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修行開始


さて。

楽しい楽しい、修行のお時間です。

すごく気が重いね!


メンバー紹介。


どんよりとしているダイチ。

おろおろしているみゆき。

困っているトリス。

マイペースに少し離れて素振りしているファティマ。


うん、見事にばらばらだな。

どうしてくれようこの展開。


とりあえずは座学からだよなあ。

一応道すがら、料理を含む旅路に関しての知識は入れたし、魔物の種類を覚えろと言うのは厳しいので生活に役立つ魔法からちょこちょこ教えてはある。

攻撃魔法をいきなり覚えるのはきついので、基礎的な魔法を覚えさせ、余裕があれば撃たせるということも繰り返し済。

だから魔力に関しては馴染んでいる、と言える。


問題なのは、この後。

どのように鍛えるか、ということだ。


「んー…みゆきはとりあえず、後方支援をメインに動くんでいいんだよな?」

「あ、はい。ダイチみたいに運動神経は…良くないので…。魔法をメインにしたいと、思います」


攻撃もそれなりに出来そうではあるが、性格的にあまり向いてないようで色々戸惑う事が多かった。

それを見てダイチが攻撃は俺がやる、と言い出したのでみゆきはメイン支援のみで鍛えるのが無難だろう。

俺としても前に出られるのは怖いしな…。

俺が守りきれるならいいが、俺は正直お世辞にも強いとは言えない。

ノエルが威力を発揮できない狭い場所での戦闘となると、魔物相手には歯が立たないことも多い。

だから、この決定にも希望にも、特に不満はなかった。


「となると…基本はノエルに乗る方がいいかもしれないな」

「えっ??」

「攻撃しながら身を守る術を習っているトリスはともかく、みゆきは同時に行うのは厳しいだろ?」


今まではノエルを肩に乗せて俺は避けているだけだったが、人数が増えるとなるとそうもいかない。

加えて完全後衛のみゆきがいるなら、完全に視野外に走った方が無難だと思う。

そう思い、口に出すと疑問をまず言ってきたのはダイチだった。


「みゆきが竜を操れるのかよ?」

「基本は俺が動かすが?」

「………」


騎竜は二人乗りが普通です。

まあ、みゆきに風の加護を覚えてもらって飛ばしていれば特に問題はないだろう。

後はノエルがみゆきを乗せてくれるか、だが…。


「ノエル、乗せてくれるか?」

「きゅ♪」


俺の肩からみゆきの頭へ飛ぶと、そのままぽてっと舞い降りる。

すりすり身体を寄せている姿は、警戒心のかけらも存在しない。

ふむ。みゆきの事は好きらしい。

相変わらずノエルの騎乗基準はよくわからないが、彼女はきっと乗せてもらえるだろう。

ちなみにダイチは嫌いではないようだが積極的には行かないし、ファティマに関しては互いに距離を取っているようでよくわからない。トリスは乗れる。


「ノエルちゃん、よろしくね?」

「きゅ~♪」


すりすりし続けるノエルをみゆきが撫でる。

うーん、ダイアナちゃんと嫁を見ているかのようだ。

和む。


「……トリスさん、これで本当に下心ねぇのかよコイツ…」

「えっ。な、ないと思いますけど」

「二人きりで騎乗…手取り…足とり…」

「お、落ちついてダイチ君!」


ダイチがなにか言っているが俺の耳には聞こえない。アーアー聞こえない。

これぐらいの役得、別にいいだろ。

こちとら24年も娘と離れていたんですよ?

何故かその娘が17だけど。この年齢差はなんだろうな、異世界だから時間の基準がずれてんのかな?

なんとなく、ひっかかるけどまあいいや、考えても仕方ないし。


「竜に乗るにあたって、気をつけた方がいい事ってあります?」

「そうだなー…振り落とされたり、攻撃された時のために、その場で浮遊するくらいの魔法はおぼえてくれると楽かな。後、竜の支援の魔法も覚えてくれると助かるよ」

「わかりました!」


素直に笑うその顔が眩しくて目を細める。

人の言葉を聞くその姿に躊躇いや影はなくて、健やかに育ったんだろうなと思う。

同時に、やり切れなさがこみ上げて、俺は軽く唇を噛んだ。


(…彼女が、娘を育てられないような人間だと思っていたわけではないのに)


何故、この娘が育つ近くに俺がいなかったんだろうと。

わかっていた後悔だったはずなのに、いざその姿を見てみれば湧きあがるのはどうしようもない寂寥感とやり切れなさばかりで。

そんな自分が嫌になる。


「ユリスさん?」

「……あ」

「どうしました? 疲れました?」


突然黙り込んだ俺が気になったのだろう、顔を覗くように首を傾ける姿に慌てて手を振る。

まずい、みゆきを見ていると昔が連想されて止まってしまう。

不自然にならないように答えなければと口を開く。


「いや、ちょっと考え事をしてただけだ」

「そうです、か? ユリスさんは色々抱え込んでるみたいで、心配です」

「!」


――――ゆきちゃんは、いつも一人で抱えちゃうんだから。


ふいに、彼女の声がみゆきの声に重なって聞こえた。

そう言えば、俺はいつだって怒られてばかりいた。

いまみたいに、彼女は俺が抱え込むとすぐに気づいて心配そうに怒るのだ。


(…やっぱり、似てる…よな…)


思い出したいようで、思い出せない彼女に。

みゆきはどこまでもそっくりだった。


「……本当になんでもないよ。ちょっと、思い出してしまっただけだ」

「え?」

「君に似た、心配性の女の子をね」


だからなんでもないんだ、と笑いかけると。

みゆきはきょとんとして、少しして真っ赤になった。


…あれ?


「…トリスさん、俺、もう我慢できないんですけど!!」

「落ちついて!? ファ、ファティマさんっ、ダイチ君に手ほどきしてくれませんかー!」

「みゆきも何真っ赤になってんだよ、離れろそこのたらしあに!」


赤くなってないもん! と叫んで反論するみゆきの頬は確実に赤い。

え、えーと。

照れる要素どこにありましたか?

そして何か外野が騒がしい気がするんだけどどうしよう。っていうか名前で呼べよなんだたらし兄って。


「え?」

「ファティマさんまでぼーっとしてる…!! 兄上ぇぇ…!」

「あ、いや、すまん」


ファティマが素振りをいつの間にか終えて帰ってきていたので、俺は彼女の方に向き直る。

何故か俺の方を見ながら呆けていたファティマは、俺が近づいてきたのに気づいて瞳を揺らした。

何か聞きたそうにするその姿に、内心首を傾げる。


「ファティ? どうかしたか?」

「あ、いや…もう私が教えていいのか?」


修行に関して苦情を言ったのはおぼえているのだろう、思考が切り替わったように聞いてくるファティマに首を振る。

気のせいだろうか。

さっき、何か違う事を言いかけられた気がしたのだが。


「ダイチの剣の方の基礎は俺も一緒にやるよ。トリス、今言った感じでみゆきに指導よろしく」

「あ、はい! わかりました」


ダイチは俺がみゆきから離れるのであれば、とりあえずはいいらしい。

むぅ、と口を曲げる彼に俺は笑いかけながら、場所移動を促した。



…とりあえず、死なない程度にファティマを抑えるのが俺の出来る仕事だろう。



特訓が始まって数時間後、ダイチが俺に対してかなり態度が軟化したことだけは明記しておく。


ファティマさんなにやったんすか…。

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