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似たもの兄弟

神殿から逃げ出して数日。

特に旅に支障はなかったが、問題になったのは行き先だった。


「よくよく考えたら直で魔の森まで行ったら死ねるよな?」

「あ…ったりまえだ! 何考えてるんだ!」


すみません、何も考えてませんでした。

通常なら神殿で半年ほど修行と知識を詰め込まれて魔王討伐に向かう、というのは知っているのだが…。

色々きな臭かったからなあ。

ぶっちゃけ魔法まで使ってくるならば洗脳とかされかねないし、そんなところにみゆきをいつまでも置いておくわけにもいかなかったのだ。


かと言って修行…。

この神殿のまわり自体、弱い魔物はあまりいない。

俺が17の歳に魔物の活性が始まってから、徐々にとはいえ魔物は強くなっていったから、正直初心者向けと思われる魔物はいないのだ…勿論頻繁に討伐される王都や都市の周辺まで行けばその限りではないが…。


「じゃあ、とりあえず修行するにしてもどこかの街に身を寄せた方が良いだろうな」

「どこがいいでしょうか」


トリスと顔を見合わせ、思案する。

場所さえ決まればダイチとみゆきを乗せて、とりあえず騎竜で運ぶだけなら可能だ(3人乗せると戦闘は難しいが)。

あまり森の中をずっと連れ回せば疲れてしまうだろうし、異世界での第一歩がサバイバルでした、というのは少々どうかと思うしな。

ちなみに俺の一言で、みゆきとダイチが初めて覚えた魔法は浄化魔法でした。

ほら、日本人綺麗好きだからさ。


「修行…修行ねぇ…」

「実習だけじゃなくて知識も詰め込める場所がいいんですが…」


ぱっと思いつくのは学生時代使用した場所。

いずれも駐屯地が近いのでそれなりに安全だが、勇者を連れ回してる状態を見られるのはあまり良くない気がする。

後は実家の領土か別荘のある土地。

トリスも俺もいるので、ある意味一番治外法権がある場所と言える。

誰かに密告される心配もない。

後は…。


「ああ。…ファルリザードはどうだろう」

「!」

「成程」


人の王の権限が届かない中立地帯と言える場所。

隣国とは言えないが、人族の国から接している場所から直接向かえばなんとかなりそうではある。

なにより建国からそんなに立っていない上、一番の魅力はその国主。


「ふぁる、りざーど?」

「どんなところなんですか?」


勇者ズが地名ではピンとこないため首を傾げている。

俺は、説明するために口を開いた。



「前勇者―――――リザードマンとその仲間が魔王討伐後に作った、独立国家だよ」





旅は順調に進んだ。

むしろ順調すぎて、退屈になるくらいには。


「そういえば、何故ユリスさんが教師役になったんですか?」


のんびりと進むうち、ダイチとみゆきもだいぶ警戒自体は解けてきたようだ。

ファティマが前方を偵察、俺が前、ダイチとみゆきが真ん中、トリスが後衛で森の中を徒歩で移動しているが…。

最初は二人だけで話していた彼らも、俺やトリスと少しづつは会話をするようになってきていた。


「んー…トリスもファティマも基本すっ飛ばしそうな気がして」

「酷いです兄上」

「だってお前ら、彼らがこの世界の人間じゃないのわかってるくせに、知識から詰め込もうとしたじゃないか」


まあ、日本での基本を知っている俺の方が、説明しやすいんじゃないかと思ったのもあるんだけどな。

トリスはともかく、ファティマは人に教えるのは向いている気がしないしな…。

いきなりファティマ流修行をされてダイチやみゆきが使いものにならなくなったら怖い。


「知識から詰め込んじゃいけないんです?」

「まずは世界に慣れるのが先だろ。みゆきたちがどんな生活をしていたかは知らないが、少なくとも魔力のない世界から来たのなら根本が違うはずだ」

「あ…」

