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帰還の前に

一度消えたデータを再現したため不備があるかもしれません。

何かあれば感想欄へどうぞ。

『親父っ!!!』


ダイチの声に我に返ったファティマは俺を引き倒して騎竜に切りかかり、満身創痍だった騎竜はその場から吹っ飛ぶ。

肩口を歯でえぐるように切り裂かれた隆大は、駆け寄ってきたダイチに抱えられその場で横たえられた。

俺から見えたのは、神子の何かを決意したような瞳だけ。すぐさまわかったのは、神子が騎竜に対して何かを命令した――それだけ、だった。


「神子……ッ!」


彼女は騎竜の支えを失って、こちらに顔を向けたまま倒れている。


辺り一面にとび散ったのはおびただしい騎竜の血。最後まで騎竜を道具として使う彼女に怒りを感じる反面、何故騎竜を使うだろう事を考えなかったのかと歯がみした。

彼女が動けなくても、彼女が動かせるものはすぐそこにいたというのに。




「――――『故郷』よ」




「えっ……?」

何でこんなことをしたのか。

そう問い詰めようと口を開いた矢先、恨み言が漏れるのかと思った彼女の口から出たのは、何故か詠唱だった。


「……神子は、召喚陣に『故郷』と描いて、送り返すのよ」


それなら、指定なんていらないでしょう?

そう呟いた声は細く、もう話すことはないわ、と言いたげだった。

そのままずるずると片手で這い、俺たちを見ずに騎竜へ近づいていく。


「――――その人が攻撃されたら、これ、効力失われるのは時間の問題でしょ? もう考えてる時間はないわ。お行きなさいな」


何故、俺を攻撃したのか。

何故、その言葉を教えるのか。

わからないままに俺は指定を故郷に変え、帰還の陣を発動する。


神子の言う通り、迷っている時間はすでになかった。


指定を変えるだけの間にも空間がぶれ、陣から何かが沸き上がり始めた。

神子の時とは違う反応……それは神子が、魔王を攻撃した、からなのだろうか。

とにかく陣が壊れる前に発動しなければならないため、俺は急ピッチで魔法陣に魔力を注ぎ込む。


『ダイチ、隆大の様子は……!?』

『わか、わかんない、血がとまんない……っ』

『どいてダイチ! 私がやるから!!』


あわただしく止血と回復をする二人を包むようにぼんやりと光が立ち上り、陣が形成されていく。

隆大が俺を庇ったのは、神子に攻撃されるため、と思うのでそこはわかる。

後でお説教レベルだが、攻撃された俺が悪いともいえるのでもう考えないことにしよう。


お前が即死してたら全員危うく帰れないところだったけどな!

あとなんかお前が攻撃されたせいで予測できないものが陣から湧き上がってる気がするけど調べてる暇すらない!!


「ファティマ、トリス……! お前たちも中央へ!」

「はい! 僕も手伝います!」

「分かっている! 大丈夫だ、私もユリスを――――信じるから!!」


先ほどファティマが言いかけた言葉が気になって振り向いたが、ファティマは俺の迷いをかき消すように信じると叫んだ。

微かに残った俺の迷いを振り切るようなファティマの言葉しんらいに頷き、トリスに補助を頼む。


『ユ……おとう、おとうさん……! 血が、血が止まらない……止まらないの……っ心臓、とまっちゃう……っ』

『親父……っしっかりしろよ!』


トリスが魔力を一緒に乗せてくれるのに合わせ、急いで陣を発動させる。

陣に乗せている人間を、故郷へ。


「……足りない……!?」

「! 僕は気を失っても構いません! 全部入れます!」

「無理はするなよ!?」


陣から跳ね返る感触に血の気がひいた。

足りない。

俺が20数年間ためた魔力だけでは、ここにいる人間を転移させるには足りなかったのか。

抜けていく魔力の流れに耐えきれず膝をつくと、慌てたようにファティマが俺を支えに走ってくる。


時間がない。

誰かを置いて行かなければ、還れない――。


「……大丈夫よ」


ささやく声が、聞こえた。

それと同時にあふれていく魔法陣の光に目を見張る。

陣に魔力が通った理由がわからず声にふり返れば、神子が笑う姿が見えた。

騎竜の下には血だまりが出来ていて、そこに陣は――――存在、しなかった。


「……だから私を殺せと言ったのに。馬鹿な子ね」


最後にぽつりと騎竜につぶやいた神子の言葉が、少しだけ幸せそうで。

その言葉の意味を理解する時間はなかったのに、何故か俺は光に包まれる中泣きたくなってしまった。



光があふれる空間に、目を開ける。

左を見ても。

右を見ても。

……光しかない。

ってなんでだよ!?


