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前勇者と前神子



「黒い靄? あー。森ん中で結構見たなあ」

「魔の森以外で見たことありますか?」

「後はまおうが使ってんのは見たが、他では全く見てねえ」


数日後。

ようやく捕まえた前勇者との対談は、俺とトリス、そしてダイチの3人で訪問する事にした。

聞く内容が内容なので、女性陣はいない方がいいかと思ったためだ。


いやだってほら、神子の使ってた魔法の事考えるとね…。

対象になってそうなダイチはともかく、みゆきにはさすがに早いだろう。

ファティマもあまり向いていそうにない。


「ちなみに見えたのは貴方だけですか?」

「俺だけだな。なんか勇者の証ですわステキ! とか棒読みで言われたし」


棒読みて。

誰に言われたんだ…。


「棒読み…。ファルさん。誰に言われたんだ、それ?」

「神子だな」


…おう?

あっさり、と帰って来た答えに俺は固まる。

ちなみにファルとは前勇者の名前である。この人普通に都市の名前に自分の名前つけちゃってるのだ。

曰く、わかりやすければいいと思った、だそうで。

拳を重ね合っただか剣を打ち合っただか詳細は知らないが、何気にダイチとは気軽に話す仲になっていたりもする。


というか。

その話の流れだと、PT内に神子いた事にならないか?

え? 神殿と決裂してたはずなのにどうしてそうなった?


「…神子、アンタのPT内にいたの?」

「いたいた。神殿から自力脱出は不可能でな。神子がお目付け役になりますとか言って誤魔化して出奔したんでな」

「あー、なるほど」


その発想はなかった。

てっきり神殿の思惑を振りきって出奔したとばかり思っていたから、神殿関係者とどういった付き合いをしたかまでは突っ込んで聞いていなかったのだ。

しかし口ぶりからすると、神子とはとても仲が良かったようには感じられないな。


「実はそのことも聞きたかったんですけど、神子ってなんか勇者とか、勇者関係者に秋波を送る義務でもあるんですか?」

「義務というか習性? あのよくわからないモノ受信してる神子おんな曰く、『貴方が運命の相手かもしれないなんてどうしたらいいの!?』だったらしいぞ」

「「………………はぁ?」」


トリスと俺の声が重なる。

習性って意味がわからないよ。

そして何気に酷いな!


「そもそも異種族なんで俺がおことわりだと何度思ったか」

「そりゃそうですねー…」


すごく遠い目になる前勇者に、同情の念を禁じえない。

勝手に恋愛対象にされた挙句文句言われるとかどういうことだ。


「つーか、なんでそうなるんだよ?」

「俺に聞くな」

「聞くなって言われても気になるじゃん。なんか心当たりねーの?」

「こころあたり、なあ…?」


ダイチの言葉に思案するように、トカゲ頭がちょこちょこ傾く。

うーん、なんかこのコミカルな動き見ると触りたくなるんだよな。

触ろうとした時点で殴られそうな気しかしないがつい手が伸びそう。早く止まれ。


「あいつらは俺が国作る前にどっか行っちまったんで、その後の行方は俺も知らんしなー」

「ん? 結局神子は、誰かとくっついたんだ?」

「ああ、一応一緒に旅した魔術師とくっついたぞ。何がいいんだかよくわからんかったが、『世の中には知らなくていい趣味もあるんですよ』とか言ってたな」


それ、明らかに魔術師が変人じゃないか!

蓼食う虫も好き好きってレベルじゃない…どんな趣味だ…。

というか神子って毎回そういう人の話を聞かない子なのか? どういう教育してるんだよ神殿は。


「……話を戻すが、神子は基本的に勇者と旅するメンバーと恋仲になろうとするでいいのか?」

「いいんじゃねーか? 剣士口説いて振られて魔術師とくっついてたし」

「「「…………………」」」


なんだろう。

紅一点だったのはわかったけど、想像以上に生々しい返答に上手く言葉が出ない。

結局神子が秋波かける理由とかわからないし。


「あ、思い出した」

「?」

「最初になんか言われたわ。『私の使命のため』とかなんとか」

「『使命』…?」


誰かとくっつく事が?

意味がわからない。

本当に意味がわからない、どうしよう。


「それ聞いた魔術師がなー…また物騒で」

「?」

「『使命とかどうでもいいんで、国外逃亡しますね』とか言って嫌がる神子引きずってったからマジで行方は知らん」

「「「……………………」」」

「そういやそれで信者どもが行方を教えろ的に押しかけて来るんだった。すっかり忘れてたわ」


いやそれ、むしろすごく大事おおごとじゃないか?

忘れられるこの神経がすごいと俺は思う。

ん? と言うか今の話を総合すると何か見えてくるものがあるな。


「……使命。恋仲優先。神子の使命を全うさせないために国外逃亡する理由?」

「神殿にかかわらせないため、って事ですよね? 国外逃亡…」

「そこはそうだろうな」


トリスと顔を見合わせる。

神子が魅了をする理由と合わせると、見えてくる物は…。


「……子供、か?」


魔力至上主義の神殿。

勇者は例外なく、魔力が高い。

そして神子が求めてくる理由となると、そうなるが…。


「……それだと剣士を口説く理由がわかりませんが」

「魔力高かったとか?」

「ん? ヤツは魔法は殆ど使えなかったぞ」


……?

何か違うようだな。

魔力の高さじゃなくて、勇者の仲間である事が条件なのか?


「…つか俺思うんだけど」

「ん? どしたダイチ」

「問題なのはそっちじゃなくて、神子が押しかけてきそうな事じゃ」

「!」


言われてみれば。

最初に聞いて流してしまったが、神殿の妥協点が神子の同行だとしたら近いうちに同行指示とか王から飛んでくるんじゃ?

まずい。

その発想はなかった。


「そっちは父が抑えてる筈ですけど、どこかで会合とかねじ込まれる危惧はしてます」

「って、抑えてたのか」

「ええ。回復役を勇者の支援者を決める時に募集しないのは、神子がいるからだったらしいです。僕らにはみゆきさんがいるので、かえって人数が多いのは困ると押し切ってあるんです」

「おー」


さすがトリス。

思わず感心すると、トリスが何故か非常に嬉しそうににこにこし始める。

ダイチはよほど神子が苦手なのか、ほっとしているようだ。


「んで? 後俺に質問あんのか?」

「あ、とりあえずこの二つだけ聞ければ大丈夫です。お忙しい処無理言ってすみませんでした」

「ああ。気にすんな。とりあえずダイチだけ置いてってくれればいい」


……Why?


「置いて、いくとは」

「ん? 修行だいぶ進んだんだろ? 手合わせだよ、手合わせ」


俺とトリスは顔を見合わせ、揃ってダイチを見た。

ダイチは嫌がると思いきや、何故かやる気満々で立ち上がる。

……いいのかそれで。


「えーっと…」

「あ、兄上。ルルと解析の方進めに、戻ってもらって大丈夫ですよ。僕が結界役と回復役で残っときますから…」


トリスがそう言うので俺はありがたく退場する事にした。

いや、だからさ。

出て行った途端にすごい爆音がしたり、どこからともなく殴打音がしたり、なんでそう勇者達はバイオレンスなのだろうか……。




みゆきが勇者じゃなくて良かった。

俺は心底そう思った。




ちなみに前勇者のPTは

勇者:リザードマン 性格:猪突猛進

剣士:人族 性格:冷静朴念仁

魔術師:人族(半獣) 性格:ヤンデレ(神子限定)

神子:人族 性格:天然

でした。

想像すると神子がいろんな意味でかわいそうな事になっているような気がするのは気のせいですよ?

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