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仲間―ダイチ―

祝・1000万PV。による更新です。

ご愛読ありがとうございます(ぺこり)


ルルリアと別れ、魔の森に入った俺たちはすぐに異変に気付く事になる。



「……零体が…離れていく…?」



万全の体勢で行くため、ファティマとダイチが騎乗。

トリスと俺がノエルに乗り、低空飛行を続けること数時間。

万が一にも零体に取り込まれないために索敵陣を展開していたトリスが、不思議そうに首を傾げたのはすぐだった。


「…それどころか魔物にも襲われんな」


ファティマが茫然と呟く。

魔の森は、間引きを行っているとはいえ魔物の巣窟とも言える処だ。

そして今回第二師団が来ていると言う事は、間引きしてから大分時間が経っていると考えられる。

つまり、襲われまくることを俺たちは想定していただけに意外だった。


「…【勇者】がいるからでしょうか」

「恐らくな。歩みを止める、は普通に動きをも止めると言う意味なのか」

「零体が見える事に関係するかもしれませんね。消滅させてくる唯一の人間は、零体にとって脅威なのかもしれません」

「ああ、なるほど。それで逃げてる可能性もあるのか」


他の場所では見られなかった効果に、魔の森と勇者の関係性が見える。

いや、魔物自体が現れるのはゼロではない事を考えると、零体と勇者の関係性だろうか。

魔物の増加自体が零体の具体化のせいだとすれば(魔物に零体がくっついて進化するとか)、その過程を踏んだ魔物は寄ってこないのであろう。


「…まあ、急いでいる身としては襲われないのはありがたいが、慎重に進もう」

「そうですね。動きがそのままの魔力点もありますし、全部に襲われないと言う事はなさそうです」


騎竜と騎馬では速度が違いすぎるため、ノエルと時々索敵を兼ねて飛んでは戻るを繰り返す。

多少の魔物であれば遠くからトリスが魔法を打つだけで問題はないだろうが、積極的に魔力を削る必要性もない。

基本はダイチとファティマに掃討してもらう方針で、俺たちは歩みを進めていく。


魔の森を抜けるには、一体何日の月日がかかるのか、抜けた人間の記録等はないので誰もわからない。

だが、中央に近い処までなら大体半月程度で着くほどの距離である事はかなりの人間が知っている。

そこが本当に中央と言えるほどの距離なのかは知らないが、そこに黒い壁がある事も居城があると言われていることも。

昔書かれた伝記等が本当であれば、だが。


「ファティマ、馬の調子は大丈夫か?」

「あまり良くはないな。怯えている」


ダイチも緊張の面持ちだが、気力で支えているのか言葉は少ない。

基本行軍している時は暴れていないが、精神的に不安定な事は見てとれて、俺は何とも言えず唇を噛んだ。






野営地では2:2で見張りをする事にし、最初の夜が来る。

トリスとファティマが寝どころに潜るのを見届けて、俺とダイチは火を囲む。

幸い魔の森と言われているが食べ物になる草植物が生えていないわけじゃない。比較的大きい魔物が徘徊する場所だけあって、馬が通る程度の道も、野営するだけの広場も散在していて料理する場所の確保も容易だったし、比較的魔物が寄ってこないので野営自体はそれなりに順調だった。

