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彼方より

あけましておめでとうございます。


『―――――――――――――――ト』



誰かに呼ばれた気がして、俺は足を止めた。

どこかで聞いた事のある声。

だが、最近ではない。

むしろ遠すぎてかすかに聞こえた程度の声だが、場所が場所だけに止まらざるを得なかった。

神殿内部ではなく、天井はあるものの外のような中庭を移動していたからだ。どこからか神子がまた襲ってくるかもしれないため、警戒を強めている最中だった。


「ユリス? どうした?」


先頭を歩いていたファティマが止まり、振り返ってくる。

前しか見ていないのに一番後ろの俺が止まったのも気づくのは素直にすごいと思うが、いきなりすぎてダイチがぶつかりかけていたのはどうかと思う

ダイチ、上ばかり見すぎだろ。日光がさしているのは俺も意外だったけどさ。


「声が」

「声……?」


咄嗟に言葉にしたが、そこで止まる。

いや、あの声は俺にしか聞こえていないかもしれない。

何かそんな気がして、記憶をたどる。

あの声は、どこで聞いた声だった…?


ぐるりと周りを見回せば、見えるのは木とガラスらしき透明な天井だけ。

俺たちは中庭を突っ切るようにしていて召喚陣のある本殿へ向かっていた。

他にも道はあるのかもしれないが、俺達3人はここを通る経路しか知らなかったためだ。


「……誰か聞こえたか?」

「え、全然。俺耳はいい方なんだけど」

「僕も聞こえませんでした」


ファティマの確認に全員が首を振る。

ダイチが耳元に手を当て耳をすまし、トリスが何か紙を取り出した。

ファティマが天井を見上げる。


……と。



『――――――――――――――キト、避けて!』

「はっ? 避けろ!?」

「え、何から!?」


ハッキリ聞こえた声に、思考が停止する。

俺の言葉に反応したのはダイチで、次の瞬間何かに気付いたように俺を小脇に抱えて飛ぶ。

ってまたこれかよ!?


今度は完全にバランスが取れず、ずしゃあ、と崩れ落ちたところで俺が立っていた場所から"何かが"跳ね上がった。

……って、何、だと?

ドン! と強い音に耳がキーンとなる。咄嗟に耳を押さえると、さらにダイチが俺を押し倒すように転がった。


「ファティマさん!」


トリスの叫ぶ声に、目線が上がる。

ようやく身を起して立ち上がれば、トリスは遥か2m程上空に"いた"。

咄嗟に結界を張ったのか、まるい透明なシャボン玉のようなソレに、まとわりつくのは"緑"。

地面からせり出したそれはあっという間に増え、その結界を押しつぶすように1本、また1本と絡みついて行く。


「トリス!? 大丈夫か!」

「結界は大丈夫そうですが…っ、丁度ファティマさんの頭の横をかすったみたいで、意識が!」

「ってかそんな事言ってる場合かよ! 避けろユリスさん!」


慌てて声をかける俺を、またひっぱるダイチ。

気づけばまた地面からソレは出てきていて、俺の周りにどんどん増えてきている。


「……これ、零体が融合した木……か?」


行く道すがら融合して魔物化していた樹木を思い出す。

うねうねと動くそれは、枝なのか蔓なのか判別はつかないが、とりあえずどう考えても捕まってはいけないモノだと分かる。

現にトリスとファティマを捕まえたソレは、握りつぶすように結界にがんがん纏わりついているのだから。


「ノエル、焼けるか?!」

「きゅうー!」


咄嗟に近くに来たソレを焼き払えば、怯えたように引っ込む。

どうやら知力はあるのか。

しかし、足元から生えてきたら明らかに捕まる。


「ノエル、乗せて! ダイチも乗れ!」

「は、え!? 切りながらとか無茶い!!」


軽くステップを踏みながら周りの木の"手"を切っていたダイチが、焦ったように振り返るが俺は聞かない。

ノエルは俺の言葉に呼応して、大きくなりつつ周りの木々を一気に焼き払う。


「あ、そゆこと」

「トリス、焼き払って平気か!?」


動くのに時間がかかる俺と違い、周りに邪魔がなければ即動けるダイチはあっという間に俺に追いついた。

飛びあがりつつあるノエルの尻尾を軽く掴んだ瞬間にはもう俺の後ろに乗っている。

そのまま高度をあげトリスの近くへ行こうとするが、トリスの返答は違ったものだった。


「兄上、軽く焼き払ったらそのまま先に行って下さい!」

「は?」

「まだ動けないんです!」


というかファティマの返事がない。

回復魔法をかけても起きないなら脳震盪でも起こしたか?

動けない、という声に焦りはないから勝算はあるのだろう、トリスの声は冷静で俺は頷いた。


「わかった!」

「え、別行動して大丈夫なのか…!?」


ダイチの声を無視して、俺は焼き払いながらノエルで突っ込む。

軽く焦げた"手"はノエルの爪の威力にあっさり降伏し、はらはらはがれおちて結界が下へ転がり落ちるのが見えた。

だが、俺はそのまま振りかえらずに本殿へ向かって高度を下げながら疾走する。


「……やっぱり、か」

「は!? 何あれ全部こっち向かって来てるし!」

「目的はこっちなんだろ!」


『避けて』という声。

俺の足元から沸いたモノ。

その答えは、狙いは俺――だろう、恐らく。何故俺なのかわからないが。



追いすがる無数の手を振り切って、俺は中庭を突っ切った。





「…来ないな」

「って言うか、これ……気持ち悪ぃ…」


中庭を突っ切った先にあったのは本殿。

召喚陣を囲むように作られた神殿の中の小さな神殿といった感じのたたずまいの建物にノエルごと突っ込んだ所、アーチ付近で追いかけてきた"手"は止まり今度は塞ぐように繁殖し始めたのだ。

