26話
「さあ雫、行こうか」
貉の元を訪れた数日後、鳴は雫と一緒に古教室を出て校内へと繰り出した。
鳴は雫が見つからないよういつもより注意して移動した。いつもより早いせいか、まだ校内はざわざわとしている。ちょっとでも油断すれば誰かに見つかってしまう。さっきも二人組の女子生徒と鉢合わせしそうになったので、物陰に隠れた。
彼女らが過ぎ去るのを待っていると、後ろから雫が腕の裾を引っ張ってきた。
「鳴、今日こそなにか見つかるといいね」
ここ数日間鳴は放課後になると、雫と一緒に図書館に行っていた。時々狐露も姿を現して手伝ってくれた。だがそれでもカノジョに繋がりそうなものはなにもみつからなかった。
「うん、なにか見つかるよ」
だが諦める気はなかった。それに必ず見つかる、という予感もあった。いや、なんとしても見つけるという覚悟にも似たようなものがあった。
二人組以外には特に危険な場面もなく、図書室についた。いつ通り死角に席を決めると、鳴は本を持ってきた。今日は図鑑を中心に探していく。
はじめの一冊に手をかけて開き始めた。昆虫の写真や絵がどんどん飛び込んでくる。だが、カノジョに関するものはなにもなかった。
次の本、ない次の本、ない……何冊か同じことを続けたがどれも同じだった。
「お疲れ様」
と、そのとき誰かに声をかけられた。振り返るとそこには狐露がいた。
雫は狐露のことをちらっと見ると、それだけですぐ何事もなかったように本に没頭した。
狐露はそんな雫の様子を見ると鳴に向き直った。
「意外と熱心なのね」
「雫、確かに思っていたより――」
「君のことよ」
狐露はじれったそうに鳴のことを指した。
「正直、始めて君と会った時にはここんなことまでやると思っていなかったわ」
「約束したんです」
あの時、雫に一緒に探して欲しいと頼まれたとき鳴は嬉しかった。ひたすらに鳴を拒み続けた雫が、やっと自分のことを信じて教えてくれた。
それと同時に雫のことをなんとしても助けてあげたいと思った。辛いことを経験しそれでもカノジョ、との約束を果たそうとする雫を応援したくなった。
そしてこの二つが重なり、小さな座敷童子と約束した。必ずカノジョのお願いを叶えると。
「約束したことを守りたいんです。雫との約束を」
「うん十分」
狐露は満足したように鳴の肩をぽん、と叩くと自分も本に手を伸ばしてめくり始めた。
(絶対に見つけるんだ)
いまや雫だけでなく、鳴の目標にもなっていた。鳴も本を手にしてまたページを捲り始めた。