表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/44

5話

 少女と二人残された鳴は途方に暮れていた。そもそも、彼女は何者なのか。あの一瞬だけでも聞いておけばよかった。

「ねえ、ナルっていうの?」

 少女は相変わらず話しかけてくる。めげずに話しかけてくる少女に鳴もとうとう観念した。しゃがむと目線を少女に合わせた。

「そうだよ。僕は丸山鳴っていうんだ」

「ふーん」

 少女はそうつぶやく。興味があるのかないのか微妙な口調だ。

「私、雫っていうの」

 そういえばさっきの会貝さんも言っていたなと、鳴は思い出した。とりあえずは雫と呼んだらいいだろう。

 ただ相手をしろといわれてもどんなことをしようか――鳴が雫の扱いに困っていると、彼女がほんの少し鳴の元へと近づいた。何をするのかと鳴が見ていると、

「ねえ、ナル、外に行ってもいい?」

「だめなんじゃないの? さっきの人もそういっていたし」

「ううん。キョウヤが言っているだけ」

 鳴は一瞬迷った。少しぐらいいいんじゃないか。どうせ見ていれば大丈夫だろうし……いや、やっぱり駄目だ。成り行きとはいえ任されている。しっかり言われたことぐらいしないと。

「それでもだめだ。藍貝さんが帰ってくるまで待とう」

 雫はなおも何か言いたそうな顔をしていたが、やがて拗ねたように背を向けると、とてとてと鳴から離れていった。そのまま、しばらくいじけているように部屋の隅で何事かをしていた。だが、それにも飽きたのか、また鳴の方へ歩いてきた。

「少しでいいから」

「それでもだめ」

 しかし、鳴は考えを変えない。そんな鳴の態度に雫もとうとう観念したようだ。

「じゃあ、ナルあれ取って」

 その小さな手が指したのは、部屋にある棚だった。その上には何冊かの辞書のような厚い本が置いてあった。それを読みたいということだろう。

(まあ、それぐらいいよね)

 外に出してあげられないから、部屋内だけでも好きにさせてあげよう。

 鳴はその本の一つを手に取った。思ったより重い。鳴は何とかそれを雫の前に運んだ。

 床に本を広げて少女はその本を読みだす。鳴は伸びをしながらその本を覗いた。どうやら日本文学の本のようだ。挿絵が所々入っているが決して子供向けの本ではない。

 その本を理解していると思った。しかし、雫はその本を適当にぱらぱらと見るとすぐに、本を閉じた。

「わからない。別のにして」

 さすがの鳴も、素直には従わなかった。

「他のも同じような感じだよ。またすぐに飽きるんじゃないの?」

 雫はそっぽを向いている。鳴は一つため息をつくとさっきの隣の本を手に取った。これはどうやら科学の辞書のようだ。それをまた雫の前に運んだ。

 小さな少女はまた、その身の丈に合わない本を開きだす。だが、これもまともに読んでいる様子はなく、ぺらぺらと適当にページをめくるとまたすぐに本を閉じた。そして鳴を見つめた。彼は、しばらく無視を決め込んでいたが、耐えかねて本を運んだ。それを雫がめくる。終わったらまた鳴を見る……。

 そのまま繰り返されること数回。鳴の体力と共に棚の本の殆どが元の位置から消えようとした時、扉が開いた。

「ごめんね二人とも……って何しているの……」

 そこには、床に山積みにされた本を見て唖然とした藍貝がいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