うん。わかった」

 だが、表面上は明るく振る舞った。狙い通り、彼らにはその悲しみは悟られなかったようだ。二人は安堵のような表情を浮かべた。

「じゃあ、よろしく」

 女子生徒に言い残して、男子生徒が帰っていく。

「私はまだしばらくいるわね」

 女子生徒は柔らかく微笑んだ。そこかその表情が最後の彼女と重なった。と、その時あるものが頭に浮かんだ。

(あの言葉……)

 そうだ、彼女があの日言ったあの言葉。

 ならせめてあの言葉だけは、彼女の最後の頼みだけは叶えてあげよう。

 今はもうそれしかできないから――


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