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親子(前編)

長いので分割。

指揮系統であるトリスがそれなりに落ちついた事で、その後の行軍は非常に楽なものとなった。

っていうか十数人に風の加護をかけ続けられるってどんだけ魔力の塊なんだよこいつは。

大まかな指示は俺に許可を取りに来るものの、落ちついた後は魔術師として教育を受けているだけあって指揮自体は堂々としていて中々のものだった。

っていうか、この世界ホント魔力上位世界だよなあ…。

魔術師=指揮官に近い扱いなんだもの。


…一応、トリスの魔法陣も見えるんだけど。

俺の魔力総量ってもしかして、指輪に流れ込んでるの込みで認定されてるとかなのかね?

トリスの魔力量ってぶっちゃけ化け物レベルだし、俺自身がここまで持っているような気はしない。

しかもなんか無邪気な顔して戦術語るから結構えげつない。


途中出てきた野生の鳥の群れに関して、こちらへ来る前に竜巻っぽいものに巻き込ませ『風って強いと窒息するんですよ?』と笑顔で言われた時はどうしようかと思いました。

お兄ちゃん平和主義なんだ。

やられる前にやれ精神はわかっていてもちょっと笑顔なのは怖いよ!!


まあそんなこんなで迎えに来た数人ともすぐに合流し、父上の元へはすぐに戻れた。

門の近くで待っていたのは…。


「「叔父上?」」

「トリス、無事だったか」


第一師団団長が父上と一緒に支部にいた。

周りを見回してみれば、明らかに最初に出かけた時よりも人が増えている。

ただ負傷者も見渡す限り多い、包帯が巻かれた騎士たちがそこかしこで動いているのが見てとれる。


「ユリスが出発した後、逆側の国境側にも数点魔力反応が見えてな。迎えを送ったらこいつがいた」

「ああ、そうか。叔父上は逆側の担当だったのですね」

「うむ。靄が発生した時点で退却したからこちらは多少の被害だけだ。魔術師師団側にも通信は送ったんだがな…」


何かを考え込むような素振りをする叔父上に、俺はただ見つめるだけだ。

迎えと合流した際に伝令も送ってあるので、サルートがいない事は既に把握しているのだろう。

彼らの口から不用意に出てくる事はなく、俺たちはそのまま丁重に迎え入れられた。





「…そういえば、何故この軍の責任者は叔父上ではなかったのですか?」

「ああ…。出来ればユラだったらもっと被害を出さずにいられたはずなんだがなあ…。そもそもこの行軍自体、ユラに対する抗議みたいなもんだったから、国一の魔術師を護衛から外したくない王も強い事は言えなかったんだろうな。魔術師師団のつっかえねぇ貴族魔術師が来ると俺の権限がなくなるのはいい加減やめてもらいたいところだ」

「…と、言うと?」

「王が権限を魔術師師団の方に与えてしまった、って事だ。普通魔術師師団の団長がいない場合は第一師団長おれに権限を渡すのが普通なんだがな。親類だから信憑性を確かめるのに総指揮官は不適当だとかなんとか言われて外された」


トリスを個室に休ませ、ノエルを自室のベッドに寝かせて父上の部屋に戻ってくると、そこには二人が待っていた。

現状を話す際にトリスを入れるのは厳しいと感じたのだろう、弟を休ませると言う俺に彼らが異論を唱える事はなかった。

静かに紅茶をカップに注ぐ父を見ながらソファに座ると、叔父上は俺がまとめた一覧を読んでいるところだった。


「サルートがユリスには伝えていただろう?」

「ええと…、偵察結果に関して信憑性がない、といわれて連れて行く事になった…というような事は聞いていましたが」

「うん。正確に言うと、"お前の"魔力がないから話を信じられないとか難癖付けて散々出渋る奴らに対して対策をして、早めに"黒い物体"を討伐する足掛かりとしてサルートが提案した行軍―――それが、今回の遠征の、真相だ」

