第一話 すべてはここから始まる
大学生活を色で例えると何色だろうか?
一般的には、お寺の修行僧の様な我慢の時期を乗り越え、自由を手にした者からすると、恋や遊びに没頭するため、ピンクや黄色といったイメージかも知れない。医大なんかに行くと、勉強、勉強の毎日に終われるため、白衣の白や、手術着の緑色を想像するかも知れない。
俺が通う大学はスポーツに強い、体育会系の大学なので、熱血の赤なのかも知れない。
大学には大学の数だけ、いや、学生の数だけ色が存在するだろう。
そんな俺の大学へのイメージカラーは、最初灰色だった。
やりたいこともなく、頭の悪い俺は、勉強なんてすることなく、何となく入れそうな大学を選び、合格した。
それがここ、創世大学だった。
紹介がまだだったな。俺の名前は市川仁。高校の時は、ヤンキーとか目付きが悪いとか、エロいとか、自分が自覚するほど、とにかく浮いた存在だった。
だから、大学なんて行くまいとも思ってたし、うざったい親の手から早く離れたいがため、独り暮らしをすると心に決めていた。
だが、結果はどうであろうか?
何だかんだで大学に進学し、金がないため独り暮らしもできやしない。
「・・・最悪だぜ。」
そんな気持ちのまま、俺は創世大学の入学式に出席するため、創世大学へと続く山を道なりに進んでいた。
そんな俺は創世大学から少し離れた雑木林の中で、血まみれになりながら倒れていた。
ピーポー・ピーポー
救急車のサイレンが遠くから聞こえてくる。
その音が近づいてくるのと反比例して、俺の意識は徐々に遠のいていった。
次に目を覚ましたときは、近くの病院のベットの上だった。
ベットの周りには誰もおらず、ここがどこなのか確認が出来ない。
「痛っ!」
突然、足に激痛が走った。その痛みに堪えながら、痛みの原因を確かめるため、ベットの掛布団をめくり上げた。そこには自分の足を3倍以上の大きさに見せるほどのビブスで、足が固められていた。それと同時に自分の着ている衣服が、自分が来ていた、簡素なシャツとGパンから、病院の手術着に着替えさせられていることがわかった。
「確か俺は・・・」
独り言の様に呟きながら、俺は現状を整理し始めた。
俺の名前は市川仁。先月まで県内の有数の不良高校に通っていた。生まれつき目つきが鋭かった俺は、一年の頃から上級生から目を付けられ、毎日、喧嘩に明け暮れる高校生活を過ごした。
そのおかげで、腕っぷしと観察眼だけは誰にも負けないほど鍛えられ、二年の秋には学校を支配し、全生徒から恐れられる存在になっていた。
また、先生からも疎まれていた俺は、まじめに授業を受けていなかったにもかかわらず、留年することなく半ば強引に卒業させられ、創世大学に行きつくことになった。
そして、創世大学の入学式である今日、大学と最寄り駅を往復しているスクールバスには乗らず、最寄り駅から大学まで徒歩で向かっていた俺は、「キャーーッ!」という女の叫び声を聞いたんだ。
「そうだ・・・。それで俺はその声の元へと向かったんだ。」
そして、その声の発生場所にたどり着くと、一人の女の子が、赤・青・緑色したリーゼント頭の男達に取り囲まれていた。
緑色のリーゼント男が女の子の手首を掴んでこう言った。
「ようよう、姉ちゃんよー。なんで無視すんだよ」
昭和かっ!!
俺はそうツッコミを入れそうになったが、声になるのを必死に押し殺し、もう少し様子を覗った。辺りは草木が仕切りに生え並び、見通しが悪かった。また、この場所は大学からも少し離れていて、他の生徒が通りかかることも無い。たまたま俺が通りかかったのは、女の子の日頃の行いが良かったからであろうか。
そんなことをぼーっと考えていたら、今度は赤のリーゼント男が女の子の胸元にかけられていたペンダントを奪い取った。
「へー、高そうなペンダントじゃねえか?」
だから、昭和かっ!!
