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親子(後編)

何度も使いたいと思った事はある。

その度に、使って後悔しないかと俺は自分に問いかけた。


見た事のない勇者。

誰よりも大切な家族。

比べるのは、おかしい事だったけれど。


それでも俺は選んだ。

『魔力を使わない』約束を、守ることを。





「「……………!?」」



目を開くと、吃驚したような二人の顔が映る。

俺は覚悟を決めた。

叔父上は、父上を過保護と呼んだ。

それは、「俺がずっと守られていた」事を示している。


なら、俺もそれに答えるべきだ。

相手を、信じるべきなんだ。


「…"魔力がない"んじゃないんです。ただ"魔力が使えないだけ"なんです、俺は」

「それは…」

「どういうことだ…」


なあ神様。

俺はどこまで話していいんだろう。

一切口止めみたいな事は言われなかったんだから、俺は俺自身が知っている事は話しても良かったんじゃないか?

そう思いながら、俺はまだ躊躇していて。

口を閉じる。


「……理由は話せない、のか?」

「……」

「ユリス」


先を促す声に、頭が垂れて。

いつの間にか目線が下がっていたのだろう、俺は手元の指輪を見ていた。

父の顔が見れず、俺はただ言葉を聞く。


「…使えるようにはならないのか?」

「……………」


わかりません、と答えようとして止まる。

というか魔王を倒す際には魔力使うんだから…使えるよな…?

いまでも多分指輪をはずせば使えるんだろうし…使えるようにならないか、に関しては使える方法に関しては知っている事になる。

でも正直…わからない。

いつ使えばいいのか知っているだけで、俺がその時本当に使えるかは俺も知らないのだから。


「……ユリス」

「はい」

「話せる事は話してくれ…っ」

「!」


弾かれたように顔が上がる。

声が。

父上の声のトーンが、変わっていた。

それは手紙でも感じた、父上の気持ち。


懇願。


何に対しての?

やるせなさすら感じるその貌に、こちらを見る真剣な顔に、…俺は、口を開けては閉じる。

覗きこんできた目の中に感じるのは、ただひたすらに願う心。


「何を迷っているんだ?」


何を迷っているのだろう。

俺は、何を口止めされているわけでもないし、何をしゃべってはいけないと言われたわけでもない。

相手を信じたなら、俺は事実を打ち明けて相談すればいいだけじゃないか。

何故俺の口からは言葉が出ないんだ?


「……わかり、ません」


絞り出した声は震えていた。

わからない。

どうしたらいい。


「…ユラ、止めろ」

「っ!」

「ユリス、ちょっと思ってた事を俺から言ってもいいか?」

「叔父上…?」

「だからまずその掌を開け。血が出てる」

「あ……」


いつの間に握りしめていたのか。

指輪のしていない右手を見ると、完全に爪が食いこんで血が流れ始めていた。

自覚のしていなかった行動に戸惑い、そっと手を開くと、そこに白い光が振る。


…父上の回復魔法だ。

この光は昔、よく見た。

まだ言葉も上手く扱えなかった頃、俺と定期的に会えたのは父上だけで。

その度にこけたりよく怪我をする俺に、苦笑しながらいつも治癒をしてくれていた。


「まずな、ユリス」

「え、っとはい」

「俺は別にお前が魔法を使おうが使うまいがどうでもいいと思ってる」

「!?」


いきなり言われた台詞に思考がついて行かない。

目を丸くすると、叔父上は相変わらず飄々として、にやりと笑う。


「だから好きにしていいんだ」

「…え…っと…」

「お前は魔法を使いたくないんだろう? なら使わなくていい。その顔じゃ使える方法も知ってるんだろうが、使いたくないなら使わなきゃいいんだ。誰もそれでお前を責めたりはしない」

「……おじ、うえ」


使えるなら、使えと。

言われると思っていたのに、真逆の事を言われて戸惑う。

魔法を使いたくないわけじゃない。

使えない、だけだ。

それは、その理由は。


「俺はさ。お前が使いたくない事だけは知ってたんだよ」

「…トーレス、お前何を…」

「ユラから聞いてた。お前、どれだけ勉強してても魔法を『使おうとした事がない』、だろ? 研究する時も、詠唱する時も、絶対に平坦に喋るって。……万が一にも魔力が込められないようにじゃないのか、それ?」

