出発
進まない…!
もうちょっとだけ説明回。
「勇者現れし時、魔のモノは歩みを止める―――神殿の教義は確か、そう言っていた筈です」
「では、勇者の召喚条件は歩みを止められるモノ、ということでしょうか」
翌日。
多少の怪我なら回復でなんとでもなってしまうので、今日も剣士陣営は元気だ。
昨日の服のぼろぼろさとは裏腹に颯爽と修行に向かったダイチとファティマを見送った後は、いつも通りルルとトリスと陣の解析を始める。
いい加減戦闘訓練が必要なんじゃ? とも思うのだが、俺は元々戦闘要員ではないしな。
トリスは時々参加しているし、多分問題ないんだろう。多分。
「歩みを止める、か。そう言えば魔物被害、少し減ってるよな?」
「ええ。この前の魔物討伐も、増え続けることを想定された予定数だったので、肩すかし状態だったらしいですし」
「って事は、やっぱココは『歩みを止めるモノを他の世界より追放し』かねー」
召喚じゃなくて追放とか、逆に読めと言われても何かいい気はしないよな。
等と思いつつ、トントンと陣の中央を指でつつくと。
トリスが首を傾げる。
「魔王が現れると敵が増え、勇者が現れると歩みを止める、ですよね?」
「ああ」
「何かひっかかりません? えーと、その伝承逆にして見ると?」
「魔王が消えると敵が減り、勇者が消えると侵略してくる…か?」
「……?」
何か、変だな。
ルルの方を見ると、ルルも首を傾げている。
何か気付いたのだろうか。
「…変ですわよね?」
「…変だよな?」
「…変ですね」
三人で頷く。
そう、変なのだ。
「敵が増えて歩みが止まったら、どこかに魔物が留まり続けるよな」
「それなのに逆にすると、敵が減るのですよね。で、勇者がいなければまたやってくると」
「勇者現れしとき、魔のモノを討伐するとか、倒して減らすとかじゃないとおかしいです…わよね?」
三者三様疑問点を口に出しもう一度頷き合う。
召喚の条件について知れれば魔王の正体を知る事が出来るんじゃないか、と思ったのだが予想外に難航したのだ。
理由としては、召喚条件を読んだ後に逆の意味合いを探さなければいけないのだが日本語と同様で色々読めてしまい一向に正解らしき単語にたどり着かない。
面倒すぎる。
「とりあえず血縁とか、血筋の事は書いてないんだけど…」
「似たような記述はありますね。魔王の血と勇者の血と…『連なりし魂』?」
「連なるってなんだろな。逆にすると連動しない身体? てかここで魔王出てくるのか」
そうやってしばらく試行錯誤するが、いい加減こんな研究を続けていると思考も低下するというもので。
俺たちは揃って紙に書かれた召喚陣を投げ出した。
もう、他の事をした方がいいだろう。ここ数日は堂々巡りすぎる。
「というか、前勇者にダイチがお墨付きもらったし、そろそろ討伐のために魔の森に近づいた方がいいよな」
「魔の森の魔物数はむしろ増えているって聞いてますしね。勇者が近づくと減るのであれば、この陣の記載された召喚条件の有効性とかもわかりますよね」
「そーだな。魔の森の零体の数が増えてるのか減ってるのかも気になるしな…」
研究した内容をまとめた紙を束ねる。
一応これをもとにして、旅してる間にみゆき(とダイチ)を送還するための陣も書いてみようとは思っている。
本当なら魔王退治なんてさせずにみゆきだけ帰したい気分だが、みゆきが勇者ではないと限らないし、無理に帰したところでまた喚ばれる気しかしないから、強行する意味がないのだ。
大体俺の魔力、ここで使っていいのかもわからないしな。
トリスでも数年魔力を何かに貯めれば陣を動かす自体は可能だろうが、可能性は可能性でしかない。
それよりも、俺が神様に望まれた事をすませて送る方が正しい気がする。
この辺りの魔物数が減っているのは確実でも、トリスの言う通り魔の森周辺では逆に増え続けていると言うし。
魔王が誰であれ、討伐が周囲の人間に望まれている事は絶対で、そこは揺らぐものではない。
ダイチが魔王を倒したくないと言う可能性は否定できないが、ダイチは一度として魔王討伐を出来ないと言った事はない。
だから、まずは対峙し相手を知る。
これしかない気がする。
「その前に一つ問題があるんですが…」
「ん? なんだ?」
トリスが言いづらそうに、口を開ける。
こいつがためらう時は大抵ろくなことではないので俺も身構える。
「昨日、話してた事なんですけど」
「ああ…神子?」
「はい。あの後定期連絡を取ったら、神子がやっぱりと言うか…接触してきそうなんです」
曰く、神の祝福を勇者に与えていない。
曰く、一度王都へ戻ってきてしかるべき編成を考えろ。
曰く、神殿に出頭しろ。
うん、言われてる内容にいやな予感しかしないね!
全部お断りしたい、切実に。
「断ったんですが、神の祝福だけは与えないとまずいとの事で」
「いっらねー…」
「王都は勘弁してもらって、カルデンツァで会合を開く事にしました」
……それが交渉ギリギリだったらしく、トリスは派手に溜息をついている。
まあ王都だとセレス教信者の巣窟だしな。
その点を鑑みても、長い事防御に特化した別荘があるカルデンツァの方を選ぶか。
「父や叔父にも援助は頼みましたし、多分大丈夫だとは思うのですが」
「兄様は来ないんだ?」
「それは僕が止めました。サルートは一度零体に取りつかれてますし、本人も何かあった時を考慮して王都のカイラード家にいると」
…あー、まあそうか。
久しぶりに会いたかったのだが、そうも言っていられないか。
むしろ来たいと言った処を家族全員に止められた上、母上とクララの護衛を頼まれたのだろう。
俺でも止める。また自殺しかける兄様なぞ見たくないしな。
「とりあえず…カルデンツァへ出発、だな」
「はい。ダイチ君とみゆきさん、ファティマさんには帰ってきたら相談しましょう」
「ルルリアはどうする?」
前勇者のいる街なので、ここの方が安全な気はするが…。
ルルリアはすぐに首を振ると、にっこりと笑った。
「神子様からユリス様を守りに一緒に参りますわ」
……。
それ、物理的な意味だよね?
次は展開します、ハイ。




