31話
柚木に関してはほとんどわからなかった。
ほかの場所なども探したがカノジョが残したと思えるものもあの本のメッセージ以外みつからなかった。
今日はどこを探そう、そんなことを思いながら鳴がいつもどおり古教室の扉を叩いた。するといきなり雫飛び出してきた。少女はひどく焦った様子で、
「鳴、本がなくなったの!」
鳴のもとに飛び込んできた。
慌てて雫と部屋中探したが、あの図鑑はみつからなかった。たちまち雫の顔に悲しみが満ちる。それを見かねた鳴は、
「わかった。僕が探してくる」
鳴は古教室を出るとまず図書館に向かって図鑑の棚を探した。しかしそこには同じものはなかった。
「鳴、どうしたんだい?」
と、藍貝が現れた。
「あ、藍貝さん柚木さんの本がなくなって……」
鳴は途中で言葉を止めた。藍貝の右手に何かが握られている。そして直方体のその物体の正体に気がつくのにそう時間はかからなかった。
「なんで藍貝さんが……」
藍貝の右手に握られていたものは今しも鳴の探していた本だった。
ある可能性が鳴の中に浮かび上がった。だがそれも数秒――鳴は自分でそれを否定した。
「藍貝さん、借りていくなら一言かけてくれたら」
嘘だと信じたかった。
藍貝が偶然借りていっただけだと思いたかった。そのとき偶然人が居なくて、さらに偶然誰とも会ってなくて誰にも言えてなくて、それを今偶然見つけただけで……。
鳴は藍貝の手から本を受け取ろうとした。
あと少しというところで、しかし藍貝は右手をすっと高く掲げた。淡い希望を全て否定するかのように。
「鳴、もう雫に関わるのはやめろ」
藍貝は忽然と告げた。