学校生活は順調…? (14歳)
しばらく主人公の受難が続きます
2年たちました。
いや、普通に何事もなく。
大体規則正しい生活って、日本人にとっては訳ないよね。朝早く起きるにしても、中高で培った部活動の延長と思えばなにもきつい事がなかった。
そもそも引きこもりだったので何をやってもむしろ新鮮だったよ。
万歳下界。
「ユリスってホント…変な奴だよね」
「失礼な」
声をかけてきたアリスに、俺は本を読みつつもいつものように返す。
この言葉を聞くのはさすがに聞き飽きてきたレベルだ。ちなみに彼女は俺がこの学校に入ってきた時のチームメイトの一人。
さすがに女性なので今は同室ではないが、割合あの時の同室者とは仲が良いままだったりする。
ちなみに俺の今の同室者は最初に声をかけてきた男だ。つまりこの学校の寮は、4→2・2と部屋が分かれて最後に個室になる仕組みになっている。
…話がずれた。
「そう、失礼だ。ユリスは変な奴ではない。変人だ」
「尚悪くしないでくれよファティ」
「変人だろう? …又、お前は本をよんでいるのか」
「日課だからね」
もう一人いた女の子、ファティマ・ソーガイズがアリスの横で言葉を繋ぐ。
俺は本から顔上げずに受け流そうとしたところ、本を取り上げられた。
…うん、酷い。
2年の間に身長が伸び、さらに女性的な外見になった彼女は相当言葉がキツイ。
そして名字があるのでわかる通り、名家の出身だ。ちなみに彼女の兄は若くして第二師団の騎士団長を務めるほどの猛者、つまり剣術の名門で彼女の実力は俺をはるかに超えている。
「変人だろう。何故もっと真剣にならんのだお前は」
「いつも真剣だよー?」
「嘘つくな」
…嘘はついてないんだけどなあ。
また始まったよこの会話。疲れる。
そして本を投げるな、返せ。
「学校は競い合う場所。お前ときたらいつも人に譲ってばかりで、ちっとも上達しないではないか」
「うーん、そんな事言ったってなあ…」
獲物の奪い合いとか、趣味じゃないから仕方ないと思うんだけどな。
と、試験の内容を思いながら試験結果の紙を見る。
…うん、見事な赤点。追試確定である。
「剣の筋はあのカルロット家の教えを受けているだけあって、決して悪いものではなかろうに」
「まあ、サルート兄様には散々しごかれたからねぇ」
「ああ。彼は第一師団の団長の息子だけあって、手錬だからな」
そこで言葉を切り、ファティマは俺を見つめてきた。
そんな目で見られても性格なんて変わりはしない。俺は何の感慨も覚えずにその目を見返した。
(そんな彼に扱かれていながら、何故…って感じかな)
彼女の言いたい事を読みとって、俺はひっそりとため息を殺し。
無造作に投げられた本を拾い、表紙についた埃を払う。
…うん、傷は付いてないみたいだ。
「本を読む暇があるならば…もっと鍛錬するべきだろう」
「ちゃんとしてるよ」
「してない。飯は終わったのだろう? 行くぞ!」
「…」
人の話を聞いちゃいないお姫様にまた俺は今度は盛大に溜息をつき。
無茶な鍛錬を言われなきゃいいなあ…とその後ろ姿を追った。
☆
騎士養成学校に入って思った事は、ここは俺の住む世界とはやはり違うのだ、ということだった。
競い合うのが前提。実習では早い者勝ち。
相手を傷つけてはならないが、あくまで貪欲に、自分の強さを欲する者たちの集まり―――それが騎士見習いたちの、基本姿勢。
早い話が基本精神はなんとなく通じるものの、元々熱血とは縁遠い性格をしている俺には合わない、が結論だ。
『狩猟ポイントで何匹倒せるか競え』というお題があったとしよう。
俺は当然のことながら、自分の力の範囲内で動く。
人が少なくなりそうなポイントを選び、そこを突く。
一定数を倒して満足し、動かない。
俺はそれで十分と感じるが、ファティマは怒る。
そこで満足せずに動けと。競いあえ、と。
最初こそそれで済んでいたものが、あまりにも俺が受け入れないものだからファティマは俺について回るようになった。
当然のことながら俺の剣の腕は彼女に及ばない。
1体倒す内に、相手が3体も倒していれば規定量すら満たせなくなり、今回にいたってはとうとう赤点。
…うん。
なんて言うか非常にありがた迷惑な話である。
ほっといてくれ。
しかも始末の悪い事にコレ、彼女悪気がないのである。
曰く、やる気を出せ。真剣にやれ。真剣にやらないから自分に越されるのだ、と。
先生もファティマに同調するのか、やれ頑張れだの無責任な事を言ってくる。周りの同級生はファティマを恐れているのか、美人のファティマに構われる俺が疎ましいのか、だーれも彼女をとめたりしない。
…本当に勘弁して頂きたい。
ぶっちゃけよう。
俺だって勿論、強くなりたい。
なりたいのだ。そう見えなくても。
だが、俺は剣を人に習うようになって、段々わかってきてしまったのだ。
あまり筋肉のつかない腕。向上しない体力。前世から引き継いだらしいこの感覚。
前世で研究馬鹿だった俺だ。当然のことながら、身体能力についても、専門外だがそれなりの知識はある。だからこそわかる。
俺はどう考えても剣士に向いてない。
そもそも、前世でも身体能力の頭打ちを食らっている俺だ。
何年もかけて、自分と折り合いをつけた俺なのだ。だからわかってしまう。
彼女の望むように無茶をすれば、そう遠くない未来俺は…使いものにならなくなる。
才能ある彼女には見えない限界。恐らく話しても理解はされないだろう。
そしてそれじゃあ、駄目なのだ。
駄目になるまで身体をつぶすわけにはいかないのだ。
(俺の目的はあくまでも、勇者PTに入る事、だ)
何をするかはわからないが、魔力を貯めている時点でどう考えたって魔法である。
あくまでも、その目的に沿って動く事。
それだけが俺の支えとなっていた。
(限界を超えたら、どうなっているか知っているから)