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召喚された勇者

確かに俺は、勇者PTの全員が何らかの形で俺に関わる人物なのではないかと思っていたさ。

でもまさか。

『召喚された勇者』までもが、俺に関わるものだとは思ってもいなかった。



ざわめきが酷くなる中で、長い茶髪が風を含んで翻る。



一人は少年。

短く刈り込んだ黒髪に、黒い目。

もう一人の召喚された少女に付き添って、俺たちの方を親の敵みたいな目で睨め付けている。


もう一人は少女。

風にさらされて茶色の長い髪が、ふわりと浮く。

その顔は戸惑うようにこちらを見ていて。



―――――――――ねえ、ゆきちゃん、この子の名前ね。



一人一人、彼女は俺たちを見ていく。

戸惑う視線はやがて、俺たちを捉え。

そうして俺は、自覚する。


「まず名を教えていただけますか?」


神子が二人にかしずき、そっと手を取る。

彼女の視線が外れた瞬間俺の口から漏れたのは、どうしようもない憤りを含んだ溜息だった。



(後悔するってわかってたじゃないか)



心のどこかで、もう一人の俺の声がする。

そう、俺は魔力を使ってはいけなかった。

勇者を助けるためには、使ってはいけなかったんだ。


「なんで名乗らなきゃいけないんだ」

「ダイチ…そんな風に言っちゃ、だめだよ…」


そっと寄り添う二人に、嫉妬にも似た感情が湧きあがる。

何故彼女が、今ここにいるのか。

理由もわかっているのに、俺は信じたくなくて、でも目をそらす事も出来なくて、食い入るようにただ見つめる。


「ええと私の名前、は…」

「馬鹿、こんな胡散臭い奴らに名乗るなよ」

「そんなわけにもいかないでしょ?」


膨れた顔が、ずっと見たかった彼女の顔と被る。

…そうだ。

俺もこうやって我儘を言って困らせた、ただ彼女が心配で、それだけで。

ずっと忘れていた彼女の顔は、この少女よりもう少しだけ柔らかい感じだった。


「…私の名前は―――」


召喚陣に現れた勇者の片割れは。

誰よりも何よりも、会いたかった俺のもう一人の家族。


「…『みゆき』、です」


鼓膜を震わせる声は、彼女によく似ていて。

名乗られた名前に、疑いは確信に変わる。



――――二人の名前からとって、みゆきってどうかなあ…?



どこか呑気な彼女の声だけが、脳裏に響いた。





ようやくたどり着いた召喚の儀の場は、神殿関係者で埋め尽くされてざわついていた。

まあ、そりゃそうだよな。

神殿の存在意義とも言える儀式だし。

神官の一人や十人や百人…は言いすぎか、そのくらいはいるよなあ。


「ようこそいらっしゃいました、勇者支援の方々」


ほどほどに門外で待たされて、迎え入れてくれたのは下っ端と思いきや…。

服装が豪華で、その身分もすぐに知れる。


【神子】


召喚を行う、神殿の最重要人物。

その女性が、目の前にいた。


「…トリス・カイラード様、ファティマ・ソーガイズ様、そしてノエル様ですね。お勤め御苦労さまです」


…俺の名前は無しかい!

にこやかに笑っているように見えるのだが、なんか目が笑ってない。

美人は美人だけど、なんつーか非常に腹が立つなこの女。

そこは従者扱いでも名前呼ぶところじゃないのか。

そしてトリスを見る目が気持ち悪すぎるんでちょっと誰かに変わってくれませんかね。


微妙な雰囲気で口ごもる二人を横目で見つつ、俺はそのまま客室までついていく。

いいんだよ、別に空気で。

俺の事を二人がどう思っているか、道中よくわかったしこんな知らん神子おんなの態度に傷つくほど柔に出来ていない。


それにしても…。


「…人が多いな」


いたるところにいる、人・人・人…。

神殿の関係者じゃない事は服装やトリスとファティマの顔でわかるのだろうか、好奇に満ちた視線が俺らを包んでいる。

神子は時折振り返りつつ誘導してくれているが、足取りはあまり気遣ったものとは言えない。

むしろさっさとここから連れ出したいと言わんばかりだ。


程なくして辿りついた部屋は、二部屋。

片方が女性用、片方が男性用。

…うん。まあそれはいいんだいくら元々が相部屋だったファティマとはいえ、この年齢で女性と相部屋とか困っちゃうしね。


「ではごゆるりと。…私めの部屋はあちらにありますので…」


自分の部屋の位置を俺に誇示しながら去っていく神子に問いたい。

この客間ベッド、一つなんだけど?

