壊れかけのレイディオ
「ヒナゲシ! ヒナゲシ!」
チーちゃんが壊れたファービーみたいに言った。
チーちゃんは私の家で飼っているインコだ。
たまに変な言葉をしゃべけど、一体誰が教えているのやら……大体想像はつくけど。
「ヒナゲシ! ヒナゲシ!」
うるさいなあ。
私はチーちゃんの檻を軽く揺すって、黙らせた。
明日は期末テストだっていうのに、全く勉強が捗らない。参ったなあ。でも、やらないわけにもいかない。このままじゃ赤点は確実だ。
私は教科書を開いて、テスト範囲の復習を始めた。
ははあ、小野妹子ね。変な名前だこと。
「ホッキ貝! ホッキ貝!」
ああ、もう。
私は教科書を壁に投げつけた。
教科書の角が当たって、鈍い音が部屋に響く。
あっ、と思った。
やっぱりそれは思った通りで、隣りの部屋からドタドタと音がして、すぐに私の部屋のドアが開いた。
「何事かね!」
「うっさい。ノックくらいしろ!」
「やれやれ。日菜子は反抗期か? ん?」
「お兄ちゃんが嫌いなだけ。お母さんには反抗なんてしないもん」
「で、何の用かね」
お兄ちゃんは優等生みたいメガネをクイッと上げた。ニートのくせに。
「用なんてない」
「そういうなよ。人の部屋を叩いたからには用があるんだろう? な?」
お兄ちゃんは親友に呼び出された察しの良い主人公みたいに言った。友達いないくせに。
「うつ伏せ寝撲滅結社! うつ伏せ寝撲滅結社!」
お兄ちゃんが壊れたファービーみたいに言った。
またお兄ちゃんがチーちゃんに変な言葉を教えたのか、と私は憂鬱になる。
「あれ……? チーちゃんの台詞じゃない!?」
「どうした。俺の日菜子よ」
「小野妹子みたいに言うな!」
言ってから、はっとした。どうしてお兄ちゃんは、私が歴史で小野妹子の勉強をしていることを知っているのだろうか。
「ふん、甘いな日菜子。お兄ちゃんはなんでも知っているんだ」
確かに、お兄ちゃんはやたらと変な知識を持っていたりする。一日中ネットをしてるからだろうなあ。きっと。
「お前がこんなはしたないパンツを持っていることもな!」
お兄ちゃんがポケットからパンツを出して見せた。
なんとなく買ってみた、かなりきわどいパンツ。結局、一度も履いてないパンツ。
「死ね!」
「ヒナゲシッ!」
お兄ちゃんの腹に渾身のトーキックを入れると、断末魔を上げて部屋から飛んでいった。
もういや……
私は泣きそうになりながら、ベットに潜り込んだ。
枕に顔を伏せて、大声で叫んでみた。ちょっとだけスッキリして、すぐに部屋が静かになった。
はあ、もう寝よう。明日のテストは諦めた。
「うつ伏せ寝撲滅結社! うつ伏せ寝撲滅結社!」
すぐに、お兄ちゃんの壊れたファービーみたいな声が部屋に響いて私は起き上った。
本当に死んで欲しい。