「はあ」


言われてピンと来ず、首を傾げると。

父上がカップを持ちあげながら、こちらを見てきた。


「…お前ももう20歳か」

「え、はい」

「どこから話すか…」

「おいユラ。いい加減、本人外して対処するのはやめろと言っただろう。もうユリスは子供じゃないんだ」

「…ああ」


父上の口元が歪む。

言われたくない事を言われたらしく、俺から視線が外れる。

叔父上は逆に楽しそうに、俺を見てきた。


「お前は過保護すぎるんだ」

「お前は放任すぎだろう…」

「ははは、俺より賢いからなサルートは」


…そういう問題なんだろうか。

いやまあ、時々サルート何してんだって思う事は何度もあったけれど。


「と言うかユリス、お前はユラに聞きたい事とかないのか?」

「聞きたい事…です、か?」

「ああ。ユラは口下手過ぎて聞かれない事には基本応えないからな。結構知りたい事あるんじゃないか?」

「知りたい事…」


…何を聞けばいいのだろう。

聞きたい事…聞きたい事…あー。


「…そう言えば神殿に呼ばれたら父上を呼べ、と言うのはなんだったのですか」

「はあ?」

「いえ、手紙に書かれてたんですけど意味がわからなかったので…」


叔父上が父上をちらりと見る。

父上はしばらく宙を見ていたが、すぐこちらを見てきた。


「…神殿がお前について聞いてきたのは、お前が生まれてすぐだった」

「生まれてすぐ、ですか?」

「ああ。神具持ちは基本神殿へ知らせるのが通常だからな。私たちも、生まれてすぐお前の事は知らせていた」

「なるほど」


左手の薬指にはめた指輪を見る。

神具を持って生まれた子供は神に祝福された子供。

その意味は、複数持つと読んだ事がある。


「内容は神殿に預けてみないか…と言うような内容だったが」

「はあ」

「さすがに長子を預けるわけないだろう、丁重に断った」

「そりゃそうですね」


長子と言えば後継ぎ。後継ぎを神殿にはないわなあ…。

あれ?

今俺って、どういう扱いになってるんだろうか?


「次に接して来た時はトリスが生まれた時だった」

「…トリスが"生まれた"時、ですか??」

「ああ。後継ぎが他にいるなら神殿に寄こせと」

「!?」


淡々と喋っているが、何か黒いオーラを感じるのはなぜでしょう…。

何か…すごい、怖いんだが…。

目が据わってないか??

気のせいか?


「…そ、それで?」

「ふざけるなと追い返した」

「そ、そうですか」


えーと、2歳だから…まだ神童と呼ばれる前、だよなあ…?

まあ、子供を預けろと言われてはいどうぞと預ける人はまあいない、よな。


「その時点でもう神殿からは目の敵にされていたんだよな、ユラ」

「…」

「神殿と聞いたらホイホイ子供をさしだす親が多いからなー」


…あ、そうなんだ。

神殿とは全く関わりがなかったから殆ど調べられなかったが、子供を教育する施設として存在している事は知っている。

神子に関しても調べたけれど、基本神殿内の事は殆ど調べられなかった事から情報は殆ど存在していない事も。


「…神殿に預けると親子の縁が切れる」

「えっ?」

「基本神殿の方から声がかかる場合、神子の教育を受ける事が多いんだ。それでなくても神官として以後は家とのかかわりを断たれる事が多い。まあ、そんなわけでユラは神殿が大嫌いなんだよな」

「…一度神具を持った子供が生まれた後は、その血筋に出ることも多いと言われているからな…。全部提案は断ったがトリスを預けないかと言われた事もあった…」


つまり、要約すると?

俺は何度も神殿から預けるように要求を受けていたけれど、親子の縁を切られてしまうので俺には知らせずに断っていた?


「あれ…でも、俺が魔力を持たないとわかった後も、ですか…?」

「当たり前だろう」

「…そうですか」


俺の台詞に、間髪いれずに父の言葉が返る。

ふむ。

それって…親子の縁を切るつもりはなかった、ってことだよな…。

と言う事は少なくとも、疎まれていたと言う事はないのだろうか。


「というかユリスは自分が何故、学校に入るまで外に出られなかったか知ってたか?」

「え?」


話が飛んだような気がして叔父上を見ると。

叔父上は父上に身体を向けつつ、俺に視線を送ってきた。

その目は確実に呆れている。なんで言ってないんだ、と。


「神殿のせいだぞ、殆ど」

「え、ええ??」

「魔力の発現がなかったのも理由の一つではあったけど、大部分はそっちだ。あそこは自分たちが正しいと盲信している集団だからな。下手に誘拐されたら戻ってこれないんだ」

「え、ええええええ!?」


何か予想外に怖い事聞いた。

何それマジ怖い。

関わるなと言われるのもわかるな…。


「神殿の手口は詐欺まがいらしいな。誘拐とはせず、神に言われた子供の方が来たとかでまかり通るらしい。サルートが言ってた」

「…お前は…息子に何を調べさせてるんだ…」

「いやアイツお前の家に出入りしてたろ? なんか誘い出せ的な事を言われたらしくって、すごい勢いで調べてた」

「そうか…」


いやいやいやいや、それですますなよ。

神殿怖すぎる。

というか魔力の高い低いの身分差の上に、神殿上位とか…。

本で読んでるだけじゃわからない常識多いなあ…いやまあ、なんとなくは察してた部分はあるが…。

宗教って怖いよね…。


「…あれ、じゃあ俺なんで学校に行けたんです、か?」

「学校は基本入ったら卒業までは"職業が"確定してる。特に入れる際には良家の子女が入るわけだから、出入り自体もかなり厳重なんだ。本来ならユラと密接に関係がある魔術師養成学校の方が望ましかったんだが…」

