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閑話 悩める少女と魔術師

このお話は1000万PVを記念して割込投稿されたものです

*時系列が多少前後しますのでご了承ください*


何も出来ない自分が嫌いだった。

泣く事しか出来ない自分が嫌いだった。

でも一番嫌いなのは、嘘の付く事が下手な自分。

一人で大丈夫だからとそう笑って言えたのに、目だけは正直だったからぼろぼろ零れた水分で全部台なしだった。


「なあ、迷惑?」

「……」


無理するなと、大丈夫じゃないのは俺の方だからと。

相手がそう言うのを心のどこかで知っていた、そんな自分がずるくて嫌い。

結局手を離す事が出来なかった、そんな自分が弱くて嫌い。


相手の泣きそうな声に、首を振る事しか出来ない自分が弱くて、小さくて、情けなくて。

私も守りたいのに、そう呟いた声は虚空に消えた。





「ってぇ、痛ぇよ!」

「あ、ごめん!」


血は見慣れている筈なのに、私は何度だって触れる時には恐る恐る触ってしまっていつも怒らせる。

そっと怪我の状況を調べるために腕を掴むけれど、そこが傷の上だったみたいでダイチは盛大に眉をしかめた。


「……痛いよね?」

「そんなべたべた触ればな」

「っ! ごめん」

「あー。もういいから、早く治してくれよ」


慌てて魔力を指先に込めると、徐々に詠唱とともに光がともり始める。

本当は魔法をかけるには触る必要なんてまったくないのだけど、私はいつも治す時には傷の具合を確かめてしまう。

砂利や土が入っている場合は洗浄するので触る必要があるのだけど、ダイチのこれは普通に木刀の打ち合いで出来た傷で打ち身ばかりなので触る必要はない。

触らずに治せばいいのに、ついじっくり確認してしまって毎回ダイチに痛がられるのだ。


「で、出来た、かな? まだ痛い?」

「ん? んー……左の内側がまだ痛い」

「えっ!」


慌ててひっくり返してもらうと、光が吸い込まれなかった箇所が一つ。

どうやらイメージに失敗したみたいで自分が見れたところしか治せなかったみたいだ。

魔法はイメージに威力が左右されるから魔力との兼ね合いを考える事が必要と言われてはいるものの、魔法を二度かけたら魔力消費は倍になる。

いつも私は何か失敗するのだ。

しゅん、としながらその打ち身に指をあてるとダイチが盛大に飛びあがった。


「っ!? だから痛ぇって!!」

「あ!」


光がそれて魔法が不発する。

ごっそり魔力を持って行かれた感触。

今度は脱力感にしゅんとすると、ダイチが首を傾げた。


「もう魔力切れたのか?」

「2回も不発しちゃったから……」

「あー……」


魔法の不発はイメージとは別に、使用する魔力の制限が傷の快癒で止められないので消費が激しくなる。

意図せず不発をしまくったので魔力が盛大に枯渇してしまったのだ。


「まあこれくらいならいいや。やってる間に少しは回復するだろ。もちょいやるわ」

「あ!」

「ん?」

「え、えっと……無理しないで、ね?」

「それはファティマさんに言ってくれよ。あの人マジ鬼だって、なんであんな重い剣があんな早いんだろ……」


ぶつぶつ言いながらも待っていたファティマさんに近づいて行き、修行を再開するダイチ。

その目は真剣で、もう私の方は見ていない。

再開する動きを目視し続けることは私には無理だから、溜息をつきながら近くの椅子に腰を下ろした。



…すぐに身体能力を強化する魔法の使い方を覚えたダイチと違い、私の治癒魔法は一向に上手くならなかった。

これでもダイチの怪我には見慣れているし、包帯を巻くことだって深い傷じゃないかどうか見ることだって出来るのに、肝心の治癒魔法の威力が上がらないのだ。

即治すイメージが上手く出来ないみたいですぐ不発するし、不発しまくればすぐ魔力がなくなって役立たずになる。

トリスさんには逆に治る時間を測れてしまう経験が邪魔するのかもしれないですね、と言われたけれどどうしていいかわからない。


