14話
鳴は授業が終わると、雫の元へ行った。
狐露と話してから、雫のことが少しわかった気がする。それまで薄闇に隠れているように感じた雫が、少し見えてきた。
飽きもせずに、毎日本を見ている。そんな不思議な少女のことが少しずつ分かってきている気がする。
その日は藍貝が行く番だった。でも、鳴はあの教室に足を運んだ。特に理由はない。ただ、最近特に何もなければよく雫の元に行っていた。
相変わらず雫は変わらない。本を欲しがるだけだ。だが、鳴自身本を用意してやることを、あまり嫌いでなくなっていた。
教室に着くと鳴は何か違和感を感じた。
いつもはまだ活気がある。廃墟のようなこの場所にも、たった一人の住民がいるからだ。しかし、今鳴の目の前には無機質な机や棚がただただ、置かれているだけだ。それに、扉を開けた途端、雫が飛び込んでくる。にも関わらず、今日は何もなかった。
「おーい、雫。来たよー」
物音一つしない。もう一度呼びかける。声が教室に反響するだけで、それが終われば何事もなかったかのように、部屋は静まりかえる。
(まさか)
いや、有り得ない。
急いで教室に入って一通りの場所を見る。いない。もう一度探した。しかし結局、どこにも赤い着物を発見することができなかった。
「そんな……」
鳴は昨日見た小さな座敷童を思い描いた。赤い着物に黄色の帯――目立つであろうその姿を見つけることはできない。
雫の姿はどこにもなかった。