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12年目のクリスマス

作者: みりん


 物心ついた頃から、僕にはクリスマスがなかった。

 クリスマスという存在自体知らなくて、小学一年生の時に友人に聞き、初めてクリスマスの存在を知った。両親にその事を問い詰めると、「この家にサンタは来ない」と言われてしまった。ショックだったが、いつか絶対来てくれる事を信じ、ずっと待っていた。そうしたら、いつの間にか僕は小学六年生になってしまっていた。

 そして、遂に僕はサンタを嫌いになった。



 クリスマスイヴ当日。もう二十三時になるというのに、両親は相変わらず帰って来ない。両親は共働きで、夜に働き、帰ってくるのはいつも朝だった。だから僕は、いつも一人で夜を過ごすのだ。いつもなら、この時間はとっくに寝ているのだが、今日は何だか目がさえて、眠れずに起きていた。

 テレビをつけると、相変わらず、クリスマス仕様のCMだらけで、サンタが映るたびに苛つき、たまらずテレビを消した。僕は体操座りをして、顔を埋めた。そうすると、学校の事が脳裏をよぎった。

 毎年、冬休みが始まる前に、クラス中が、クリスマスの話題で盛り上がるのだ。どんなプレゼントが欲しいかとか、今年こそは眠らずにサンタの正体を暴くとか、皆楽しそうだった。その中に僕はいつも入ることが出来なくて、そんな自分が惨めで、悲しかった。

 どうして僕の家にだけ来てくれないんだよ!

 憤りがこみ上げ、たまらなくなって僕は叫んだ。

「サンタのバカ!」

 その瞬間、玄関のチャイムが鳴った。

「……こんな時間に誰だろう」

 母さんと父さんだったらチャイムを鳴らさずに入ってくるはずだ。不思議に思いながら、玄関に向かった。

 玄関を開けると、そこには、見たことのない知らない中年のおじさんが立っていた。短髪に黒い無精髭を生やしていて、緑色のジャージを着ている。少し痩せていて、見るからに怪しい奴だった。

 おじさんは少し驚いて、バツが悪そうな表情をした。

「……どうも、サンタです」

 不審者だ。そう確信した。

 急いでドアを閉めようとすると、おじさんは手と足をねじ込み、ドアを力ずくで開けた。おじさんは僕を睨んでいる。僕は恐怖で声が出なくなった。

「……雪代奏君、かな?」

 僕は思わず頷いた。

 すると、おじさんはにやりと笑った。

「お前にプレゼントを届けに来てやったぞ」

 最近の不審者はサンタの真似事までするのだろうか。嫌味な事をするものだ。僕は、この不審者が酷く不愉快に感じた。

「いらないです。帰ってください」

 ドアを閉めようとすると、おじさんはドアを押さえ、それを制止した。おじさんをキッと睨むと、おじさんは眉を顰めた。

「いらないってどうゆうことだよ、折角持ってきたのに」

 性懲りもなくそんな事を言う不審者に、僕は腹が立って仕方がなかった。

「そもそも、うちにサンタは来ないんだよ」

 そう言うと、ドアを押さえつける力が弱まり、ドアが閉まった。ずっとドアノブを引っ張っていた僕は、玄関で尻餅をついた。

 僕は急いで起き上がり、ドアの鍵を閉めた。

「……サンタは来ないって、なんつう勘違いを……」

 おじさんはドアの向こうで何かぶつぶつと喋っていたかと思うと、ドアをドンドンと叩き、大声を上げた。

「おい、ドア開けろ。ちょっと出てこい!」

 僕は怖くなって、耳を塞いだ。

「い、嫌だ、帰ってよ!警察呼びますよ!」

 そう言うと、おじさんはドアを叩くのを止め、舌打ちをした。

 ホッと一息つくと、暫くして、カチャリと鍵が開く音と共にドアが開き、おじさんが怖い顔をして入ってきた。

「え、何で……」

 信じ難い光景に、目を丸くしていると、おじさんは僕の腕を掴み、外へ連れ出した。

「サンタがこんな鍵も開けられずにどうします?」

 おじさんは、曲がった針金を見せ、得意げに言った。

「ピッキングかよ!」

 おじさんの手を振り解こうとしたが、おじさんの力は強く、振り解く事は出来なかった。

 庭を歩き、車道に出ると、おじさんは手を離してくれた。掴まれていた所を摩っていると、車道に何かがあることに気づいた。そこには、オンボロのリヤカーと、それに繋がれた二匹の柴犬がいた。

