3話
女子生徒と別れて歩くこと数分、鳴は一つの教室にたどり着いた。
教室、といっても外見からは全くそれと分からない。見た感じでは扉が一つ、ぽつんとついているだけだ。それもよく見る横に引くのではなく、ドアノブが付いていて開閉するタイプの物だった。
ドアに手をかける。鍵はかかっていないみたいだ。すんなり開いた。
中には誰もいない。あるのは、決して広くない空間。扉の反対側に、これも大きいとはいえない窓。それに部屋の中央には長机が一つに、それを囲むようにいくつかのパイプ椅子が置いている。そして、部屋の周囲を囲むように本が詰まった棚が置いてあった。それらのどれもが色褪せており、ここがどれだけの間手入れされていないかを物語っているようだ。
(まあ、待っていれば誰か来るよね)
改めて、その部屋を見まわした。すると何か違和感を覚えた。
床や棚は汚れてはいるもの、埃らしい埃は積もっていない。新しい部屋にあえて古い物を使っているだけのようにも見える。
と、そこであるものがあるのに気がついた。
一つの棚の陰に、まるで隠すように日本人形が置いてある。鳴の膝ぐらいの大きさだ。花柄の赤い着物を着て、鮮やかな黄色の帯を身に着けている。短めの黒い髪には、帯の色と同じ黄色のリボンがかかっていた。鳴には専門の知識がないが、その人形は古めかしいという感じは無く、むしろ、何か生き生きとしたものが感じられた。まるで、さきほど誰かが作って、ここに持ってきたように。
(こんなところに)
こんなのいつ使うのだろう。いや、使わないからこそここにあるのかもしれない。せめて棚の上にでも置いた方が汚れないだろう。
鳴が持ち上げようと手を伸ばした。すると奇妙なことが起こった。
鳴が何度も手を伸ばしても一向に人形に手が届かない。いや、違う。確かに手は人形をとらえている。じゃあどうしてだろう。
もう一度手を伸ばす。今度はしっかりと人形を観察する。すると、人形が……よけた?
「うわっ!」
鳴が見ている前でその人形が急に動き出した。その人形?――いや、違う。人形じゃない。少女だ。
その少女は一瞬ためらう様な素振りを見せたが、とてとてと呆然としている鳴の近くに歩いてくると、
「だあれ?」
少女は鳴に話しかけてきた。