25話
その狸は旧校舎にくると階段を上り、二階で進むのをやめた。
その狸が止まるったのとほぼ同時に女子生徒が狸の目の前からやってきた。背が高く、小さな狸のことなど見過ごしそうだ。しかし彼女は狸の目の前ちょうどで足を止めた。
「あの子のこと、認めたのね」
彼女――狐露が狸に話かけた。狸は何の表情も示さない。
「聞いていたのか……」
その狸――貉がバツの悪そうなこえでいった。
「認めてはいない。いくら俺でも知らんことには対処できんからな。それだけだ」
「私にも時々言うよね、その言葉」
貉はさらに狐露から目を背けるとそっぽを向いてしまった。一方の狐露はくすり、と笑みを浮かべた。貉は少しむっとしたがなにも言わなかった。
「それより、あのことはどうなったの?」
狐露が笑みを消して真剣な表情で貉に聞いた。
「進捗はなしだ。鳴には言っていないが俺はあいつ(・・・)、が怪しいと睨んでいる」
貉も狐露を見上げると同じく
「……彼ね」
貉は外を見た。曇っているのか夜空には星が二つしか見えなかった。どちらも同じぐらい明るく輝いている。と、そのうちの一つに雲が掛かってきはじめた。その星は飲み込まれまい、と一層輝きを増したかのように見えたが、結局雲に隠れて見えなくなってしまった。
「まあ誰であれ用心することに変わりはない。……それより言いたいことが一つある。今の時間帯は化けるな! 心霊現象がなんだかんだって騒がれるぞ」
「大丈夫だって、もしそうなっても脅かして帰らせればいいじゃない」
のんきに近場を歩き回る狐露に、貉の怒りは更に盛り上がった。さらに声を荒らげて、
「そもそも重要なのはそんなことをしなくてもいいようにだな……」
「はいはい、じゃあ私行くね。用事も済んだし」
貉がなおも続けようとするが、狐露はそれを無視してそのまま行ってしまった。もちろん女子生徒の姿のままだ。
貉は怒りの眼差しでその背を睨めつけていたが、彼女が視界から消えるとそれを収め、自分も人間に化けた。
「もし脅かすなら多い方がいいな」
微かに笑みを浮かべると、自分も狐露の消えた方向に行ってしまった。