はあ、とまた溜息がこぼれた時。

誰かが私の横に座った。


「え?」

「調子はどう?」


顔をあげるとそこにいたのは、ユリスさんだった。

どこかに行った後なのか、騎竜を操る時に着る事が多い服を着ている。

今の季節だと少し厚着に見えるけど彼は汗一つかいていない。

暑くないですか? と聞いた私に竜の速度は半端ないから寒いんだよと彼は笑って言っていたっけか。


「あんまりよくないです……」

「不発しちゃった?」

「はい……」


ユリスさんは魔力がないから魔法は使えないんだと言う割に、誰よりも魔法の使い方を知っている不思議な人だ。

魔力がないのに魔法の理論は教えられるんですか? と首を傾げた私に彼は笑ってこう言ったっけ。

『魔力がなくても使い方を知る事は出来るんだよ』って。

使えないのになんで勉強しているのか不思議だったけど、理由は教えてもらっていない。何かとても聞きづらい雰囲気だったのだ。


「不発する理由ってなんだと思う?」

「ええと…トリスさんは、元いた世界の知識が邪魔してるんじゃないかって言ってましたけど……」

「元いた世界の?」


彼がこてりと首を傾げる。

ダイチより背が高い彼が首を傾けても、位置は大分高い。

顔に合わせて顎を上げると、私は口を開いた。


「はい。向こうの世界では一瞬で傷が治るとかないですし」

「あー…なる、ほど。どのくらいの魔力でどのくらいの傷が治るか、とかその辺がイメージできてない?」

「はい。魔力少しこめただけだと発動自体しなかったり、使いすぎたら治るけど脱力感半端なかったり。後は傷に吸い込まれなかったりと色々です……」

「ふむ」


彼は目をつぶって私の話を聞いている。

しばらく考慮しているようだったが、彼はすぐに目を開いて私を見つめた。


「向こうの世界では、こっちの世界みたいなのを想像する物ってないの?」

「想像する物?」

「うん。小説とかさ。こっちには召喚で来る人の伝記とか残ってるから、そっちにはないのかなって思って」

「あー……」


綺麗な藍色の目を見ながら、私は思いだす。

そういえばダイチがよくやってたゲームとか、RPGとかって回復魔法ってあったな、って。


「ゲームとかならあります、ね」

「そういうの、魔力消費とかの概念ってない?」

「あ、MPとかありますね。最大とか、使用する量とか」


横で見ていただけだけど、そのRPGはお姫様を助けるものだったから良く覚えている。

僧侶にみゆきの名前つけていい? って言われたけど、それだと私がお姫様になれないって私怒ったんだっけ。

ぎゃあぎゃあ言う私とダイチに、お母さんは僧侶でもお姫様になればいいのよ、とか無茶な事を言って私を納得させたんだった。


「そのイメージで何か掴めないかな?」

「あー…元々使う魔力をイメージして、強い回復、弱めの回復とかにわけて、後はダイチの傷具合でどれくらい治るかで区切ってみたら、いい……のかな?」


RPGなら、レベルが上がるごとに大きい回復の魔法が使えた筈。

そのイメージで調整するようにしたらいいのかな?

そう、考えをまとめて彼に言うと彼は大きく頷いてくれた。


「考え方的にはそれで近いと思うよ。トリスの治癒は結構魔力消費させてたりするから、実はあんま参考にならない気がするし」

「え? トリスさんが?」


ダイチの傷をあっさり回復させているところを何度も見ているだけに、魔力消費が多いと言い切るユリスさんが意外で聞き返すと。

彼とトリスさんの従兄弟に騎士がいて、その人は魔力のやりくりをするのがすごい上手なんだそうだ。

それに比べるとトリスのは大ざっぱすぎる、と嘆きつつ彼は私にアドバイスを続けてくれる。


「みゆきはトリスとはいかないまでも相当魔力あるみたいだし、不発する癖が治れば早々切れないとは思うけどね。魔力は温存するに越したことはないから、魔力量の調節を覚えるといいと思うよ。トリスは心配性だからもう全身治すイメージで使うって言ってたからな」


