才能と限界の壁(15歳)
この頃考える。
何故、俺だったのか―――、と。
学校へ入り、早3年。卒業まで後2年。
学年がまた一つ上がり、俺は最上級クラスから一階級下へ転落した。
そう、つまりは付いていけなくなったのだ。
それでも持った方だと思う。
恐らくは小さいころからの剣の修業が効いたのと、元々知能的には問題なかったのも加わってギリギリの位置にいただけだったのだ。
だから俺はこの結果に失望はしていなかった。
失望したのは友人…ファティマの方だろう。
彼女は俺のクラスが下がるのを認めたくなくて、執拗に修行させようとした。
先生が休む時には休めと言ったにも関わらず、だ。
最初こそ適当に付き合っていたものの、真剣を取り出し根性をたたき直すと言わんばかりの押しつけの数々に俺は疲弊し、最終的に彼女と決裂した。
曰く。
もう、頼むから構わないでくれ、と。
彼女は俺にそう言われて初めて俺に嫌がられている事に気付いたのか…。
茫然として剣を取り落とし、立ち尽くした。
そして、俺を見つめた。
あのとき彼女は初めて俺の顔をまともに見たのかもしれない。
見つめ返すと、びっくりされて。
悪意はなく…ショックを受けただけの顔の彼女に、俺は目を伏せた。
『…嫌だった、のか?』
嫌だったわけじゃない。
だけど、応えられない事をずっと要求されるのは辛い。
それでも誤魔化して付き合ってはみたけれど、根本からしてずれているのだ。わかりあえるはずもなかった。
『私がした事は…迷惑でしか、なかったの、か』
彼女になんて言えばいいのかわからなかった。
わからなかったから俺は…頷いた。
『…っ!』
『…すまない』
期待に応えられなくて。
期待にこたえる努力すら出来なくて。
俺は何をやっているんだろうとすら思った。
彼女を傷つけたくないあまり、自分の限界まで誤魔化し続けた結果、俺は彼女の顔を見る事すら出来なくなっていたのだ。
『…わか、った…もう、構わない…』
俺は一つ頷いて。
彼女の元を、去った。
クラスが下がったのを知ったのは、この直後だった。
☆
『出来そこないの魔術師は騎士にもなれない―――』
誰が言い出したのかしらないが、そんな言葉が俺の周りで囁かれるようになった。
大方ファティマとの決裂が伝わったのだろう、俺がいじめに近い精神攻撃を食らうようになるのはすぐだった。
この学校での彼女の存在は大きく、彼女とずっと付き合いのあった俺の悪口は、俺の耳には全く入っていなかった。
そして彼女から離れた俺に襲いかかったのは…今までの高待遇をひっくり返すような、悪質なものだった。
ファティマ――彼女から伝わっていたのは、期待。友情。思慕。
彼女が去った後の俺に伝わってきたのは、まさにその反対。
それも当然といえば当然か。
誰もが憧れる彼女がずっと手取り足とり導いていた男が、自分の才能を諦めて彼女に見放されたのだ。
そんな俺に向かうのは、侮蔑しかない。
曰く、根性無し。
曰く、恥知らず。
退校する日も近いだろう、と。
だが俺はこの学校をやめる気はさらさらなかった。
やめてどうする。
騎士になれなければ、王城に入ることもできない。
勇者にあう事すらかなわない、となれば…俺は頼まれた事を、まず完遂出来ない。
それにこの状態で家に帰れば、なんとなくだが軟禁確定の気がする。ただでさえ両親には嫌われているのに、騎士養成学校すら中退とか洒落にならない醜聞だろう。
それは避けたい。
だから俺は…。
口を噤むしかなかった。
誰に聞かれても、何を言われても。
淡々と言われた事をこなし、誰も近づいてこないような状況すら飲み込んで。
個室になった部屋で、誰と話すでもなく。
俺はひたすら孤立し続けた。
どうしていいかわからなかったのだ。
ファティマについて行けなくなったと正直に言う?
どうしてついていけなくなったのか、限界なんてぶち破れとか言われそうだ。
この世界に限界理念とか正直あるのかもわからないし、俺の思いこみの限界である事は十分考えられる。
逆に身体が魔術師向けだから剣士になれないとでもいってみるか?
魔力がないのに?
それはなんて中途半端で、言い訳にしか聞こえない言葉だろうか。
魔力が使えない理由は、確かにある。
だが俺はその使い道も漠然としか知らず、雲を掴むような話なのだ。
説明して、それで? 信じてもらえるのか?
12年も外に出ず、ひたすら家にいた俺の妄想のような話と思われはしないか?
何度指輪をはずそうと思ったかしれない。
いっそ外して魔術師として過ごし、魔術師として地位を確立した方が話は早いんじゃないかとすら思った。
だけど。
(あの神様…思い返せば、酷い事言ってたしなあ…)
そう。
俺は自分が魔法が使える、と言う事を『証明できない』
神の寵愛の証はあれど、それだけだ。神具が魔力を貯めてることも、俺自身が計り知れない魔力を持っていることも、決して証明できないのだ。
そして同じように、自分に剣士としての限界があることも証明できない。
俺は。
証明できない、と言う事がどれだけ相手の信用を損なうか知っていた。
だからこそ黙った。
(耐えきれると知っているから)
そして。
恐らくこの考え方こそが、俺が神様に選ばれた理由なのだろうな…と…。
なんとなく、気づき始めていた。
主人公前世平凡といいながら結構苦悩してる気がします。