「……入れなかったんですね」


この流れならわかる。

当時の俺は何故魔術師学校に入れようとすらしてもらえないんだ、とかなり両親に対して不満を持っていた気がするが…。

騎士学校へ行くようになってなんとなくわかったのだ。

魔術師学校に入るにはそもそも魔力測定で弾かれるであろう、と言う事に。

魔力がない、ってだけで相当騎士学校でもやられたものなあ…魔術師学校だと恐らくコネ入学になって余計大変な事になっていたに違いない。


「その通り。で、まあそんな折、お前が騎士養成学校に行きたい、って言ったからこの際そっちでも神殿からのアプローチは防げるだろう、って事で俺が学校長に頼んで便宜を図ってもらったんだ」


それで叔父上も大体の事情は知っている、と…。

この分だとサルートもある程度の事情は知ってて騎士養成学校へ行けるようにしてくれたんだろうな…。


「で、だな。これからが本題なんだが」

「?」


え?

まだ何か、あったか?


「ユリス、お前黒騎竜の騎竜士になった今でも、風当たりが強いと思った事はないか?」

「え、それはまあ…」

「特に貴族関係がおかしいと思った事は?」

「あ…」


アルフに聞いた黒い噂を思い出す。

それだけじゃない、やっぱり魔術師連中の態度は色々おかしいのではないか?

いくら魔力上位な世界と言えども、何故俺はこんな扱いをされていなければならないのか?


「…俺が魔力を使えない、ということ以外に…何か、あるんですか…?」

「ああ」


叔父上が、父上が。

揃って俺を見る。


「ユリス。お前は…神殿に行けば魔力が使えるようになれる、と言われたら…神殿に、行きたいか?」


父上の声は静かだが、何かを訴えかけるようなもので。

俺は内容を聞いて、何か目の前が開けたような気がした。


「そういう…事です、か…」

「ああ。明確にはわからないが、学生の中にも親に言われた扇動者が何人かいたんだろうな」


思い当たる事がたくさんある。

身に覚えのない噂。

師団長を父に持つのに、平然と誹ってくる魔術師たち。

それは、後ろ盾があるからこその態度。

学生時代もそうだ。

恐らくファティマと仲良くならなければ…最初から悪意にさらされていたのではないか?

ある意味彼女は防波堤だったのだ、彼女の家は確か神殿と折り合いが悪い。


「…ずいぶん前から言われていた。…神殿に行けば、使えるようになるかもしれない、と。神の御許で修業すべきだからこそ今使えないのではないか、とな」

「……」

「私はそれでも、お前に教えることなく断り続けていた。…神殿のやり方が気に食わないのもあるが…私自身が神殿を信じることができない、故に」


俺は目をつぶる。

そうだよな、確かに。

あんな風に扱いが酷くなれば、何かに救いを求めるようになってもおかしくはない。


魔力が使えない事で振りかかった、理不尽とも呼べる扱い。

魔力を使えるようになれば?

神殿に行って地位があがれば?

そんな風に、逃げる道はいくらでも思い浮かぶ。


「…お前が魔法を使えるようになりたいなら…言うべきではないかと、ずっと迷っていた」

「父上」

「だが…私は、神殿に行くのだけは…勧められない」


嫌なのは、親子の縁が切れるから、なんだろうか?

それとも、神殿に俺を連れていかれるのが嫌なんだろうか?

疑問を覚えて父を見ると、父は思ったより俺を…優しい目で見ていた。


「…すまん、親の我儘だな」

「え…」

「お前自身が決めるべき事なのに、私はずっと…黙っていた。親失格だな」


自嘲する父上に。

彼の答えが透けた気がした。

…彼が俺に伝えなかったのは、信じられない神殿から息子を守るため。

ただ、それだけだ。

それがはっきりと伝わって、俺の口からはするりと言葉が出た。


「神殿には行きません」

「…ユリス」

「だって」


言っていいのか。

言ってはいけないのか。

そう考えるより先に、俺の口は動いた。



「俺は俺が"魔力が使えない理由を知っているので"行く理由がないんです」



告げたその瞬間。

はっきりと、父上の時間ときが止まった―――――――。


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