そして運命は回り始める
それからの日々はあわただしく。
相変わらずの日々。
サルートのところに生まれたのは碧の瞳のかわいい女の子で、正直デレデレしているサルートはうっとおしい。
女の子かわいいからいいけど。
つい癒されるから、毎回訪ねちゃうけど。
また、勇者PTの選抜大会が開かれ、メンバーが変わった。
俺は今回に関しては、重要だろうと思い見学しに行ったのだが…。
その結果は、目を疑うようなものだった。
魔術師には、トリス・カイラード。
そして剣士には、ファティマ・ソーガイズ。
俺の年齢は21歳。
…つまり。
俺が勇者PTと一緒に行動するなら、行動するのはこの二人と言う事になる。
…なんの偶然なのか。
それとも、勇者PTは俺が守るべき相手ばかりしかいないのか。
サルートを助けた事は後悔していない。
あの時、俺は何度あの時を経験しても指輪をはずすだろう。
彼を失う事だけは、考えられなかった。
けれど。
あの時魔力を使ってしまった事で、俺はきっと後悔するのだろうとは思っている。
神様はハッキリと、魔力を使うなと言っていた。
まだ使ったのは一度きりとはいえ、あんな状況がまた起これば俺はまた使ってしまうのではないか?
そう思えば、一層気を引き締めるしかない。
なるべく、使わない状況にするべき。
そしてなるべく、魔力を使うにしても少なくしないといけないだろう。
そう気付いた俺は、薬草学も視野に入れながら現在は勉強中だ。
…まあ、正直魔法に関しては思考が頭打ちってのもあるんだけどな。
この世界にRPGで言う処のポーションみたいな回復剤はないので、ひたすら回復補助にしかならない。
けれど、ないよりはましだろうから俺は必死になって勉強する。
魔法に関しても、陣を書いた紙を持っておく事にした。
詠唱するほどの時間をかけるより、紙を持っていた方がマシ。
指輪をはずせば魔力自体は巡るのは確認できたが、正直無詠唱とかそういう事出来るかもわからんしな…。
下手すると、俺自身が魔法使う事はないのかもしれない。
トリスに魔力をわけるのが仕事、とかそんなオチなのかも。
とりあえずは出来る事を、なるべく多く。
そして、深く。
ひたすら自身の知識を高めることを重視しながら、俺は日々を過ごす。
そしてその時は、訪れる。
23歳の春。
神殿より、告知。
『勇者召喚を行う』
勇者PTであるトリスとファティマが呼ばれた横で、俺もなぜかいた。
☆
「…黒騎竜を借り受けたい」
王に言われたその台詞を考えながら。
俺はあっさりと首を振った。
「無理です」
「な…っ!?」
断ると、周りがざわめく。
父上も叔父上も、横にいるトリスもファティマも。
全員が全員固まるので、俺は苦笑を洩らした。
「……ノエルは、盟約竜です」
「それは知っているが」
「俺から離れれば、行動が制限されて使いものになりません。騎竜のみ渡すのは、無理です」
コレは事実。
じゃあ盟約を切れと言うだろ?
「…ではその盟約自体を破棄してもらえまいか」
「嫌です」
「なっ……」
だからさ。
竜は、モノじゃねーんだよ。
毎回説明しないと駄目なのかな?
「王に向かってなんて事を…!」
そうは言っても、無理言ってるのは王様だよ?
俺は何度となく繰り返していた説明をもう一度吐く。
盟約を切っても、他の契約者を選ぶ事はない事。
俺が言い聞かせて盟約を切るなんて、約束をさせた上で約束をぶっちぎるので、竜に関しては無駄な事。
それらを言い含めるように説明すると、その説明を受けた事がある貴族もいたのだろう、何とも言えない雰囲気が周りに漂い始める。
「大体何故竜だけなんですか?」
「は?」
「俺は別に勇者PTについていっても問題ないんですが」
と言うか目的はそっちなので、むしろ連れて行って下さい。
そう言うと構えられそうだからあくまでもさり気なく示唆するだけだけどね!
変な貴族に反発されても嫌だしここは遠まわしに行くしかないでしょ。
「それは……」
「費用の問題でしたら、別に俺は自費で行ってもいいですし」
「は…?」
「ついて行くだけなので」
うん。
俺に戦闘力は期待するな。
ノエルは期待していいけど俺は付属品なんで一つ。
ざわ、と周りがざわめく。
勇者PTと言えば、命の危険を伴う名誉職だ。
そこに道楽でついて行くといいきる俺。
「……ユリス」
「はい」
「本気か?」
そこで口火を切ったのは、さすがと言うべきか我が父上。
と言うか息子二人が行くと言い出すとは思っていなかったのだろう、動揺しているような気がする。
とはいえ、俺がPTについて行くのは決定事項であり、ここでついて行けなくなったとしてもこっそりついていく気なので出来ればここで認めてもらいたい。
「本気です」
「何故だ?」
さて、どうこたえるか。
「……俺としては、竜だけ連れて行く意味がわからないです」
「ノエルは頭の良い竜だろう?」
「ええ。でも、俺無しで動いたりはしないですよ。竜は主のためにしか動きません」
「……」
ファティマが立ち上がり、ノエルに近づく。
だがノエルは怯えて彼女に寄ろうとはしない。
きゅー! と鳴きながら彼女から離れる様子に広間がざわつく。
「…僕は、兄上に来てもらいたいです」
そのざわめきを破ったのはトリスだった。
ノエルに近づくとノエルは怯えこそしないが、様子を見守るようにしている。
ここでなつけば微妙な事になるのを理解してるんだろうか。
…つくづく頭がいいと思う。
「ノエルは僕に怯えたりはしないけれど、兄上なしでは動かないと思います」
「ふむ」
「神殿からは黒騎竜が勇者PTには必要、と言う事でしたよね? 人が増えてはいけないとは言われていないのでは?」
たたみかけるような言葉に、周りが納得していく。
こう言う時、発言力の違いってあるよなあ、と思いつつ。
俺にとっては僥倖の流れなので、放置する。
「わ、たしは…」
ファティマが何かを呟くが、言葉にならない。
小さな声は無視されて、王の採決は下される。
「あいわかった。此度はこの3名を召喚の儀に連れて行き、勇者と引き合わせるものとする」
勇者との相性もあるため、決定事項ではないがこの分なら召喚陣も見れるかもしれないな。
神殿自体は気をつけなければいけないが…。
「出立は3日後とする。解散」
定められた、現実。
ようやく俺は、ここまで来た。
約束を守る、その日を迎えるために。
近衛編終了&勇者召喚編の始まり。




