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16話

 その後来た藍貝に事情を話すと、彼は狐露と貉を連れてきた。そして、二人にも事の顛末を話した。

「……つまり、あの子はどこかにいってしまったのね」

 つぶやいた狐露の様子はひどく落ち着いていた。相当堪えているはずなのに、その様子が少しも見えない。それが逆に痛々しかった。

「だから俺は言っただろう。あいつからは目を離すなと!」

 一方、貉は反対に怒りをあらわにして鳴を責め立てた。

「鍵のかけ忘れなんて不用心にもほどがある。何で何度も確認しなかった!」

「きちんと鍵はかけましたよ。それだけは自信を持って言えます。かけ忘れなんて有り得ません」

「じゃあ、この状況は何だ? かけ忘れ意外にありえん」

 しかし、貉はかたくなに譲らない。鳴も諦めない。この二人の平行線に終止符を打ったのは狐露だった。

「今はそれより何とかする方が先よ。だれに責任があるかは後回し。たぶんまだ校内にいると思うから手分けして探すわよ。私と藍貝で一階を探すから、貉と鳴で二階をお願い」




 教室を出た途端、あの声は聞こえなくなった。不安はなかった。廊下の電燈が点いていて暗闇じゃない、というのもあるかもしれない。

 適当な教室に入っては、そこにある本を手に取ってめくった。一階の教室を全て見終われば、苦労して階段を上がって二階を探した始めは楽しかった。一人っきりの探索は、いつもとは違う喜びがあった。初めてみる物ばかりで次々と興味は尽きることはなかった。何でも自分でしなければいけなかったが、その変わりどこにでも行ける。でも、収穫は無い。さらにだんだんと体が重くなってきた。

 これで最後にしよう――二階のいちばん隅の教室に入った。そこでも本を取ろうとしたが、何故かここだけ置いている場所が高い。背伸びしても届かない。

 それでも何とかしようとその場で手を目一杯伸ばしたりして工夫していたが、やがてそれらの本を恨めしく睨み付けると、その場にぺたんと座りこんだ。

(こんな時……)

 ナルがいたら取ってくれるだろうか。きっと頼めばいつもみたいに軽々と目の前に置いてくれるだろう。でも今はいない。

 私一人では何もできないのだ。誰かに頼る? 信頼できる人がいない。手伝ってくれるような人がいない。

 ……もう帰ろう。考えていると変になってしまいそうだ。立ち上がって、小さな手で扉を開けようとする。しかし、それはまるで壁そのものになってしまったかのように、ピクリとも動かない。

 その事実を認めると、また本の下に戻って、そこでうずくまった。

 教室は寒くはなかった。それなのに、何かがぽっかりと削げ落ちてしまったような寂しさを感じる。

 帰れもしない。もう本当に一人だ。誰にも見つけられることなく、ずっと。


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