「……何あれ」

「あれか?マイカーだよ」

「おじさんってホームレスなの?」

「サンタだっつの」

 そう言って、おじさんは煙草を取り出し、吸い始めた。

「……サンタって煙草吸うの?」

「あ?サンタは吸っちゃいけねぇのかよ」

 おじさんは僕の方に向けて煙を吐いた。僕がゲホゲホとむせると、おじさんはにやりと笑った。

「さっきお前、サンタは来ないって言ってたけど、一応毎年行ってたんだぜ?」

 おじさんは、煙草を吹かしながらそう言い放った。

「でも、いつも留守だった……」

 おじさんはそう呟いて、頭をガシガシと掻いた。

 僕はおじさんの言っている事の訳が分からず、怪訝そうに見つめた。すると、おじさんは僕を一瞥し、眉を顰めた。

「お前、俺がサンタだって、まだ信じてないのか?」

「……信じられない。留守だったとしても、さっきみたいにピッキングでもして入ればいいじゃん」

「それは俺のポリシーに反する」

「意味わかんない。さっき、それで侵入してきたくせに!」

 僕がそう喚くと、おじさんは不機嫌そうに舌打ちをして、リヤカーに乗り込んだ。おじさんはリヤカーの底をバンバンと叩き、無言で「乗れ」と合図した。僕がリヤカーに乗るのを渋っていると、おじさんは見兼ねて声をかけた。

「俺がサンタだって証拠見せてやるから、乗れよ」

 僕の胸は大きく高鳴った。この人は本当にサンタなのだろうか。見るからに怪しいし、テレビなどで見るサンタとはまるで姿形が違うのだ。正直、未だに信じることはできない。でも、何故か心の奥底では、この人がサンタであってほしいと願う自分が存在したのだ。僕は拳を強く握りしめた。

「わかった。おじさんが本当にサンタかどうか、確かめてやる!」

 そう啖呵を切って、僕はリヤカーに飛び乗った。



 勢いで乗ってしまったが、本当によかったのだろうか。一応一一〇番にすぐ発信できるように用意した携帯電話をポケットに忍ばせていた。だが、このおじさんがサンタではなく不審者だったらと思うと、不安だった。そもそも、リヤカーに乗るという時点でおかしいという事に気づけばよかった。僕は少し、後悔の念に苛まれた。

「あの……これからどこかに行くんですか?」

 恐る恐る聞くと、おじさんは涼しい顔で煙草を吹かした。

「うーん……とりあえず、空を飛ぶかな」

 それを聞いて、僕の顔から血の気が一気に引いた。

「やっぱり止めときます!」

 リヤカーを降りようとすると、おじさんに腕を掴まれた。

「おっと、男に二言はないだろ?」

 おじさんは僕の腕を掴んで、にこりと笑った。

 僕の人生が終わった。そう感じた。僕は諦めて、おじさんの隣に座った。

「……つか、空を飛ぶって、これでですか?」

 今僕達が乗っているのはリヤカーで、それを引っ張るのは柴犬二匹。サンタといえば、ソリにトナカイだけど、そんなものはどこにもいないのだ。でも、おじさんは得意げに笑った。

「まぁ見とけ。出発!」

 おじさんの掛け声とともに、柴犬とリヤカーが光に包まれ、トナカイとソリに変貌した。驚いている間もなく、それは空に向かって高く高く飛び始めた。

 その光景に、僕はただただ、驚くばかりだった。そうしている内に、ソリは更に高く飛び続けた。恐る恐る下を見下ろすと、そこには、僕の住んでいる街が米粒サイズで広がっていた。

「ふはは、どうだ、すごいだろ」

 おじさんは手綱を握り、豪快に笑った。

 これは「すごい」の一言で収まる事なのだろうか。こんなものを見せられたら、おじさんがサンタだという事を認めざるを得ないじゃないか。僕は何だか悔しくて、頬を膨らませた。