ダイチの調子がおかしい事を除いては。


「ダイチ」

「……」


がむしゃらに進みたいのだろうが、魔物が通らない場所は馬も通れないので、そういった密集した森の木々を避けての行軍は遅々として進まない。

それに苛立ちながらも、暴れても仕方ない事がわかっているために何も言えないのだろう。

結果的にダイチの口数は徐々に少なくなり、雰囲気も段々落ち込んでいった。


「なあ、少し昔話をしないか?」

「? なんだよ突然」


こんな張りつめた状態でいれば、いつか倒れる。

それがわかっているだけに俺は思案する。

ダイチに取って今何が必要なのかと。


「ダイチはどうしてそこまで、みゆきが大切なんだ?」

「……?」

「彼女、ではないんだよな?」


恋人か? の問いに二人で首を振っていた事を思い出す。

どちらかと言うと、彼らの雰囲気は家族同士と言うのに近く、俺達もなんとなく突っ込まない状態でずっといた。

お互いがどう思っているのかは、何となく雰囲気では察せられたけれど。


「…彼女じゃないけど…」

「ないけど?」

「家族、みたいなもんだしな」


何かを思い出すように、ダイチは語り始める。

やはり何か心の裡に抱えていたのか、その言葉は頼りなく森の中に響いて行く。


「幼馴染、だっけ?」

「うん。赤ちゃんの時から一緒に育った」


物心着く前からずっと一緒にいたこと。

ずっと一緒に育ったこと。

ポツポツと話す内容に俺は黙って聞きる。


「俺んは、共働きだったし。毎日のようにみゆきの家に行っては、一緒に遊んでたんだ」

「そうか」

「母親はあんまいい顔しなかったけど、みゆきのおかーさんも一緒に遊んでくれたよ。…俺にとってあの家は、みゆきの存在は、理想の家そのものだった」


昔を懐かしむその姿は歳相応に幼い。

みゆきと遊んだ内容を語る姿は心なしか幸せそうで、それだけでいい思い出を抱えているのだとわかる。

思い描いているのか目を閉じて木に背を乗せているダイチを見つめ、俺は覚悟を決めて呟く。


「……だから、悩んでるんだろ?」

「!」


ダイチが日に日にしおれて行く理由。

それは恐らく、みゆきの行動のせいだ。

何故なら、


「分かったんだろ? みゆきが魔王について行ったって事は、魔王がお前の想像通りだって」

「ゆ、りす、さ…」

「日に日に思い悩む姿を見ればこっちだって分かるさ。魔王を倒せるかどうかで悩んでるんじゃないかって、な」

「……」


想像しながら否定していたこと。

それを、ダイチは知ってしまったのだ。

恐らくは最悪な形で。


「…おれ」

「うん」

「倒せる、んだろうか」


下を向いて自分の手を見つめる姿に、いつもの強がる様子はない。

俺は痛ましさを感じながら、言葉を続けるダイチを見守る。


「おれ、…ユリスさんを、傷つけることも出来なかった、んだ」

「うん」

「みゆきを助けるために。俺は、ずっと、戦ってきた筈だった。自分のために、アイツのために、自分が傷つくのなんて怖くない、筈だったんだ」

「うん」

「なのに。…俺、出来なかった。ユリスさんが、みゆきや俺の事、助けてくれてたの知ってたから、出来なかった」


握りしめる手に何を思うのか。

力を込めた手が、近くの地面にたたきつけられる。


「…俺、知らなかったんだよ。傷つける相手が、知っている人だと言うだけで、こんなに…キツイ、んだって」

「ダイチ」

「助けなきゃ、いけないのに。守らなきゃいけないのに…こんなに傷つける事が怖いなんて知らなかったんだよ…!」


迷子の子供のように、ダイチが叫ぶ。

いや。

子供なんだ。ダイチはまだ16で、大事な人を守る事しか知らなくて。

その優先順位なんて、つけられるほど大人じゃないんだ。


「……なあ、ユリスさん」

「ん?」

「俺、出来るのかな。…出来なかったら、どうしたら、いいんだろう」


迷う姿に、自分の姿が重なる。

俺は自分で出来ないと知った時、どうした?

自分だけで出来ないと知った時、俺は。


「……自分だけでやらなければいいんじゃないか?」

「え?」

「何のために俺たちがいると思ってる? お前だけに押しつけるためにいるんじゃない、助けるためにいるんだぞ?」


親友たかひろの言葉が思い浮かぶ。

ああ、アイツなんて言ってたんだっけ。

確か。


「…『もっと頼れ。お前は一人じゃないんだから』」

「!」


それは、叔父上にも言われた言葉だった。

あの時流れた涙は、またやってしまったのかと思った後悔と。

それより相手が心配してくれている事に気付いた事の涙。


ダイチが頷くのを見届けて、俺はそっと息を吐いたのだった。


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