なんなのこの嫌がらせ?

お前にはベッドすらいらねーよと言いたいの?


「……兄上…」

「…気にするな。寝るのはソファで十分だ」


部屋の中は豪華だけど、明らかに俺を認めない態度に溜息しか出ない。

なんだろうね、この意味のわからん扱いは。

俺って確か神の寵愛持ちで神殿に望まれてるとかじゃなかったっけ、それとも神殿に帰属しない寵愛者等いらねーってことなのかね。

明らか不自然な態度に、既に諦めの境地なんだが。


「…ええと、兄上、行きませんよね?」

「どこに?」

「…。いえ、なんでもありません。交互にソファで寝ましょうか」


それからの3日間、あの神子にはち合わせるのも嫌なので俺たちは殆ど客間内で過ごした。

そして召喚の儀が始まり、程なくして―――。


俺たちは勇者達・・・と対峙したのだ。






勇者召喚の義を受けて、召喚の場は騒然となった。

論点は一つ。


【どちらが勇者なのか?】


俺が知る限りでも、召喚の時に勇者候補が二人現れた事はない。

つまり、予定外。

巻き込まれ召喚なのか、二人で勇者なのか?


なんとなく、俺が考えるにみゆきの方が勇者の気がしないでもないんだが…。

勇者と言えば、剣を使い、魔法を使い最前線を突っ切っていくリーダー的役割。

嫁を思えば出来るような気もするけれど、親としてはやってほしくないんですが……。

むしろ嫁入り前の娘になにさせる気だ…!


「…勇者だなんだと、お前らの事情なんて俺には関係ないだろ」

「ダイチ…」


疲れきっている神官たちを休ませるため、つれてこられたのは待機室。

本来ならここで俺たち3人と顔合わせだったため、俺たちもついてきたままだ。

他にも何人か神殿の偉そうな人と、国王の代理の貴族等が数人いる。


少年少女の二人は不安の残る顔でお互いに身を寄せ、ソファの真ん中に座った。

俺たちは立ったまま状況を見守っていると、召喚の義を行った【神子】は、慈愛の微笑み? 的なものを浮かべて彼ら二人に手を差し伸べる。

まるで助けを差し伸べるようなその仕草は一々ハマっていて、見た目だけなら非常に神々しいのだが。


(…うっさんくせぇ…)


父に聞いていたせいか、はたまた迎え入れられた時の態度が原因か、神子の微笑みがマジで胡散臭くしか見えない。

こいつ俺を見た時にもこの内面が読めない表情してたんだよなあ…。

その上トリスにもなんていうか、いやぁぁに媚びるような視線を送っていて、「絶対信用できない…」って思った初対面がまた思いだされたわ。


「少しでも我々の言葉を聞いていただけないでしょうか、尊きお方」


鈴の音を転がしたような声は、甘さに満ちていて纏わりつく。

確かに造形は美人だった気がするが、その誘惑に近い視線を受けてダイチとやらはどう反応するのかな、と見てみれば…。

ものすごく嫌そうな顔をしていた。

まあ、俺的にもみゆきの方がよっぽど美人だと思うけどな!(親馬鹿発揮)


「…俺らのどちらかが勇者だとして、何をすればいいんだ」


怯えるみゆきを庇いながら、ダイチが神子に向き合う。

ふてくされても仕方ないと判断したんだろうか、彼らが来ている制服に見おぼえがあるので恐らく高校生だと思うんだが…中々どうして見どころはありそうな少年である。

どうもその神子おんな、お前に媚び売ってるっぽいから気をつけろよー。


「…魔王を討伐してほしいのです」

「は、お約束かよ。それやって俺らに何の利点があるわけ?」


おお。定番台詞だな!

俺は転生者だし使う機会なんてなかったけど、召喚って言えばコレだよねーとかつい思ってしまった俺は多分悪くないだろう。

結構好きだったんだよな、こう言うの。

まあ、主人公になりたいと思ったことなんてないが。


そこから繰り返された言葉は割と定番なので割愛。

まあ、要するに帰りたければ倒せ、的な事だな。

ダイチは返事を渋っていたが、結局渋った処でどうにかなるわけでもないので最終的には承諾した。


ただし、約束はちゃんと取り付けていた。

曰く。

みゆき・ダイチ共に丁寧に扱うこと。

どちらが勇者かわからないため、共に旅立つ事。

必要であればバックアップ等も行う事。

魔王討伐の暁には、必ず元の世界へ返す事、など。


…あれ、勇者って元の世界に帰れたっけ…?

