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途切れた糸


みゆきはどこを探しても見つからなかった。




「アリス、オルト知らないか?」

「オルト? 今回の遠征には来てない筈よ?」

「……そうなのか」


オルトが関係しているのは間違いないので、まず俺はアリスを探した。

彼女の回答に意気消沈すると、アリスは慌てたように俺に向き直る。


「ど、どうしたの?」

「…勇者の片割れが行方不明なんだが。オルトが関係してるかもしれないんだ」

「!」

「会ったんだよ俺。みゆきがいなくなる前にアイツに」


絶句する彼女に、俺は言葉が見つからず黙りこむ。

俺と違いオルトとずっと付き合いがあったアリスにとっては、信じたくない内容に違いない。

時間をとらせて悪かった、そう言って踵を返そうとした処アリスに止められた。


「待って…」

「ん?」

「私、心当たりあるかもしれない」

「ホントか!?」


言われた内容に振り返れば、返ってきたのは謝罪。

ごめんなさい、と呟く声に何故謝られるのかわからずに目を瞬くと、アリスは懺悔するように俺に頭を下げる。


「…あたし、オルトの様子がどっかおかしいの、わかってた…」

「アリス?」

「気のせいだと、思ってたの。ううん、思いたかった。あたしにとっては、ユリスもオルトも、大事な友達だもん…。オルトがユリスの事聞いてきても、友達の事だから心配で聞きたかったんだって、思いたかったんだ…」


ごめんなさい。

そうアリスは再度呟くが、俺は謝られる理由がわからない。

顔をあげて欲しくて肩に手を乗せると、アリスは少しだけ泣きそうになっていた。


「多分…多分だけど、オルトは故郷に勇者かのじょを連れてったんじゃ、ないかな」

「故郷?」

「うん。オルトってね、魔の森と隣国の国境付近にある小さな街―――アクラの出身なの…」


語られた内容は、聞いた事がない内容で。

何故ここで語られるのかわからず首を傾げれば、アリスは言葉を続ける。


「……この前、滅びかけた街なの」

「!?」

「魔物の襲来にあって、オルト、今回の遠征はキャンセルして帰郷したのよ。下級兵士と一緒になってでも、出身地を守るんだって…そう、言ってた」

「アリス」

「どんな事をしてでも守る。―――そう、言ってたの」


どんな事をしてでも。

その、言葉の意味に気付いて俺は絶句する。

まさか。


「いつから、とは知らない。でもね、時々おかしいなって思ってたの」

「アリス?」

「時々話しかけても、ぼんやりしてたり。第二師団内でも評判悪いヤツに話しかけてたり…。第二師団は平民の集まりだし、きっとオルトにしかわからない良さがあるんだとか、そうずっと誤魔化してたけど、本当は違うのかもしれない」

「……?」

「オルトだけじゃないかもしれない。―――頼っちゃいけない力に、…ううん、魔王に、従っているのは」

「おい、アリス…!!」


魔王に従っていると。

断定する口調に俺が焦ると、アリスはただ首を振る。

彼女はもしかしたら、ずっと疑惑を抱えていたのだろうか。


「…ごめっ…、ユリス、ごめんね」

「アリス、もういい」

「言い出したら、本当になってしまうような気がして言い出せなかった。構ってくれないから拗ねてるだけだって、ちゃんと話せば大丈夫だって、そんな風にしかあたし、言えてなかった」

