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独白(前)

本日書籍版発売です。

それではどうぞ!

ずしゃりと投げ出された身体が重い。

あり得ない程の重力に逆らおうと身体に力を入れると、近くできゅぅ、とノエルが鳴く声が聞こえた。


「のえ……?」


声が掠れ、微かな響きしか残らない。

何も見えないので手探りで近くを探れば、ひんやりとした感触がすぐ傍らにあった。


『あるじ』


掴んだ手にすり寄ってくる感触は確かにノエル。

大きくなっていた筈だが、先ほどの重力のせいだろうか。

小さくなってしまったらしく、肩口に寄せてきた塊はいつもと同じサイズのものだった。


(何が……どうなった……)


声を出すのも億劫で、動きにくい首をどうにか巡らせて辺りを見回す。

一面の黒。

光が届かない場所を見回しても何も目に入る事はない。

ただ、気配だけは微かに何人か感じる――微かな息遣いが妙に大きく響いていた。


ぽたり、と何かが滴り落ちる音が聞こえる。

ぽたり、ぽたり。

規則的に続く音に目を向ければ、そこから段々光が現れ、召喚陣が浮き彫りになり始めていた。

光りながら存在を顕わにしていくその様子が幻想的で、思わず見とれているとその中心にいた人物が立ち上がる。


「――どんどん予想から外れてるな……」


右腕を押さえるその様子に、思わず起き上がると激痛が走る。

辛うじて痛みの薄い左手で倒れるのを阻止すると、ノエルが気づいてくれたのか俺の腹の下に滑り込み支えてくれた。

霞みそうになる視界に映るのは、隆大。

おそらく先ほどの音は血が流れる音なのだったのだろう。彼の指先からそれが滴り落ちるたび召喚陣は光り、徐々に周りを把握できるぐらいの光を放ち始める。


「くそ、なんなんだよ、あの神子…っ」

「ダイチ」


俺のすぐそばにはダイチもいたようだ。

俺と同じように衝撃を受けたのか起き上がってはいないが、辛そうに喋る声が聞こえた。


「ホント何なんだよ…」


ぽたり、ぽたり。

隆大に目線を戻せば、彼は相変わらずそこに立っている。

いつ怪我したんだろうか。

ぼんやりと血の流れる先を見ていると、陣が形成されるように光を安定させつつあった。


「みゆ?」

「さっき3人の声がした気はするが……いないな」

「神子も……いない?」


空間の端は見えないが、ここにいるのは3人だけだ。

思わず周りを見回すと、場所は移動していない筈なのに先ほどの広間の壁は影も形も存在していなかった。

あまりにも狭い空間。

ただ、召喚陣だけが足元にある不思議な空間に首を傾げる。


「むしろどこだ、ここは……」

「俺がいた場所だ」

「え?」


気がつくと隆大はこちらを見ていた。

目を見返せば、もう一度ゆっくりと答えが返る。


「俺は常にあそこにいたわけじゃないからな。ここは時間を止めれるわけじゃないが、一瞬を長くさせたり逆に長い年月を一瞬で過ぎ去るようにさせたり出来る。まあ、そんな閉じた空間だ」

「つまり?」

「色々拙いと思ったんで、あの神子が召喚陣に触れる寸前にこっちへ移動した。つっても、戻ったと同時にあの神子の魔術が発動して何が起こるか分からんがな」


要は避難した、といいたいらしい。

それでも最初に起きた攻撃と風に巻き込まれ、俺は落ちた衝撃を殺す事が出来なかったのだろう。右手がまだ動かない。

って、あれ?


「俺は召喚陣に触ってなかった筈じゃ」

「幸人は触れてなくてもダイチが触れてた。神子は竜が邪魔で触れてなかった」

「?」


首を傾げると、ダイチがそんな俺を見て首を傾げた。

俺がなにを疑問に思ったのか分からなかったらしい。まあ、魔術に精通していなければぱっと思い付かないのかもしれないが、召喚陣を媒介にしてここに移動したと彼は言ったのだ。

通常、触れていなかった筈の俺までこの空間に飛んでくる筈がない。色々ぶっ飛ばした説明に首を傾げただけだったのだが、ちゃんと理由はあるようで、ますます首を傾げてしまったのだ。

説明を求めるように隆大を見ると、彼は覚悟を決めたかのようにそこに座り込んでこちらを見た。


「まあ、説明するくらいの時間はあるか。とりあえず、座れダイチ」

「あ……のな! アンタ一体何したいんだよ! 斬れっつったり座れって言ったり!」

「イイから座れ。あの神子も俺だけ狙うならそれですんだのにくそめんどくせぇ」

「はあ……っ? 説明後回しにした理由それかよ! 全部有耶無耶に終わらす気満々!?」

「ああ。あの神子、一応"勇者の神子"だから、浸食されてても終わる・・・可能性があった。あれで終わるなら終わるでよかったんだ。俺は」


終わるって何がだ。

いい加減主語のない会話にイライラし始めたところで、ダイチがブチ切れたらしい。


「あーもういい加減にしろよ! さいっしょから最後まで説明してくれ! 大体なんでユリスさんの事幸人って呼ぶんだ!?」

「まんまだ。そいつは幸人だからな」

「はあ……? ってか幸人さんってみゆのとーちゃんの名前じゃ?」


ダイチが困惑しながらこちらを見るのに、俺も覚悟を決める。

否定せずに頷くと、ダイチの口がポカリと開いた。

……いや、気持ちは分かるけどどんだけ間抜け面だよ。


「は? え? どーゆー……?」

「説明、説明なぁ……。始まりから説明すると45年分話さんとならんのだがそこまでの時間はねぇな」

「長!? って、は、え……? 45年? なにそれ……」


45年って言うと、イコール年齢、だよな?