「あ、ごめんね、少しだけ時間が欲しくて」

「あんた……」


もう一度瞬きしたときには、そこにいたのは少年の姿。

20数年前に見たその姿は変わりなく、そこにいて思わず俺はその頭をわしづかみしそうになった。


「あっぶないなぁ。時間無いんだから会話させてよー」

「……」

「召喚陣通ってくれてるから強引に寄せたんだよねー。魂だけだから、少しだけ、ね」


すぐ返すから付き合ってよ、そういう少年に頷き、俺は前と同じように胡坐をかくように座り込んだ。

真ん中にぽかりとすぐあいた穴から見えるのは、相も変わらずの世界。

だが、靄に包まれていたはずの大陸は見えなくなっていた。


「実は僕、あの時一つだけ嘘をついたんだよね」

「おい……」

「もうわかってると思うけど、僕の世界はここにあった靄のある大地のほうだった。ほら、見て。消えたでしょ?」


なんで自分の世界が消えたのにそんなにうれしいのかと思いつつ頷くと、神様は本当に晴れやかに笑う。


「ありがとうね。僕の代行者を助けてくれて」

「……結局対立者はどっちも倒したりもしてないけど?」

「ああ、それね。君が考えた通り必要ないから問題ないよ。全然」


結局俺はコイツに言われたような事は一切していない気がしていたけど、その一言で安心できた。

むしろ、何もしなかったことに対してここによばれたのだろうか。

そう思えば、神様はふるふると首を横に振った。

相変わらず心は読めるらしい。


「えーと、何から話すかなぁ」

「とりあえず、隆大を殺さなかったことで世界が滅ぶって事は、ないんだな?」

「ないよ。元々僕は敵対者を倒す気も倒される気もなかったから、君がしてくれたことが僕にとって一番の結果だったよ。本当にありがとう」

「倒す気、なかったのかよ……」

「最後結局あの子が倒されちゃったのはまぁ、本人が突っ込んだから仕方ないね。予定外の消費や人数の増加もあったから転移できるか逆に心配だったんだけど、隆大の心臓が止まったことで一応『倒された』判定もされたみたいで、僕にも力が流れ込んできたから最後は補助しておいたよ。世界の方もこの通り少し変わったけど、君にとっては問題ない。――次の僕の代行者は、もう、生まれないけどね」


次々寄せられる言葉の意味に、眉を寄せる。

予定外の消費――これは思い当たることが多すぎる。神子の回復もそうだし、他にも一度だけ大量に使ったことがあるし。

人数の増加――はみゆきたち、だろうか。彼らが二人だったのは神様にも予定外だった?

それに倒されたということは結局隆大は死んだのか?

次の代行者は生まれないのは何故?


神様の言動の半分も理解できないのがわかったのか、少年は誤魔化すようにくるりとその場で回って笑顔を見せた。


「ま、細かいことはどうでもいいじゃない。色んな要素がかみ合った、それだけでいいんだ。君がしたことは無駄にはならなかったみたいだからね」

「? どういう意味だ?」

「さぁてね? それよりも君、よく隆大を殺さない選択肢を選べたねー」

「……選んじゃダメだったのか?」

「ううん。選んでほしかったよ。でもきっと駄目だとも思ってた」


責任感が強い子は、課された使命に従ってしまうからね。

そう言って寂しげに笑う顔は、すぐさま明るい笑顔にかき消された。

俺の疑問も心の声として聞こえているだろうに、まったく答える気はないらしい。


「だからありがとう、だよ幸人」

「アンタがもっと説明してくれたらもっと簡単だったんだけどな……」

「それは無理だよー。ルールに抵触しちゃうもの。だから必死で、助けて救って、とだけ教えたんだよ。今も同じ。問いかけることはできるけど、答えれるのは限られたことだけだ」


思い返すも、ろくなことを言われた覚えがない。

結局のところ、コイツが望んでいたのはただ一つ。

隆大を無事に故郷へ還す、そのことだけだったのだろう。


「魔力をためろとは言ったけど、使って倒せとはいわなかったでしょ?」

「……気づくかそんなもん!」

「あはは!」


で、結局俺は隆大も守れていない気がするのだが、何故ここに呼ばれたんだよ。

そう言うと、彼はお礼が言いたかっただけだよ、と返してきた。

本当にお礼を言いたかっただけなのか、少年の姿が突然掻き消える。

思わず立ち上がったが、すぐに光が集まって、また目を開けた時と同じように光に塗りつぶされていく。


「ちょっと待ってくれ、隆大は? 隆大はどうなったんだよ!?」

「んー……そうだね、ヒントだけあげる。地球では、死の定義は心臓が止まったこと、だけじゃあないよね?」

「は?」

「だからまだ間に合うと思うよ? 隆大のことよろしくね~」


のんびりとした声と同時に、光がはじけ飛び、俺は――――。

気が付けば草の上で、目を覚ましていた。

神子のくだりはわかりづらいのでこれもおまけで出すことができればな……と考え中です。

神子が何をしていたかはファティマが見ています。

神子視点って需要あるんだろうか……?


次回、最終回。

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