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交差

「……あれ、か?」

「え、でもあれって、……しん、でん?」

「に、見えるな」

「え!? ここ、魔の森だよな!? なんで出発地点に戻ってんの!?」


徒歩で数時間の距離でも、騎竜の全速力であればさほど時間はかからない。

走り抜けるトリスに先行して中心地へ突っ込んだところ、見えてきたのは見覚えのある建物。

いや、見覚えがあるどころじゃない。

勇者召喚をした時に訪ねた神殿と、全く外観上一緒の建物がそこにあった。


空から地上を見れば、地平線上に見えていた黒い靄は神殿の後ろにびっしりと並んでいて、とてもじゃないが突破できそうにない。

穴を開けたところで、その先に何があるのかそれすらわからない。

となればこの神殿に突っ込む、それしかないように思える。


「というか出発した神殿とは別物だ」

「え、でも全く一緒に見えんだけど」

「俺にも一緒に見えるが、周りの景色は変わっていない。大体ダイチ達を召喚した神殿はここからどれだけ遠くにあると思ってるんだ。後こんな零体だらけなわけがないだろう」


俺も一瞬ループしたかと思ったが、あの神殿は立ち入り禁止なので門のところから物々しいほどの門番が存在していたし、もっと活気があった。

目の前にある建物からは人の気配といった物がまったくしないので、恐らくはここが魔王の居城なのではないだろうか。

…なんで魔王城が神殿なんだよ。


「兄上ー」


ようやく追いついて来たらしいトリスと合流し、神殿の入り口まで慎重に歩みを進める。

零体が襲ってくるかと警戒したが、何故か神殿に入る数百メートル前で零体が止まりその後着いてこなくなったのだ。

一体何が目的で襲ってきたのかすらわからない。


「もしかして追い込まれたか、な」


あの零体の目的がここに追い込むことだったにせよ、目の前で馬はやられているし気を抜けば死んでいたに違いない。

どちらにしろここに入らなくてはならないのだろうし、ここはもう覚悟を決めるしかないだろう。


「入る前に休憩したい所ですが、また襲って来ないとも限りませんしね…」

「もうこのまま突っ込むしかないだろうな」


神殿は清冽な空気を放っていて、とてもじゃないが魔の巣窟になっているようには見えない。

だが、油断するわけにもいかない。

どう考えても本拠地だし、零体数は一体いくつなのだろうか。

トリスに確認してもらったが、トリスはしばらく見ていた後ただ首を降った。


「特殊な次元場みたいですね。何の生命点も出てきません」

「結界内って事か……」


中に入れば見えるのかもしれないが、ここで魔力を使って対峙した時に魔力切れとか普通に洒落にならない。

ここはもう、きっぱり諦めて進むか。

そう思い、足を進める。


「っ、兄上! 一番前に出ないで下さい!」

「と言ってもな……」


多少の魔法攻撃と、速度でここまで突破してきたものの周りを包む靄はまた一段と濃くなってきている。

先ほどの唐突な攻撃といい、神殿内が安全とは限らないがここも安全とは言い難い。

ならば進むしかないだろう。


「待て、ユリス。私が先に行く」

「ファティマ」

「それが騎士の役目だ。ダイチは私の横に。ユリスはトリスを守ってくれ」


馬を下り、ファティマが俺の前に出る。

馬を繋がないのか聞いてみたがファティマは黙って首を振った。繋いで戻ってこれなかった場合に馬自身が動けるように、という事だろうか。乗ってきた馬は大人しく近くに座り込んでいる。


神殿の入り口は閉じてはおらず、アーチの奥はぽっかりと黒く塗りつぶされている。

日が届かないのか、それとも別次元故に見えないのか。

慎重に進んでいき、ファティマが剣を前に突き出しながら探って行く。


―――――と。


「! ここから先に行けないのか」


ファティマの剣が黒い影に触れた途端、その剣が止まる。

どうやら結界か、それともこれ全体が黒い靄なのか?