「俺は魔力を使わない生活に慣れてるから、まだ馴染みやすいだろうと思ってね」


どちらかと言えば俺が慣れるのに時間がかかったからこそ出た発想ではあるが、そこまで馬鹿正直に話す必要はないだろう。

尤もらしい事をつらつら重ねれば、勇者ズは納得したように頷いている。

…うん、まだ子供、だよな。


「そういえばみゆきとダイチはいくつなんだ?」


高校生という事は服装から察しているが、それだけだ。

出来れば家族の事、昔の事、今の生活…。

聞きだしたい事はいくらでもあるけれど、それを聞いた後の自分の反応に自信がない。

だから少しずつ聞いて行くつもりだった。


「私は17、です」

「…16…」


ふい、とダイチがそっぽを向く。

地雷だったようだ。

うん。歳って気になるよね男なら!!


「ええと、ユリスさんたちは?」

「俺が一番年長で24だね。後の二人は22だ」

「えっ、思ったより、お若い、んですね…」


心底吃驚した! という声に苦笑が漏れる。

日本人的にはそうですよね、わかります。

俺も自分の年齢が時々あってるのか自信がなくなるくらいには老成してる気がする。

中身の年齢のせいは若干あるかもしれんが。


そして吃驚していたのはトリスの方もだった。

カキン、とかたまって止まるトリスに俺も足を止める。

何をそんなに驚いたんだろう。


「え、みゆきさんは成人されて…るんです!?」

「「成人??」」

「はい。この世界では女子が15、男子が18で成人ですので」


あああ、そうか。

この世界の成人年齢を忘れてしまいそうになるが、女子は15じゃないか。

…何故か眼の色を変えた弟に、まずいか? と思う。

弟は確かに可愛いが娘は別格って言うかなんていうか…!


勢いよくみゆきの手を持ったトリスを止めようとした瞬間、トリスはきっぱりとこう叫んだ。


「成人女性と知れると求婚が高じて襲われる可能性もありますし、男性には近づかないで下さいね!!」


…踏み出した足を危うく滑らせるところだった!

ばし、と即座にトリスの手をはたき落とすダイチが割とたくましい。


うん。

俺も大概鈍感と言われる方だが、トリスは女性の扱いを学び直せ。

お前も男だろうがよ!





自由都市ファルリザード。

その名の通り、リザードマンをはじめとした亜種人類と人族が暮らす、小さな国家である。

50年ほど前勇者が魔王を討伐した後、人族は彼らを扱いかねた。

獣人などの亜種人種国家はあれど、爬虫類種の国家はこの世界に存在していなかったからだ。

ただ在来種としては存在はしていたらしく、国家が出来てからは移り住んできてそれなりの規模の国家になったみたいだが。


彼らリザードマンは基本的に人と交わる事が出来ない。

なんでも子作りが特殊らしいのだが、そこはまあ関係ないので割愛して…。

注目すべきはよくある勇者の話(王族と結婚とか、旅に出たとか)とは別の結果をたどった、という事にある。


早い話が隔離だろこれ?


人族にとっては住みにくい土地、水棲生物の多い場所を彼らに与えた、と文書は語る。

お互い不干渉が良いとしたのかは不明だが、彼らの土地はその関係でかなり自由のきく国となった。

そんなわけで彼らの国は今も人族の不可侵の不文律があり、王都とは輸出輸入のつき合いがあるだけの国のため隠れるには最適だと思われる。


身を寄せるとしたらこれほど条件のいい国はほかに思い浮かばない。

前勇者なのでどこかに攻められると言う事もないだろうし(そんな事をしたら世界中の人間から総スカンを食らう)、こちらは現勇者という事で、話を聞きに行くのもいい情報になる筈だ。


「決して、亜人種を見たいからだとかそんな理由なわけでは…!」

「兄上? なんですかいきなり」


おっとまずい、つい言い訳が口に出ていた。


だってリザードマンだよ!?

異世界ファンタジー!

しかも竜に似てる種族ってのは俺的にとてもポイントが高い!