「もういいって!」


ぽろぽろと零れる言葉に、俺はやり切れなくなって止めるが。

アリスの言葉は止まらなかった。

ただ、縋りつくように手を自分の肩に交差させ、彼女は小さく呟く。


「…勇者を攫うなんて…そんなの、そんなのないよ…っ」


吐きだされた声は苦しそうで。

俺はオルトにされた事を含め、かける言葉は何も思い浮かばなかった。





魔王との対決場所は、色々だと読んだ気がする。

ある時は魔王の居城で、ある時は森の中で。

ある時は――――滅んだ、街中で。


アリスに聞いた滅びかけた街アクラは、3年程前叔父上が退避した場所にあった。

俺はあの時訪ねなかったから知らなかったが、あの時の被害も相当数が出ていたらしく、街はその後ずっと避難勧告が出され続けていた。

それでも魔の森の近くにずっと住み続けていた人達は街に愛着があり、中々避難する人がいないままだったのだという。

常に前線として維持されていたこの街は、活性化が始まってから7年…よく耐えていたのだ。

その拮抗が崩れたのはつい先日。

大規模な魔物の襲来でついにその拮抗が瓦解し、無人と化した…そう、教えてもらった。


魔の森から魔物が出てくる事に備え、時折防衛を行っている騎士団が拠点を置く他は、殆ど何も見当たらぬ広大な荒野。

今回の第二師団の駐屯予定地は、俺たちが3年前拠点とした都市のため、アクラへ行く人は現在いない。



いない、筈だったが。



「……一人二人じゃ、なさそうだな」

「それよりも零体も相当数ですね。無人になる訳ですよ…」



俺たちは、駐屯予定地に辿りついていた。

ダイチは街へ直行しようとしていたが、アリスの話しぶりからしてオルトとみゆきだけが街にいるとかそんな微妙な事があるとは思えなかったため、準備を兼ねて第二師団に先行して都市へやって来たのだ。

距離としては直行と変わらないし、いきなり突っ込んで対人戦になるよりは遥かにマシ。


勿論、第二師団の魔獣討伐に関しては手伝わない予定で見逃してもらうつもりだった。

タクラにはファティマが事情を説明し、砦の一角だけ借りる予定だったのだが…。

事情を聞いたタクラは、魔王の息のかかった者が廃墟と化した街にいる、しかもその大多数が元第二師団出身者の可能性があると言う事を告げた処、予定を変えてくれた。

つまり全面協力してくれる事になったのだ。王へは『廃墟にて零体発見のため間引きよりも処理を優先』という名目で。


正直助かった、としか言えない。

俺たちは魔物相手に戦った事はあるが、トリスを含め対人に関しては…経験がないのだ。

試合はあれど、殺し合いはした事がない。

そんな俺たちがのこのこ出て行った処で何が出来るだろうか。


第二師団は良くも悪くも平民出・傭兵出が多く、盗賊を含め対人戦もこなした事がある者も多い。

俺たちが無謀に突撃するだけより、はるかに勝算があると思われた。



「…なんで、そんな、落ちついてんだよ…っ」


索敵陣を前に、俺とトリスが生命点の数と零体数を記録していると、それを見ていたダイチが悔しそうに呟く。

ちなみに、ルルリアとトリスが交代で拘束魔法をかけている状態である。

そこまでしなければ止まらなかったのだ、彼は。


「落ちついてない」

「落ちついてるわけないじゃないですか…ッ」


俺たちの声が揃う。

だが、目線は陣から離れる事はない。

俺たちは、情報が何より大事である事を知っている。


「じゃあ、なんですぐ…すぐ、行かないんだよ…っ」


ダイチも自分が理不尽な事を言っているのはわかっているのだろう、言葉に力があるわけではない。

魔力使うから落ちついて欲しいんだが、こればかりは無理なんだろうな。頭痛くなるけど自力で無理やり解かない処を見るとそう察する事は出来る。


大体、この辺りは荒野が多くダイチ一人では旅をするのすら辛い状況だ。

トリスはぶっちゃけ一人であればここまで転移で来れるが、ダイチや俺はそうではないしルルはここに来たのは初めて。

トリスが転移であの街中へ跳べたのならまた別だったが、あいにくと行った事がなかったので実質徒歩でたどり着かなければならないのだ。


いや、途中までダイチとファティマをノエルに乗せて、魔術師二人は空飛んで、だろうけどさ。

騎馬じゃ速度をあわせなきゃいけなくなるからたどり着く前にバレる。しかも魔力がすごい勢いで枯渇するので、ずっと行うのは現実的じゃない。


「……攫う、って事は命の危険はないだろ?」

「加えて、みゆきさんには身を守るために結界系の魔術を教えてあります。後、これは保険で装飾にかけてあったんですが…無意識下でも、攻撃されたり外したりすれば僕に伝わるようにはしてあったんです。けれど発動した形跡は今もありませんし、彼女が傷つけられるような事は起こっていないと思います」


