15話
あの青年を信じていいのだろうか。
いつも来てくれる。本も取ってくれるし、多少無理を言っても聞いてくれる。もしかしたら、カノジョのお願いも聞いてくれるかもしれない。
言ってしまおうか。手伝ってもらおうか。二つを天秤にかける。しばらくは、ゆれながら均衡を保っていたが、片方がわずかに下がった。
(ううん、やっぱりまだ)
彼も突然来なくなった。まだ早い。もっと様子を見てからだ。
暗闇の中、青年が出て行った場所を見た。隙間から僅かに光が漏れている。小さな灯。何も照らすことのない燈。
(今度これが開くのはいつだろう)
また、あの時みたいにずっと開かないっていうことはないよね。きっと明日になれば開く――待ち遠しく思っている自分に気がついて、慌てて目を逸らした。
コンコン
と、その時ノックが聞こえてきた。何だろう、と思っていると突然部屋に光が入ってきた。最初はわずかだったそれは、ドアの軋む音と共に、どんどんその領域を広げている。
「さあ、おいでよ」
教室の外から声が聞こえる。優しく、いざなう様な声――だめだ、行ったら迷惑がかかる。だが、その言葉は反響を伴って何度も頭で再生される。
「さあ、おいでよ」
だめだ
「さあ、おいでよ」
聞いちゃいけない
「さあ、おいでよ」
行っちゃいけない
「さあ、おいでよ」
でも、外に行けばもっと本を探せる
「さあ、おいでよ」
お願いをかなえることができる
「さあ、おいでよ」
すぐに戻れば問題もない
「さあ、おいでよ」
――繰り返されるにつれ、それは甘美な響きを伴って、体を支配した。気がつくと、ドアが後ろに見えた。