ちなみに俺はこの世界に来てから一度も亜人種には遭遇していない。獣人に関してはいるのだろうが、そもそもこの世界の獣人って『獣化』してくれないと獣人ってわかんないのだよね…。

それぞれの国で身分を持っているため、人族の世界で貴族になったりはしないし(人族の場所で活躍すると自動的に由縁のある国で身分をもらえるとは聞いたが)、そもそも俺が常にいたのは王都なので見る機会も殆どなかった。

傭兵とかいれば恐らくは見たのだろうけども…身分が高いってある意味不便だよね。傭兵とか遭遇させてもらえなかったよ。

ちなみに街中でお散歩は俺がそもそもほとんどしていないので、街中にどのくらい獣人がいるかも知らない。

少なくとも王都に近いカルデンツァでは全く見かけなかった。


そこに来て、リザードマンです。

書物で一応は見てはいるものの、この世界写真とかないし、絵とかが抽象的すぎてホンモノどんなの? ってのが多すぎて知識としては役立っていない。

百聞は一見にしかず。

滅茶苦茶見たいです会いたいです知りたいです。

むしろどんな感じなんでしょうか!


「ユリスは相変わらず好奇心旺盛なのだな」

「そうですねぇ」


あまりに目をキラキラさせていたのだろうか、見当違いの意見がトリスとファティマから寄せられる。

いやあ、なんていうか外から見てるだけでもかなり人族の都市とは違うのが見てとれるしね…!

早く夜が明けて門があかないかな。


「…なんかコイツらについて行くのすげぇ不安だわ俺…」

「ええ。とかげさんは私見たい!」

「みゆ…物見遊山じゃねぇんだから…」


ダイチが俺の様子に不安を覚えているようだが、むしろみゆきは乗り気のようだ。

あれだろ。

きっと家には何代目かのダイアナちゃん(※奥様の飼ってたカメレオン)がいるに違いない。


「みゆはトカゲが好きなのか?」


とかげさん、と目をキラキラさせる様子に嫁の面影が混じる。

まぁ夫婦で好きなんですけどね爬虫類!

なんとなしに笑いかけると、みゆきは満面笑顔でハイ、と答えてくれる。


「家でも飼ってたんです」

「そうか」

「大事な、家族なんです」


家族と言ったその言葉が。

愛しおしむようなその表情が。

時間を超えて、思い出と混じる。

思わず手が、みゆきの頭に伸びた、その瞬間。



「そんなの、どうでもいいだろ!!」



ばし! と手をはたき落されて我に返った。

ああしまった、つい癖が。

初対面に近い女性に対してする仕草ではないよな、失敗した…。


「ダイチ!」

「大体アンタもそこの弟やらも気安く触んなよ! 下心ありありすぎだろ!」


がるる、といいそうなくらい噛みついてくる彼にぽかんとして。

次に俺にわき起こったのは、何故か笑いだった。

うん、なんていうか…みゆが大事なんだろうな、と思うとちょっとくすぐったい。

親としてはここは複雑にならなきゃいけない処なんだろうけど…なんていうか、昔の自分を見てるようで、先に立ったのは何故か嬉しさだった。

…青春だなあ…。


「な、なんで笑うんだよ!」

「え? いや、かわいいなと」

「はあ!? 俺が未成年だからって馬鹿にしてんのかよ!」


やっぱり歳は気にしてたんだね…。

でもまあ、俺から見れば娘と同世代の君は普通に子供にしか見えんのだけどね。

しかしここでそれを言うのもどうかと思うよな。


「あ、ダイチ君」

「?」

「兄上は恐ろしく女性の好意に鈍感なのでそういう意図は全くないと思いますよ!!!」

「………………」


だが空気の読まないトリスはあっさり追撃していた。

いや、だからお前が言うなと。

しかし、この空気の読めなさは逆に才能かもしれない…とちょっとだけ思った。

タイトルは作者の突っ込みの声です。

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