こいつが29の時にはダイチはいなかった筈だから、単純に考えて年齢と同等。つまり隆大が生まれた時からの話?

壮大な話に瞬きをすると、隆大は何故か笑ったようだった。


「そう。始まりは俺が生まれた時から。――この世界のカミサマとやらの声が聞こえてきてからだった」





輪廻転生。良く聞く話だよな。

俺はこの世界に生まれる筈が、違う世界に――地球で生まれたらしい。

理由? この世界は二人の神様の元にそれぞれ世界があるが、片方はすでに壊滅に近い状態だからさ。ぶっちゃけ生まれる先が、なかったんだとさ。

異世界から勇者召喚なんて話になったのも、片方の世界がなくなりすぎて、生まれる場所がないがために他から生まれた子供がこっちに呼ばれるからなんだとさ。迷惑な話だよ。

そんなわけで、俺は生まれた時から声が聞こえてた。


幸人も会った事あるだろ?

うん。アイツ。

セレス神? 違うよ。アイツは、ファルータ。弟神の方。


…神様が二人いるのかって?

お前何聞いて転生したんだよ。

いるよ。敵対してるのは神様同士で、この世界は二人の神様がいる。

まァめんどくさいから俺が魔王でダイチが勇者って事で話進めるか。

正確に言うとどっちも勇者でどっちも魔王なんだけどな。どこを中心に見るかってだけの話。


ん? 俺も神様見たことある?

ダイチが見た事ある奴はセレスだと思うがね。お前は俺の敵対側ゆうしゃだし。

まぁ魔王っつっても、ファルータの代行者なだけで特別な力は特にないんだ。むしろ弊害しかないっつーか、そんな感じ。

一応一通りの魔術は使えるぞ、召喚される時に強引に突っ込まれたし。


で、まあ。

声が言うわけだよ。この世界を助けて欲しい――と。


俺はどうしたって?

悪いが断った。やる気もなかったし、条件聞いたらますますやる気なくなったし。

そしたら言うんだよな。断れるように出来てないんだ、って申し訳なさそうに。

じゃあなんで聞くんだって話なんだが、俺の了承がないと喚べないんだってさ。


後は分かるんじゃないか?

そう、俺は呼ばれるのを拒んだ。

どんな状態でも、ひたすら拒んだんだ。

知ってるか? 代行者って、17才で喚ばれるんだ。例外はない。

例外はないというか――ぶっちゃけ、耐えられないんだ。世界に拒まれていく。


喚ばれるのを拒めば拒む程、世界の拒絶も酷くなって行くんだ。

それでも俺は、地球あのせかいにいたかった。どこにも行きたくなかったんだ。

理由? まあ、いろいろあるけど、そこはどうでもいいだろ?

誰だって違う世界になんて行きたくない。――ましてや、助けを誰も求めていない世界なんかに。


なぁ、幸人。

俺がどうして死にたかったか、教えてやるよ。


代行者は、あの世界には存在しちゃいけない者。

だから、何も残せないんだ、あの世界に。

どれほど望もうと、喚ばれたが最後――俺なんていなかったかのように、世界が修復される。

望むと望まざるに拘わらず、な。

それが嫌で嫌で、たまらなかった。

どうしても譲れない処だけでもどうにかならないかと考えて考えて――――。


――その結果が、あれだった。


本当は、飛び降りた直後にこっちに喚ばれる予定はずだったんだよ。

死ぬ事に変わりはないが、それで"条件はすべて満たす"から。

それで全部終わりにするつもりで、我慢してた事とか、言うべきじゃなかった事とか、全部お前に――ぶちまけて。


結果が、ああなるなんて、俺はどれだけ世界に嫌われてるんだと思ったよ。


しかもそれだけじゃ終わらなかった。

俺は喚ばれないままで、召喚条件を欠いてしまったから、何も変わらなかったんだ。

お前死に損すぎだぜ? 

よりによってそこ突くか、って思った。何でお前が死んでんの、俺が耐えたのすべて台無し。しかも恨み言言うだけ言ったまんまとか、どれだけ――……いや、それは後でいいや。今言っても仕方ない。


もうね。頭を抱えたね。

何やってんだ馬鹿って思ったわ。いや、大部分お前のせいだから。関係ないって顔すんな。

普通に俺があの時死んでればそれで終わったんだぞ? 

あ? そんなんわかるかボケって?

お前そこは俺を信用しておけよ。――ああ、怒るな、本心だって。


話がずれてる?

悪い、戻すわ。


この状況は色々こんがらがって、明後日の方向に突き進んでる――と、俺は見てる。

俺は単純に、同じ事をしようとした筈だった。

今度こそ、な。

もう止める奴もいなかったし。


……だけど、結果は見ての通り。


――捩れた糸は、どうにかして戻さないといけない。

手遅れに、なる前に。



昔の活動報告Ifはここに繋がります。

詳しくはこの辺に。http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/229617/blogkey/773670/

お読みいただきありがとうございます。

自分のページから見るのとブログのURLが違ったっぽい…ご指摘ありがとうございます!


Next→7/31 12時

長かったので2分割された関係上連続更新。

不明点は後半で出てくる可能性がありますのでご留意下さい。

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