21話
「これでも無いね」
鳴は本を閉じると、また別の本を手に取って隣の雫の前に置くと、それを開き始めた。所々にかわいらしいイラストが描かれている。小さな男の子が小さな女の子を連れて色々な場所を冒険するというストーリだ。
あのカノジョ、とかいう人もこんな風に、この不思議な少女に様々な物語を語り聞かせたのだろうか。ぼんやりとそんなことを思っていると手が宙をふらふらしていることに気がついた。
慌てて手を引っ込めると先程までの本を机の隅に置き、適当にとってきた本の山からまた別のものをとって開きだした。
鳴は雫を連れて図書室に来ていた。あの人――雫がカノジョと呼ぶ人のヒントは本にある。そして本を探すならば、あんな狭い教室よりもっと多いところで探した方がいい――誰にも見られないように、用心しながら雫をここに連れてきた。途中、誰かに雫を見られないか心配だったが、幸い誰とも遭遇しなかった。
もう時間も遅い。今図書室には鳴と雫、それにカウンターの向こうの図書委員の女子生徒がいるだけだ。こんな静かな空間だからだろうか。ページをめくる音でさえもひどく大きく思えた。いつの間にかその僅かな音すらも気になって、消すように心がけていた。訪れる静寂――あまりにも静かだったのだろうか。そのまま本探しを続けていると雫が目を擦り始めた。やがてすやすや、と穏やかな寝息を立てながら寝てしまった。鳴は一旦手を止めた。
疲れてしまったのだろうか。まあそれも無理はないかもしれない。いつも閉じこもっていたのだから。
寝てしまったし、そろそろ帰ろうか、そう思っていた時だった。
「あら、鳴じゃない。どうしたの? 二人仲よさそうにして?」
鳴はどきっとして背後を振り返った。聞き覚えがある声だったからだ。案の定、鳴の目に飛び込んできたのは突っ立ている狐露の姿だった。
「どうしてこの子とここにいるのか――しっかりとその理由を教えてくれないとね」