当然緑の壁が出来て出れなくなった。むしろ入る事も不可能だろう。


うねうねと動くそれは、手招きしているようにすら見える。

置いて来たトリス達は大丈夫なのか気になるが、視界からはまるで見えないので困る。

逆に焼きはらったりした時に巻き込まれる可能性があるので俺は奥に行く事を提案した。


「置いて行くのかよ…」

「いや、切ったり焼いたりしても無駄の量っぽいからな。俺たちに合わせて動くならアーチから動くかもしれないしここにいて下手にトリスの魔法に巻き込まれたくもない」

「でも先に行きすぎたら合流出来なくね?」

「トリスは焦っていなかったから、大丈夫だよ。むしろ休憩する処を探そう」


ぎりぎりノエルが通れるくらいの小さなアーチの先は、大きく広がった空間だ。

ここで休憩しても問題ないくらいには広いが、焼きはらったりして突っ込んでくる可能性があるのでここで待機は少々危険というか、かなり危険と言うしかない。

せめてここが見えて、もう少し狭い場所へ移動した方がいいだろう。

トリスが索敵陣を使えているなら魔法をぶち当ててくる事はないと思うのだが、手加減してもアイツの魔法は容赦なかったりするので2次災害の方が怖かったりするのよなー…。

本人も自覚しているのか、大規模な魔法はほとんど使わないが、アーチにびっしり埋まるほどの魔物がいるとすればそれをどかすにはかなりの威力が必要になるだろう。

オーバーキルされてこちらも死にましたじゃ本当に洒落にならないので、避難できる場所が必要なのだ。


「……トリスさんを信じてるんだか信じてないんだかさっぱりわかんねぇ…」

「念のためこれ、もっといて。ダイチは詠唱じゃ結界は張れないだろ?」

「結界は難しすぎるから無理」


結界の張れる紙を渡し、アーチすぐそばの空間から廊下へ移動する。

ここから先は、ぐるりと一周してから召喚陣までたどり着く通路になっている筈。

ちなみに螺旋階段のように上に向かう廊下のそこかしこに部屋があり、召喚陣があるのは一番上、という構造になっている。

誰が作ったんだろうなこの神殿。何故に上に作ったのかサッパリだ。


「そういや、ユリスさん」

「ん?」

「まだ声っぽいの聞こえるのか?」


足が止まった。


「……いや、聞こえない」

「ちなみにどんな声?」

「んー……」


すぐさま戦闘になったので思い返す時間がなかったが、あの声は。

ずっと昔に聞いた声。

焦ったような声だったからこちらも警戒したが、あんな脳内に響く声は人間が出せるもんじゃない。

あれは恐らく俺に頼みごとをした神様の声だろうと思う。

昔一度しか聞いていないから確証はないが、あの声は俺を<ユキト>と呼んだのだから。


「…まあ、たぶん、敵ではないな」

「たぶんって」

「あれがなかったら死んでただろ」

「…!」


意識を声に向けて見るが、帰ってくる答えはない。

一方通行なんだろうか、こちらは聞きたい事はいくらだってあると言うのに。

それでも危険を知らせてくれたのは、恐らく知らせないとやばかったって事なんだろうな。

実際足元から無音でわいたし。2本目からは音が立っていたが最初の1匹だけは声がなければ絶対に対応できなかった。

何の魔法がかかっていたのかまでは推測できなかったが不意打ちには間違いがなかったのだから。


そこまで考えて違和感に気付く。

何故、『俺』なんだ?

神様に勇者を頼まれているから?

だが、俺を捕まえられなかった魔物はトリスを、そしてファティマを襲った。


――――――――――――― 倒さなければ(・・・・・・)いけない (・・・・)筈の、勇者には見向きもせず。


この城に入る前もそうだった。

飛来してきた魔物は、まっすぐ ()を狙ったのだ。

少しだけ方向を変えれば、そこに勇者がいたにもかかわらず。


「……どう言う事だ?」

「は?」

「なんで狙われてるのが俺なんだ……?」


零体が勇者を避けるのは、勇者が怖いからじゃないかと俺たちは思っていた。

だが襲い始めたら、勇者には見向きもせずに仲間を倒しに来るっておかしくないか?

"怖いなら"真っ先に排除したいものじゃないだろうか。


完全に足が止まった俺に、ダイチが戸惑ったように見つめてくる。

廊下のど真ん中だが、俺は足を先に進める事が出来ない。


「……分からない事が多すぎる、少し整理したい」

「ええとじゃあ、ドア開けて様子伺いつつ部屋、入る?」

「そうしよう。もし作りが同じならこの辺りは個人の部屋だろうから座る場所もあるだろう」


手近なところのドアを開けるために、俺たち二人はそれぞれドアの横に張り付く。


「何が出てくるかもわからんけどな」

「脅かさないでくれよユリスさん…」


ダイチがゆっくりとドアを開けるとそこには。

埃をかぶっていてとても座れそうにはなかったがベッドと、ソファが存在する――――普通の、小部屋だった。

違っていたのは、窓際に見える緑と、その無数の蠢く手のような蔓。


ばん! と咄嗟にドアを閉める。


「窓がある部屋はやばすぎる」

「うぇぇ…どこまで来てるんだろあれ…」

「大人しく先に向かおう」


俺とダイチは顔を見合わせると、窓のない廊下をひたすら召喚陣のある部屋に向かって歩くのだった。


新年早々触手プレイとか…_orz

ここまで年末投稿予定だったのに予定が狂いましたホントすみません。

感想は全部読んでいます、ちまちま返信もしていきますので本年もよろしくお願いします。

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