ファティマの剣が通らなくなっているので、ダイチが代わり前に進み出る。


「なんか俺見えるし、切ってみる」

「大丈夫か?」

「ん。やれると思う」


正眼に構え、ダイチが腰を落とす。

切った直後に突入する事に決め、俺がトリスとファティマの中央に陣取ると背後で風が吹いた。


「! 後ろ!?」

「結界はります!」


咄嗟に振り返れば、見えたのは舞い降りる騎竜の姿。

その色は。白い、騎竜。

その背にいるのは、勿論―――――。


「ダイチ! そのままたたっ切れ、突っ込むぞ!」

「おう!」


色を認めた瞬間、俺は闘うのを諦めた。

吐き出された炎をトリスが結界で受け止める。

その隙にダイチがアーチの奥の闇を切り裂き道を作る。


「私が食いとめる!」

「無理するな、中に行くぞ!」

「だが!」


炎に阻まれてもう騎竜の姿が見えない。

だが、騎竜の習性を知っている俺は次の行動がこれでもかと言うほど読めていて、咄嗟に前に出ようとするファティマを思いっきり引っ張る事で体勢を崩させた。


「何、を!?」

「いいから来い!」


ダイチが滑りこむのに合わせ、俺もファティマを半ば引きずりつつアーチをくぐる。

その瞬間、アーチが崩れる音が響き、視界は闇に閉ざされた。






「『点灯』」


トリスの声に反応して、灯りがともる。

すぐ立ち消えはしないかと心配したが、杖の先に魔法陣は安定して周りをほのかに照らした。

周りを見回せばダイチもファティマもそのままおり、一息つく。


「ユリス、何をするんだ! あそこで翼を切れれば乗っている人物もただでは済まなかっただろうに!」

「あの騎竜のでかさだったらアーチは潜れないから、まず間違いなくアーチごと蹴っ飛ばされると思ったんだよ。あそこで前に出たら弾き飛ばされてる」

「……!」


竜は基本的に好戦的な場合、直接ぶつかってくる事のが多いのだ。

神子の喋る声は聞こえなかったし、炎を吐いてきたとすればそれを目隠しにして突っ込んでくると思った。

あの狭い所だ、前に出て竜に傷つけようとしたところで弾き飛ばされて怪我する可能性のが高い。いくら魔獣をも切り裂ける腕の持ち主であるファティマでも、竜の硬さや勢いをすべて殺し切れるとは限らないので安全を俺は取った。


「騎竜ぐらい切れる!」

「だが、あれ白騎竜だろう。大きさや硬さが変化する可能性があったぞ」

「は……?」


きゅう、とノエルが答えるのに頭をなでてやる。

白騎竜は黒騎竜程ではないがめったに見られない希少種である事に変わりはなく、性能はノエルに負けず劣らずの筈だ。

あんなもん正面から立ち向かう方が間違っている。


「白騎竜…? 伝説級じゃないか」

「ここにも伝説級がいるんだけどね?」

『きゅう!』


さらに体当たりが来ないか警戒してみたが、アーチは崩れたままで音沙汰はない。

完全に閉じ込められた状態ではあるが、さらに破壊はしてこないようだ。もしくは体当たりをしていてもビクともしないか。

あの黒い靄はここにはないが、突っ込む時に閉じ始めたのが見えたしそちらに阻まれているのかもしれない。


音がしないのでしばらくは大丈夫かな……。


「んで、どうする?」


ファティマと俺の言いあいをじっと見ていたダイチが、剣を振りながらこちらを振り返る。

こっちは俺らを気にせず前を警戒していたようで、『特になんもいないみたいなんだけど』と声が返ってくる。

トリスはと言えば。


「駄目ですね、索敵陣が機能しません。生活魔法は使えますが攻撃が出来るかもわからないですね」

「出力上げれば使えそうか?」

「使えるかもですけど、控えた方がいいかと。点灯だけでも体感2倍近くの魔力を使ったので消耗が怖いです」


一通り既に使用を試したのか、燃えカスになった紙をひらりとさせる。

詠唱をしたりしないのは、恐らくすぐに違う魔法に取り掛かれるようにするためだろう。

紙に書かれているのは極力魔力の使わない魔法のようだが、明らかに消費が増えたと言う事は……。


「次元が違うって、空中にある魔力が存在しないって事か?」

「でしょうね」


基本的に詠唱をするのは、周りの魔力を取り込むためとも言われている。

紙を媒介にする事で消費魔力を押さえられるのもこのためだと言われているが、消費が増えているなら完全に閉じている場所なのかもしれない。

そもそも外観が神殿の時点で何か嫌な予感しかしないのだが。


「いやな予感はするが…」


崩れたアーチを見つめ、俺は呟く。


「とりあえずここにいてまた崩れて生き埋めにはなりたくないし、どこか目指さないといけない」

「そうですね、入り口で止まっていていいことなんてありませんし」


しかしどこを目指せばいいのか。

ぐるりと天井まで見回せば、どこかで見たような紋様がそこかしこに見える。

ここが魔王の城だと言うなら、王座を目指せばいいのだろうがどのあたりにあるだろうか。


「なあ、思ったんだけど」

「ん? なんですダイチ君」


周りに敵の気配がないか、ゆっくり旋回するファティマを見ながら思案していると、ダイチが何かに気付いたように呟く。

トリスの応答に呼応するように俺も首を傾げると、ダイチはこの世界でこれが当てはまるのかはわからないけど、と前置きをして先を続けた。


「あのさ、ここ神殿そっくりじゃん?」

「そうだな」

「って事は、おんなじ作りなら神殿の主要部っぽい処行けば魔王のところ着くんじゃね?」

「……!」


なるほど、一理あるな。

見る限り、外観だけでなく内部もところどころ見た事があるような場所がありそうだ。

少なくとも似たような場所にたどり着くのではないだろうか。


「神殿の主要部って言うと…やっぱりあそこですか、ね?」

「そこしかないだろうな」


神殿の内部にあったのは"召喚陣"

神殿の中枢にある、一番の要の一番守りが硬い場所であろう位置。

もしこの城の内部が神殿とそっくりならば、確かにそこには"何かが"あっておかしくない。


「……そこまで距離はない筈だ。休まず、行くか」

「ええ」

「おう」

「わかった。私も覚えているし、私が先行しよう」


ファティマが武器を構え直し、歩き始める。

俺はノエルを肩に乗せ軽量化した荷物を背負うと、その後を追いかけた。



…尚、後ろでダイチが「マップの使いまわしとかそういうのってこういう世界にもあるのかなあ」とか呟いていた。

……たぶん違うと思う。



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