「……」


それは、その通りだ。

指輪をはずさなければ魔力は出ないと思っていたけれど、最初はびくびくしていて研究するときも魔力が動かないか不安で不安で仕方なかった。

子供の頃の話だったのに、父上は気付いていたのだろうか。

叔父上が俺の表情を見て、何を思ったのか机の上へ乗り出すと、ぐしゃりと頭を撫でた。


「…わ、っと」

「おいトーレス!」


ぐしゃぐしゃ撫で続ける叔父上に、父上が抗議するが叔父上は止まらない。

困惑していると、叔父上は楽しそうに言葉を続ける。


「なあユリス」

「はい?」

「…理由は聞かないし、聞く必要もない。だけどな、魔法を使わない事で辛い事があるなら、それを誰でもいい、伝えていいんだぞ?」

「おじ、うえ」

「お前はユラと同じで頭で考えすぎる。簡単な事だろうが。辛ければ愚痴だけでも言えばいいんだ。使えない理由とかどうでもいいんだよ、問題なのはお前が全部一人で抱え込みすぎてることだ」


驚いた。

俺が魔法を使わないのは、昔神様に言われた事だけを気にしているだけなのに。

魔力がないわけじゃない、と伝えただけでそこまで伝わるとは思っていなくて…正直固まってしまっていた。


「ユラ」

「……なんだ」

「お前ももうちょっと、大人になれ。心配もしすぎるとただの負担だ。ユリス自身が決めた事には口出す気はないんだろうが?」

「……」

「あと一つ貸しな」


ふてくされたように黙りこむ父上に俺の目が丸くなる。

…これ、ふてくされてる、よな??

子供のような表情を初めて見た気がする。

ふい、とそらされた顔が少し赤くなっているようで、思わず視線で追ってしまう。


「…叔父上…」

「ん?」

「俺、抱え込みすぎ、ですかね」

「それ言ったのはサルートだからなー。多分恐ろしく抱え込みすぎ」

「…そ、そうですか…」


一番近いと思っているサルートが言うなら俺は相当なんだろう。

自然眉が下がったのだろう、情けない顔をする俺に叔父上が噴き出す。


「こいつもな、抱え込む奴だったからな。そんないらんところは似なくていいものを」

「…うるさい、トーレス」

「大体なぁ、この国がおかしいんだぞ? 他の国に行けば魔法を使えない奴らなんていくらでもいると言うのに。魔力の大小だけで価値を決めたりするからおかしくなるんだよ」

「トーレス、暴論だ」

「真実だと思うがね。大体魔力至上主義になったのも神殿のせいだろうが?」


叔父上と父上が戯れるように応酬を繰り返す。

ついぽけっと聞きいっていると、叔父上が撫でていた手を持ち上げ、ぽんぽんと俺の頭をたたいた。


「だからな、ユリス」

「はい」

「もっと我儘でいいんだ。ユリスもトリスも聞きわけが良すぎて駄目だ。サルートなんて、無茶無謀の連続だったぞ? ユラも子供に気を使わせてないで、親の仕事しろ」

「…お前に言われたくない…」


サルートだしなあ…。

いくつ命があってもあの無謀さ加減は洒落にならんぞ、フォローする俺なんてすごいいい親だろ、とかブツブツ言う叔父上に、ようやく笑いが漏れて。

その叔父上に、誰よりも信頼して厄介事に巻き込んでいたサルートを思い出して、力が抜ける。

この二人は似たもの親子で、誰よりも連携すると始末に負えなかった。


「もっと、頼れ。頼れないなら愚痴れ、お前の傍には俺たちがいるんだ」

「……は、い」


はい、と呟いた声がかすれる。


「俺も、ユラも、サルートも。お前が好きなだけなんだ。お前が何をしても、何をしなくても。俺たちがお前を嫌う事はない。…だから…あー…」

「…トーレス?」

「これはお前の仕事だろ! パス!」


なんでだろう。

二人の顔が見えない。


「…ユリス」


ぽんぽん、と背中に感じる手の暖かさ。

俺が身体を傾けると、近くに父がいた。


「…辛い時は手を貸してやれる。…だからもう、一人で、いようとするな」


差し出された手に、重なった手の大きさはもうほとんど変わらないのに。

子供に戻ったみたいだった。

ぬくもりを感じつつ俺は、ただ…。



ひとつだけ、頷いた。





不器用な親子です…。

上手く書ききれた自信がないので、補足として近衛編終了後に父親視点の閑話が入ります。

良ければ見比べて見てくださいませ(投稿予定は5月5日)

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