22話
眠った雫を運びながら図書室から出て古教室に戻ると、狐露にとにかく問いただされた。初めは黙っていた鳴も次第に躱しきれなくなり、ついにカノジョのことを狐露に話した。
「……つまり、その人に関する探し物をするってためにこの子をあんなところまで連れてきたの?」
全てを聞いた狐露は冷静に答えた。その口調や表情は鳴を責めるのではなく、かといって肯定の響きもなかった。
勝手に雫を連れ出したのだ。それにあんなことがあった後だ。どんなことを言われても文句は言えない。もしかしたらすぐにこうやって外出もできないかもしれない。いや、それならまだいい。カノジョについてのこと自体ができなくなってしまうかもしれない。せっかく言ってくれたことが、雫の願いがたった少しの不注意で全て壊れてしまうかもしれない。
雫は今も眠り続けてる。その穏やかな顔が目が覚めた時にはどんな顔になるのか――考えたくもなかった。
次の言葉を待った。待った。待ち続けた。口が開いた。何を言われるのだろう。
「で、どう? 何か進展あった?」
しかし放たれた言葉は鳴の予想に反してはるかに軽みを帯びていた。意外なことにぽかんとしていると、
「どうだったの? 何かわかった?」
「……勝手に雫を古教室から出したことはいいんですか」
今度は狐露の方がきょとん、と鳴を見つめていたが、やがて大声を立てて笑いだした。
「あはは、そんなこと心配してたの? それぐらい大丈夫よ。私はあの頭でっかちの貉とは違うから。誰にも見られなかったんでしょ? それなら何も問題なんかないわよ。むしろ私はあんたをほめたいぐらいだから」
狐露は鳴の頭をくしゃくしゃ、と撫でた。鳴は内心、ほっと肩を下ろして今までの緊張をといた。
と、そのとき何かが起き上がる音がした。そちらに目を向けると、うるさかったのだろうか雫が起きていた。雫は寝ぼけ眼で鳴を見、そして狐露を見た途端、寝起きとは思えない速さで鳴の後ろに隠れた。
「鳴、狐露に言っちゃたの……?」
雫は今しも泣き出しそうな目で見つめてくる。鳴はそんな雫を安心させるように、
「大丈夫。狐露も協力してくれるって」
雫ははじかれたように狐露を見上げた。鳴の言葉の真偽をたしかめるように。
「私は別に反対しないわよ。それにそんなことなら私も手伝うわ。二人じゃさすがに、あの本から探すのは大変でしょ」
雫の顔がぱあ、と輝いた。そして鳴の後ろから出て行くと、
「ありがとう狐露!」
ただただ純粋な笑顔が浮かんでいた。