何を言われて連れ出されたかまではわからないが…。

みゆきは無抵抗で連れ去られていて、抵抗したような形跡はどれだけ探しても見つからなかった。

それどころか、攫ったのならこちらに交渉してくる筈なのにそれすらなくて。

アリスの情報に藁をもすがる状態でやってきたのが現状なのだ。零体が発生している事で、少なくともオルトの故郷の街で何かが起きていることは掴めたが、あそこにいるのかどうかも定かではない。


「それに…」

「ぶっちゃけみゆき連れ去ったの、オルトじゃなくて"魔王"の方だったみたいだからな…」

「…っ!」


そうなのだ。

すぐにオルトと結び付けて確認してしまったが、宿の人間に詳しく聞いたところ連れだしたのはオルトではなかった。

それどころか、みゆきは驚いてはいたようだが、自分から出て行ったのだと言っていたのだ。

それが指し示すのは一つしかない。

彼女にとって、魔王は知り合いで……他の誰も呼ばずに、着いて行ってしまうほど、親しい人間だったと言うことだ。


「く、っそ…なんでだよ…。なんで俺を置いてったんだよ…」


ダイチはさらに力なく呟くが、本人の方が理由を理解しているのかもしれない。

みゆきはダイチが傷つくのを何より嫌がっていたから。

"魔王"を見て、彼女は恐らく自分からついて行くことを選んだのだろう。

それがどれだけダイチにとって傷つくことなのかは気付かないまま。


「……いない、みたいですね」

「やっぱりか?」


トリスが索敵陣を操作しながら、呟く。

みゆきにつけていた装飾に魔法をかけていたトリスなので、自分の魔力であれば段階を踏めば追える。

そうして廃墟となった街からみゆきを探してもらったのだ。

……いない可能性の方が高いとは思っていたが。


「……みゆきがいないなら行く意味、ないよな」

「そうですね。気にはなりますが、優先事項は別。おそらくみゆきさんがいるとしたら魔の森を突っ切った先にある魔王の居城の方でしょう」

「じゃあ、俺たちはそちらに行く事をタクラに伝えるか」


街がどうなっているのかも気になるが、俺たちが優先するのはみゆきの安全と魔王討伐。

イレギュラーは起こったが、そのまま予定通り魔の森へ突き進み彼女みゆきを探す…そちらが選択となった。


「ちょっとよろしいですかしら、ユリス様」

「ん?」


方針が決まった処で、息を吐くと。

ルルリアが何かを決めたようにこちらを見ていた。


「私、ここに残ってもよろしいかしら」

「へ?」

「元々魔王討伐は少数精鋭でないとかえって大変と聞いた事がありますし。零体に関してはトリスから聞いておりますから、私はここでの方が役立てると思いますの」


ルルリアは索敵陣を見て、さらに呟く。

その指は迷いなく中央を指し示していた。


「あと、ここ…大きい点が、ありますでしょ? これ、多分神子様だと思いますの」

「あー…そうだな。該当する魔力の強さだと、確かに彼女かも」

「そうでしょう? 何が起こるのかはわかりませんが、私…彼女から目を離すのは得策ではないと思います。ですから、残りますわ」


言い切った声は、堂々としていて揺らがない。

何を思っていいだしたのかまでは察せなかったが、彼女の気持ちが変わる事はないのがわかったので俺はただ頷く事しか出来なかった。


帰省が早まったので8月の投稿はここまで。

一区切り。次回から魔の森に入ります。


更新再開予定は活動報告にてお知らせします。

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