部屋のキオク 追憶 Ⅰ
「なあに?」
雫はじっとカノジョを見つめた。何を言われるんだろう。とても真剣な、きちんとした話に違いない。雫は静かに次の言葉を待った。カノジョは、言葉を選んでいたが重々しい口を開いた。
「ちょっと私のお願いを聞いてくれない?」
思ったより気楽な言葉で雫は拍子抜けた。カノジョのお願いならば、叶えてあげよう。それほどお世話になったんだし、私にできることならやろう。
「いいよ、どんなの?」
カノジョは安心したように、さらなる言葉を紡いだ。
「ちょっと私、あるものを人に盗られてしまったの。それを見つけてほしいの」
ひどいことをする人もいるものだ――雫は内心怒りが湧き上がった。
「私も探してたんだけど、どうも見つからなくて……。だから、雫にお願いしたいの。ちょっと調べていたらヒントが見つかったから言うね」
カノジョは立ち上がると、棚から適当な本を一冊取ってきた。まだ、まだ新しい本だ。カノジョがこの前持ってきて、よく読んでいる。内容を見せてもらったこともあるが、難しすぎてよく書いてることはわからなかった。
「たまに私が雫に本を見せるよね? どうやらその本の中に犯人がヒントを隠したらしいの」
雫は今までの本を思い出した。ここにある本、カノジョが他の所から持って来てくれた本、別の教室にある本……ちょっと思い出すだけでも相当の数がある。別に雫は嫌だと思わなかった。
「一人じゃ大変だろうから、誰かに手伝ってもらうといいよ。よろしくね。じゃあ、また明日」
カノジョは立ち上がって、歩き始めた。外に出る前に最後にもう一度振り返って雫を見た。その顔が刹那、ひどく悲しそうに見えたのは気のせいだろうか。しかし、それはわからない――カノジョはすぐに背を向けるとそのまま部屋を出て行った。
そして、その日がカノジョを見た最後の時になった。