俺が調べていた限りでは戻ったと言うのは聞いた事がないように思ったが、口は挟まずにいておいた。

ここで帰れない事を伝えても仕方ないし、あんまり神殿関係の奴らと話したくないんだよな…。

勇者PTと言う事でトリスファティマはそれなりに丁寧に扱われていたようだが、俺への目線がなんか含みがあるっぽくて嫌なんだよここの人たち…。


辛うじて勧誘的な事はなかったのだが、トリスから離れたら変なのが寄ってきそうで実は必ず固まるようにしていた。

そんな俺の様子をトリスは首を傾げて見ていたが、俺は父の台詞が頭から離れなかったので話す気すら起きなかった。


「では、共に旅立つ者たちを紹介いたしましょう」


ようやく俺たちの出番になり、一人一人名前を名乗る。

…はずが。


「貴方は私の元にいらしていただけるのでしょう?」

「「は?」」


俺を紹介する前に切り上げようとする神子。

は? 何言ってんの?

トリスとファティマがポカーンとしてるよ?


「……いいえ、俺も同行者です」

「あら? 勇者とともに戦う人は2名だったはずですが?」


おいおいおい…。

予想はついていたけれど、違うとまで否定されるとは思わんかったよ。

存在無視するなら無視で終わらせてくれればいいものを、なんでここで言い出すのこの人?


「それに貴方は魔法が使えないでしょう? 勇者の従者が魔法を使えないなんて、そんな馬鹿な事なんてないわ。貴方はここにお残りなさい」


いい事を思いついたわ、とでも言わんばかりの調子でのたまう神子おんな

ポカーンとする勇者ズと勇者PTの面々。

そしてざわつく周りは、一斉に俺を見る。


「…貴方には修行が必要なのではないかしら? 勇者が二人召喚されて人数も増えてしまったことだし…この旅に貴方は必要ないわよね…?」


神子の言葉に、その内容に。

俺は目を細める。

今ここで、この場所でそれを言う、意味は。


「…いります!!!」


俺が口を開く前に叫んだのは、トリス。

きゅう! と呼応するように鳴いたノエルが、神子を威嚇するように喉を鳴らす。

そのまま俺を庇うように立つトリスの前に出たのは、それまで黙っていたファティマだった。


「…そうだな、彼がいないと我らはあまりにも連携が立たぬ」

「それは勇者様にお任せしては?」

「異世界から連れてこられたばかりの彼らに指揮を求めよと? 神子様は戦いと言うものを知らないのだな」

「っ」

「まあ、我らの人数を3人と最初に認められなかったのだから、ここにいるのは二人としてもかまわない。だが彼は竜の盟約者。竜と一緒に彼は我らが連れていく。当然のことだ」


毅然として答えるファティマに、神子が苦々しげにこちらを見る。

…んー…俺、コレなにも答えない方が、いいっぽ?

二人が真っ先に援護射撃してくるとは思わずぼけっとしてしまったが、神子にとってもトリスとファティマの対応は計算外だったようで言葉が続いてこない。


「…なんかよくわかんねーけど、あの神子さんが悪役なのはわかるな」

「ダイチ、失礼だよ」


こそこそ話す勇者ズに、奇妙な沈黙が生まれる。

悪役って!!!

間違ってる気はしないけど勇者に悪役扱いされる神子って!!


「…あ、貴方はどうなの? 魔法を使えないお荷物なんだから私の元に残った方が貴方の」

「気遣いは結構です。俺は俺の意思で彼らについて行きます、お気になさらず」

「…っ…」


何故か懇願してくるように俺をみる神子をばっさり言葉で切り捨ててやる。

なんなの? 今更なんですけど。

っていうか意図は予想通りだったけど、なんでこの神子慌ててるの…?


「…では、勇者様を別室に…」

「いえ、まずは話しあいたいので5人だけにして下さい」

「……っ、どうして…!」


どうしてと言われましても。

どうもしないんですけど。


「ではそのように…」


神子に折れない俺たちに気付いた神官が、慌てたように神子の代わりに話の終わりを告げる。

悔しそうに去っていく神子に首を傾げつつ、俺たちは勇者たちとともに残された。


なんなんだ、すげーお粗末だったな…。



…と言う事でようやくみゆきちゃんが登場です。


…。

長かった…勇者出てくるまでが長かったよ…。

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