俺はまた心の中でツッコミを入れた。
そして、続け様に青色のリーゼント男がトドメのセリフを口にした。
「おっ、姉ちゃん、かなりかわうぃーねー!俺達とディズニーシー行かないー」
「そこは昭和で通せや!!・・・・・・あ」
あまりに期待を裏切られてしまったあまり、俺はつい声に出してツッコミを入れてしまった。
「見つかっちまったもんはしょうがねえや。」
「だ、誰だ!」
緑色のリーゼント男が、俺が突然現れたことに動揺を隠しきれないまま、昭和的なセリフを吐きすてた。俺はそんなのお構いなしに、女の子に話しかけた。
「おい、そこの女。もう行っていいぜ」
「えっ・・・」
改めて女の子を見ると、顔立ちは綺麗に整っており、それを更に引き立たせるかの様に伸びた綺麗で長い黒髪が印象的だった。そして、体型も今まであったどの女の子よりも整っており、服の上からでも魅了された。芸術とはまさにこの子のことを言うのではないかと思う。
その女の子は俺からいきなり声をかけられたので、大きくてクリッとした目を潤ませながら、こちらを見つめていた。
「だから、ここは俺が預かるから、早く行けって」
「・・・」
絶望的な状況からのいきなりの助けに、女の子の思考が追い付いていないのだろう。ついには反応が無くなってしまった。仕方ない・・・
「走れ!!!」
俺はこれでもかと言わんばかりの声を張り上げ、女の子に向かって叫んだ。
女の子はその言葉に体をビクンとさせ、そして、大学の方に向かって走り出した。
俺の横を抜けていく際に、女の子の甘くて優しい匂いが俺の鼻孔をくすぐった。
「さてと・・・」
女の子が走り去るのを見送りながら、再びリーゼント男達と対峙した。
「おいお前ら。よくも入学初日嫌なもん、見せてくれたな。」
俺は手と手を合わせ、指の骨をポキポキ鳴らし始めた。
「憂さ晴らしだ。全員、まとめてかかってきな」
そういうと俺はリーゼント男達に向かっていった。リーゼント男達を千切っては投げ、千切っては投げた。また、リーゼント男たちのリーゼントを千切っては投げ、千切ってはなげまっくた。
そして、リーゼント男達は一人、また一人と動かなくなり、そして、最後の赤色のリーゼント男のみになった。
男は手に持っていた何かを、俺に向かって投げつけてきた。
だが、そんなもの俺は造作もなく右へかわそうとした。
キラン
男が投げたモノが光った。
「え?」
男が投げたモノは女の子から奪ったペンダントだった。俺は咄嗟にそのペンダントをキャッチしようと、手を伸ばした。だが、あと少しという所で手が届かず、と同時に、キャッチしようとして・・・。
「・・・そうだ。俺、崖から落ちて。」
ペンダントをとろうとした俺は、バランスを崩し倒れた。だが、倒れた先が草木に隠れて分からなかったが、崖だったんだ。そのまま俺は転げ落ちて・・・。
「そうだ。ペンダント!!・・・痛っ」
痛みを圧し殺しながら、俺はベッド付近を探した。だが、目的のペンダントが見つることは出来なかった。
「お探しのものは、これ、かしら?」
俺は突然声をかけられ、ジェットコースターで絶叫するかの如く、悲鳴を発した。
「あら、見た目の割りに随分臆病なのね?」
そう言いながら、女医と思われる女性が 病室に入ってきた。女医と思ったのは、看護師が着てそうなナース服や事務員さんが来ているカーディガンと事務服ではなく、胸元がエレガントに開いたスーツ姿の女性だったからだ。
「・・・あんたは?」
「うん?医者よ。」
やっぱりな。
「・・・あんたがその手に持っているものは?」
「これはあなたが持っていた物。崖から落ちても、ここに救急車で到着してからも全然放 そうとしなかったんだから。」
そう言いながら、女医は俺にペンダントを渡した。
「・・・あんがとよ。」
「どういたしまして。大切なものなんでしょ?今度はなくしちゃダメだそ。さて、ここからが話の本題よ。実はね・・」
どうやら俺は崖から落ちて、重傷だったらしい。今こうして生きていることがまさに奇跡だったそうだ。しかし、三ヶ月間の入院を余儀なくされた。