2話
やっと授業が終わった時、鳴はくたくたに疲れていた。
まだ帰れない。鳴は懐に畳んで入れておいた手紙を取り出した。『本日の放課後、古教室に来るように』
担任の先生は大丈夫だと言っていた。それに教員からの手紙に応えないのも問題だ。
鳴は教室を出て階段のある場所まで行った。そこは我先にと階段を降りようとする生徒でごった返していた。
彼の通う高校には生徒数が多い。自然とこの時間帯になると階段付近はとても込み合う。それに伴い、学校の規模も大きめだ。昔は今の三分の一ぐらいだと聞いたことがあるが、老朽化による増改築のおかげで現在のような大規模な学校になった。その分、今は使用されていない部屋も多い。生徒はおろか、教員でさえも全ての教室を知らないというらしい。
それに伴って使用される通路も限られてくる。古い校舎への通路で使われているのは、ほんの一握りだ。埃などが積もって虫の住処になっているところも珍しくない。
鳴は、人混みがある程度落ち着くまで待ってから階段を降りた。そして、玄関とは逆方向に向いて歩き始めた。地図によれば一番古い校舎の東の端にあるらしい。ここは通ったことはないが、歩いていたらすぐに着くだろう――そう思いながら鳴は未知の場所へ一歩踏み出した。
しかし、そう簡単にはいかない。
思っていた以上に複雑な場所にあるらしく、何度も廊下を行ったり来たりを繰り返していた。いい加減歩き疲れてきた。
でも、行かなくちゃいけない。
歩は止めない。そのまま角を曲がろうとした時、人の気配を感じて、慌ててその場に留まった。現れたのは女子生徒だった。鳴は彼女を見て、思わず息を飲んだ。
身長は鳴より高い。決して鳴は身長が小さいほうではないのが、この距離では上目遣いにならないと顔が見えない。その顔はかわいらしい、というより美しいといったほうがいいかもしれない。背中に流している長めの髪は、茶色に少し金色が混じったようなどこか不思議な色だ。
「す、すいません」
鳴はかろうじて声を絞り出した。彼女は何でもないという風に柔らかく微笑んだ。その表情もどこか大人っぽい。
「君は新入生?」
「あ、はい」
彼女は、ふぅんと呟くと鳴をじっと見つめた。鳴も彼女の方を見ていたが、すぐに恥ずかしくなり視線を外した。と、その眼が新たなものを捉えた。
手紙だ――鳴が先ほどから握りしめている手紙が目に入った。先ほどから苦労させられている手紙。もしかしたら、この人なら教室の場所を知っているかもしれない。
「あの、先輩……?」
鳴はためらいがちに彼女に声をかけた。
「この場所わかりませんか? ちょっとまだ学校に慣れてなくて」
鳴は手に持っていた手紙を見せた。
「その教室なら、ここをまっすぐ行ったところにあるわよ。結構近くまで来てたわね」
「ありがとうございます」
「じゃあね。また」
そういうと鳴の脇を通ってそのまま通り過ぎて行ってしまった。