謙虚姫
人生において謙虚さというものは重要です。
それはお母様から頂いた素敵な言葉でした。
例え、自分がどんなに偉大であっても謙虚な姿勢は必要であるのです。
そう。私がこの国の姫であっても。
「ああ、姫様。今日も美しゅうございますなあ」
大臣が下品な顔で言いました。
私が美しいのは確かです。しかし、ここで天狗になってはいけません。
ここで「あたりまえなことを言わないでちょうだい」などと言おうものなら、王宮の間であらぬ噂が五つほどたつことでしょう。
「それほどでもありません。大臣も頭が美しく輝いておりますわ」
私は謙虚に返して、逆に大臣を褒めちぎります。
しかし大臣は妙な顔をして、そそくさとどこかへ行ってしまいました。
私は照れ屋さんだなあと思いました。
「あら、お姉さま。おはようございます」
大臣を見送っていると、後ろから声がかかりました。妹のエリサです。
「おお、私の美しい妹よ」
私は芝居がかった口調でエリサに抱き着きました。
エリサは私と同じように謙虚な子です。
「いえいえ、お姉さまこそ。美しい皺が出来ておりますわ」
謙虚な子です。
「そんな恥ずかしいですわ。……ええ、私は恥ずかしい。私もエリサのような美しい鼻があれば、この恥ずかしさも消えるというのに」
私は額の青筋を隠しながら、エリサの吊り上がった鼻を見ました。
「ああ、お姉さま。そんな風に自分を卑下してはいけません。いくらお姉さまが不細工だからといっても、そんな風に卑下してはいけません」
「今なんて言いました?」
「いくらお姉さまが不細工だからといっても、自分を卑下してはいけません。己を辱めることと、謙虚であることは違うのです。さあ、顔をお上げになってくださ……ボッファッ!」
私はエリサの大きな鼻の穴に、父上より頂いた王家のペンダントを差し込みました。
鍵の様な形をしたこのペンダントは、エリサの鼻の穴にぴったりとはまるのです。
これは一重に、幼少の頃からの行いのおかげでしょう。
「さあ、今こそ未来への扉を開くのです」
「ホネエハガ、ハヘテフハハイ」
私はペンダントを捻りました。
「ンガアアアア」
ああ、なんてはしたない声をあげるのでしょうか。我が妹ながら、恥ずかしい子です。
私はエリサを見て、やはり謙虚な気持ちを忘れてはいけないと思うのでした。