「俺はな、いつもクリスマスイヴの夜に、子供の親にプレゼントを渡すんだ」

「子供に渡すんじゃないの?」

「親伝いに渡してもらうんだよ。」

 それを聞いて、僕はハッとした。クリスマスイヴの日、両親はいつも仕事でいなかった。だからおじさんはプレゼントを渡すことが出来なかったのだ。

「クリスマスイヴの夜は、仕事でいつも両親がいないんだ」

「……なるほど。そういうことか」

 おじさんは、納得した様子で、ごそごそと後ろから大きな袋を取り出した。

「今までの分、今渡すな」

 おじさんは、大きな袋を僕に渡した。その中には沢山の包みが入っていた。

「……これって僕の?」

「そうだぞ。今まで渡せなくてごめんな」

 そう言って、おじさんは僕の頭をわしゃわしゃと掻き乱した。

 僕の瞳からは涙が流れた。

「僕にもちゃんと、サンタがいたんだね……」

 それを聞いて、隣でおじさんが微笑み、煙草の煙を吐いた。その瞬間、空から雪が降ってきて、僕は空を見上げた。

「ちょうど零時。ホワイトクリスマスだな」

 おじさんは、腕時計を眺めながら呟き、僕に微笑みかけた。僕は涙を拭って、それに応えるように、微笑んだ。

「これからはお前に直接プレゼントを渡さなきゃな。何かリクエストはあるか?」

「じゃぁ、毎年、今日みたいにおじさんとソリで空を飛びたいな」

 それを聞いて、おじさんは苦笑いをした。

「そういえば、サンタの服って、ジャージなんだね」

「いや、いつもは普通に赤い服に白い髭なんだが……またいないと思って脱いできちゃったんだ」

「あぁ……って、髭って付け髭なの?」

「秘密だぞ」

 おじさんはそう言って、口元に人差し指を立てた。僕は少しガッカリしたが、何だかおかしくて、フフッと笑った。

「……何がおかしい」

「いや、僕、おじさんに会えて良かったよ」

「……そうか」

 そう言って、おじさんは照れ臭そうに笑った。



 騒がしい目覚まし時計の音で目が覚めると、僕はベッドの上にいた。目覚まし時計を止めて、暫く呆然としていた。

 あれは夢だったんだろうか。枕元を見ても、プレゼントが置いてあるわけではない。僕は溜息をついて、ベッドを降りた。すると、足元に何かがあることに気づく。そこには、大きな袋があった。それは、おじさんに貰ったプレゼントだった。しっかり中身も入っている。

「……やっぱり、夢じゃなかったんだ」

 嬉しさがこみ上げて、僕は大きな袋を抱きしめた。

「おじ……いや、サンタさんありがとう」

 窓から朝日が溢れている。僕は初めて、サンタが好きだと感じることができた。来年のクリスマスが楽しみで仕方がない。

 メリークリスマス!



 どうも、こんなくそ暑い中、クリスマスの話なんて季節外れもいいとこですね。この話は学生の頃に、初めてちゃんと書いた小説でもあるので思い入れのある小説です。これを書いた当時も夏真っ只中で、少しは涼しくなるかなぁとか軽率な考えで書いていましたが、問答無用で脳が沸騰しました。涼しくなんてなれるはずがなかったです。

 さて、サンタって、なんで赤い服に白い髭、ふくよかな体なんでしょうね?むしろ痩せている方が煙突とか入りやすいんじゃね?何故太らせた?金持ちなのか。金持ち太りか。まぁ、それは置いといて、この話しに出てきたサンタは、そんなイメージとは裏腹に、小汚い中年おっさんで芋臭い服装に無精髭、そしてヘビースモーカーという、誰得?って感じでしたけど……うん、俺得です。妄想を繰り広げていたら、最終的にこんな感じになっちゃいました。なんということでしょう。とりあえず謝っときます。ごめんなさい。

 ちなみに、このサンタには、黒須三太という名前がありました。出せなくて、非常に残念です(棒)


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