あれは魔力お化けじゃないと使えない使い方だ、と。

ユリスさんは弟さんをけなすように言うが、その表情は優しい。

なんだかちょっと嬉しくなって、私は彼に問いかける。


「ユリスさんはトリスさんをよく見てるんですね~」

「え? いや、まあ、身近で一番魔法使う奴だからね」

「ふふ、いいなあ。私は兄弟がいないから、そんな風に話せる人がいないですし」


弟という存在がどういうものかはわからないけど、ユリスさんの様子を見ていると兄弟っていいなあと思える。

トリスさんも優しいし、私とダイチを気遣ってくれるけど。

ユリスさんはそのトリスさんを気遣いながら、こっそり私やダイチに声をかけてくれるのだ。


「……みゆは一人っ子なんだ?」

「はい」

「そか、でもダイチが弟みたいなもんじゃないのか?」


忘れ去っていたファティマさんとダイチの方を見ると、いつの間にかダイチの生傷が増えている。

こちらを一向に見てはいないが、動きが鈍っているのか私にも見えるくらいになっていて戻ってくるのは時間の問題かもしれない。


「ダイチは、私よりしっかりしてますよ」

「みゆきより?」

「そうです。……私は、いつも守られてばかりだから……」


あ、こけた。

相変わらずのファティマさんの猛攻に負けたダイチは、滑った拍子に打ったらしい足を抱えて固まっている。

駆け寄るか迷っていると、ユリスさんの声が私を止めた。


「そうか。……ダイチは弟じゃなくて、みゆの騎士ナイトなんだな」

「!」

「みゆきは守られているの、嫌なのか?」


守られて"ばかり"と言った私の台詞を聞き咎めたのか、ユリスさんが平淡な声でさらに聞いてくる。

私はダイチが起き上がるのかを見つめながら、ただ口から気持ちをこぼした。


「……私は、なにも返せないもの……」

「別にダイチは返して欲しくて守ってるわけでもない気がするが、そう思えない?」

「……」

「男なんて、好きな子を守るためなら何でもするもんなんだけどな」

「ふぇ?」


みゆにはまだ難しいかな、と。

ぼそりと呟かれた台詞を聞き間違いかと思ってユリスさんを見れば、彼はダイチを見つめていた。

その目は優しいままで、彼はダイチを見守っているような顔をしていた。


「……ユリスさんもそういう時期、あったんですか?」

「勿論。男が女の子を守るのは、その子が大事だからだよ」

「大事だから?」

「ああ。……どんなに力が足りなくても、どんなに怪我をしても、な」


あ、またこけた。

視界の隅で動かなくなったダイチに、慌てて近寄るファティマさんを見ながら私は動けなかった。


「……迷惑、じゃないんですか?」

「迷惑?」

「だって、私が気をつければいいだけの事なのに、ダイチばっかり怪我するんですよ?」


ユリスさんに何を聞いてるんだろうと思いながら、私の口は止まらなかった。

私が、もう守らなくてもいいからって、言った時。

ダイチは、守るのは迷惑? って聞いた。

あれは、心のどこかでそう思ってたからじゃないかって、ずっと思ってたのに。


「怪我なんて勲章じゃないかな。むしろ守ることで心配かけてないかな、守って力足りなくて怪我してしまうのが迷惑じゃないかなって心配になるような気がするけど」


そう、何でもないように言うユリスさんの言葉を信じたくて、私はダイチの言葉を思い返した。

あの時、私も守りたいのにって呟いた私にダイチはなんて返したっけ?



「それでも守りたいんだと思うよ」

――――それでも、守るのは俺の役目だ。



ユリスさんと記憶のダイチの声が重なる。

あれは、本心だった?


「それに、今はみゆだって守ることが出来るんじゃない?」

「え?」

「攻撃する事だけが、守る事じゃないよ」


頭を撫でられる感触に、吃驚して顔を持ちあげるとユリスさんはただ微笑んでいるだけだった。

ぽんぽん、と二度私の頭を軽く叩いてその手は離れて行く。


「ほら、出番だよ」

「あ」


つい、と顔ごと逸らされた目線の先を辿ると、気を失ったダイチを引きずってファティマさんがこちらに来るところだった。

慌てて寝かすのを手伝うため立ち上がると、ユリスさんも立ちあがる。


「ユリス、来てたのか」

「うん、すぐ戻るけどね。みゆ、魔力は平気そう?」

「あ、はい! なんとかやってみます!」


寝かされたダイチに手をかざすと、先ほどのイメージの連想が効いたのか自分でも驚くほど簡単に魔力を絞ることが出来た。

同時に残量も頭の中で連想出来て、何回打てるかが計算できる事に気づく。

……魔法って本当にイメージ、なんだ。


「あ、あの。ユリスさん! ありがとうございます!」

「ん? ユリス、一体何やったんだ?」


じわりと魔力の光が行き届いたのが確認できて、そう叫ぶと。

ユリスさんはひらひらと手を振って修練場を出て行くところだった。

……まだお礼、一つの事でしか言ってないのに。


「えと。イメージのお手伝い……?」

「なるほど。ユリスは魔法に関しては本当に博識だからな」

「え、と。魔法だけじゃないと思いますけど……」


連続で治癒されただけの状態のためか、ダイチはすぐには目を覚まさない。

けれど、私はなんとなく満足してその横に腰を下ろした。


「魔法だけじゃない? 何を言ったんだ、アイツは……」

「ふふ、秘密です」


ああ、でもこれだけは言えるかも。

私の魔法のイメージを簡単に変えてしまったように、気持ちを軽くしてしまったように。

ユリスさんの言葉はまるで魔法のようだった。


「……ユリスさんって、本当に魔術師(マジシャンみたいです」

「え?」

「あ、なんでも、ないです!」


ダイチが目を覚ましたら、少しだけ今の気持ちを聞いてみようか。

そう思いながら私は、目を閉じた。


と、言う事でリクエスト内容は

みゆき視点で修行風景(前話過去の欠片の上段部分)

・ユリスをどう見てるかを追加希望有、でこうなりました。

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