17話
狐露と離れたからなのか、貉の鳴に対する当たりはひどくなった。道中、ほぼ休みなく、鳴に説教めいたことを言い続けた。
「お前が鍵をかけるのさえ忘れなければ」
「だから、さっきから何度も言っているじゃないですか。僕はきちんと閉めましたって。決めつけないでください」
「じゃあ、今起こっていることを説明してもらおうか! 何でこんなことになった」
結局いつもここに帰結して、進展がない。
そんな中、鳴は二階の旧校舎の教室を隅から順番に探した。そして、ある奇妙なことに気がついた。
どの教室も、本が床に錯乱していた。それがどの教室にもそれがあった。
ただの偶然といってしまえばそれまでだ。実際、始めは気にしていなかった。でも何度も遭遇すると、いつの間にか鳴はそれをいつもの光景と重ねていた。
本を欲しがる小さな少女。取ってあげても、ペラペラと適当にめくっただけで、すぐに床に投げ出して別の本を欲しがる――そんな少女に見放された哀れな本たちを、目の前の本と重ねてしまった。
(もしかしたら)
雫が散らかしていったのかもしれない。ということは雫はこの近くにいるのかもしれない。鳴はさらに足を早めた。
奥の教室に近づくたびに、散らかっている本の冊数が多くなっている。最初は、苦し紛れの希望だったがここまで来ると、それは限りなく確信に近づいている。
(雫はいる!)
きっとこの近くに、この階にいる。探し続けて、残すは一番奥の部屋だけになった。
(ここに……)
扉には鍵がか掛かっていて開かなかった。地団太を踏んでいると、意外なことに貉が鍵を持ってきて開けてくれた。
「まあ、いるかもしれないな。あいつが戻ることが今考えることだしな。それに決着をつけるなら、俺なんかより疑われているあなたのほうがいい」
先ほどの様な怒りは感じられない。もしかしたら、話せば案外わかる人だったのかもしれない。
鳴と貉は扉を開けた。開けた瞬間、埃がぶわっと舞い上がる。
この教室だけは本が散らかっていなかった。ただ、隅の方で何か赤くて小さなものがうずくまっている。
やっと、見つけた――それは昨日から探していた赤色だった。
「だれ?」
それが口を開く。今にも消え入りそうな、か細い声が聞こえた。いつもとは別人のような声だ。それほどに疲れているんだろう。
貉がそっと鳴の背中を押した。それに後押しされたように鳴は一歩教室に踏み込んだ。
「ここにいたんだね。探したんだよ」
赤い何かは、はっと顔を上げた。悲しげな表情が、ぱっと笑顔にかき消された。それを見て、鳴も安心したように緊張を緩めた。
小さな座敷童に向かって、手を差し出した。少女がそれを握ると鳴は立つのを手伝った。
「帰ろう」
雫は頷いた。