19話
「ねえ、ナルちょっと聞いてほしいことがあるの」
また、本を取ってほしいのかな――気楽な気分で振り向いた鳴は、その小さな目に真剣なものを感じ取って、はっと顔を引き締めた。
これまで見てきたどの少女とも似ても似つかない。いつもは無邪気なだけだが、目の前にいる彼女からはそれらは一切感じられなかった。その代わりに猛烈な決意を感じた。姿は同じだが、遠くに感じた。
いつかの狐露の言葉がふと脳裏に蘇ってきた。
(僕より雫のほうが長生きしている、か)
いつもの雫は所詮、一面に過ぎないのだ。それを今、強烈に自覚した。鳴は椅子から立ち上がると、その座敷童に視点を合わせた。
「どうしたんだい? 何か困ったことでもあったかい?」
雫はまず安心したように一つ息を吐いた。そして自分を落ち着かせるように、大丈夫、と呟くと、
「実はナルに手伝って欲しいことがあるの」
「うん? いつもの本を取ること? それならこんな緊張せずにいつもみたいに言ってくれれば……」
「違うの」
雫はきっぱりと言い切った。思いがけず反論されて鳴は一瞬、たじろいだ。
「今回手伝ってほしいのはもっと重要な、難しいことなの。」
雫は静かに語り始めた……。