部屋のキオク 0
少女が教室で一人いた。
本棚と机にパイプ椅子しかない、そんな質素な場所に居た。
少女はこの場とはおおよそ場違いな赤い着物を着ている。真っ黒な髪の毛は目の少し上で綺麗に切りそろえられている。一見すれば精巧な日本人形に見える彼女は、しかしそれでないことを証明するかのようにぴょこぴょこと歩き回っていた。
(暇だなぁ……)
少女はずっとずっと一人だった。
今日は何をしようか、でも一人じゃなにもできない。ただただこの狭い場所を毎日歩くだけだ。何の変化のない。同じことだけが延々と続く日々。
この部屋には誰も訪れない。埃が積もってしまった椅子や机は汚く汚れていた。こんなものに見向きする人はいない。私と同じだ。
いくら変化を望もうとそれは決して訪れない。何度願おうとも手に入らないもの。そんなことは長年のことからよくわかっていた。
どうせずっとこのままだ。ほとんど諦めていた。もう誰かと関わることは。
そんな時だ。私のもとにある変化が訪れたのは。
今まで開くことことのなかった、この部屋唯一の扉が何かを出現させた。
それは少女だった。制服らしいものを身につけている。この学校の生徒だろうか。
「あなたは誰?」
彼女は私に少し驚いたような表情を見せたが、
「こんにちは、私は朝霧柚木。ちょっと迷っちゃて……君も迷ったの?」
それがカノジョ――ユキとの出会いだった。