理不尽
上手く区切れないなあ…。短め。
「え? 第一師団がもう一度…行くんですか?」
「ああ。前回の数減らしは中途半端な部分で終わってしまったからな」
2ヶ月後。
結局森の入り口周辺のみを掃除して王都へ帰還した第一師団。
勿論森の近くの都市に関しては掃除が終わっているし、めぼしいものは誘導しつつ(そしてアルフも酷使しつつ)倒したので、今のところ森の入口も平和のようなのだが…。
すぐにまた森に師団が出ると言うので、俺は詳細を聞きにサルートに会いに来た。
「中途半端と言っても、あの変な物体を避けつつ一通りは処理しましたよね?」
「その変な物体が問題でなあ…」
「問題?」
そもそも第一師団が頻繁に王都を出るのは不安が出る。
だから基本は持ち回りで、第一師団は王都周辺の都市ばかり回っていて前回が異例だったのだ。
当然近衛所属見習いの俺もそれに合流する事が多かったわけだが……それをまたすぐやると?
「ああ。存在が確認されていないモノに臆したか、って感じで怒られた」
「はあ…?」
「俺がちゃんと確認した、って伝えたんだがなあ…」
苦笑するその顔に、一つの事に思い当たり。
…俺は、唇をかむ。
わかっていた事だ、この2年何度も経験した事だ。
なのにこの理不尽さに毎回俺は嫌になる。
「…確認したのが俺だから、ですか」
「アルフレッドもだな。あいつの索敵は上層部からしちゃ目の敵だから…」
「……」
「魔力に比例しない、偵察能力。俺は、格好いいと思うんだが」
否定が返らない事に俺は眉を寄せる。
どこまで上は魔力主義なんだよ…。
偵察等で嘘なんてつく訳もないのに。
「じゃあ魔力のあるお偉いさんもついてくんですね?」
「非常に面倒な事にな。あと、今回は騎竜士は師団の方を連れてく」
「そうですか…」
まあ見習い程度が混ざるよりは、一個小隊丸ごと連れていく方が戦力は高い。
魔術師を連れていくならば尚更か。
俺はこの内容なら王都でお留守番だな。
「…本格的に大規模になるんですね」
「ああ。いればいいってもんでもないし、半分は文句言ってるだけのお貴族さまだぞ? 最悪もいいところだ」
「…ご愁傷様です」
「まったくだ」
肩を竦めるサルート。
だがその様子は存外明るくて、首を傾げる。
「あんまり面倒そうじゃないですね?」
「んなもん、森までは退屈なだけで行軍代がもったいねーなと思うだけだ。掃討したばっかりだってのに、馬鹿ばっか」
「ああ、なるほど」
つまり身の安全が保障されてるからこそ森の近くまでお偉いさんが行くって事なんですね。
その割にきっと森には入らず、索敵も森の外からやってgdgdになるんじゃないでしょうか。
…最悪もいいところだな。
まあ、サルートの様子からすると何か考えがあるのかもしれない。
ここは任せておくところだろう。
「まあ、急な湧きがない事を祈るわ。護衛まじだりぃ」
「…お疲れ様です」
「ま、そういう事でただの貴族様の点数稼ぎだからお前は気にすんなよ」
「……」
これが言いたかっただけなのか。
に、と笑うサルートに頭が上がらなくて俺は口ごもる。
「…はい、兄様」
「よし」
「わっ」
寄って来た手が俺を乱暴に撫でる。
相変わらずの子供扱い。
向こうの世界でも成人の20歳なんだけど、もっと歳を重ねてもこの人には敵わないのかもしれない。
「ああ、そうだユリス」
「はい?」
「あー…っとそのなー…」
「?」
珍しく口ごもるサルート。
その顔が赤いのは気のせいだろうか?
珍しい表情にきょとんとすると、サルートが自分の頭をガシガシかいた。
「あー…、まあいいや。戻ってきたらちょっと話あるんだわ」
「いまじゃ無理なんです?」
「ああ」
「わかりました。気をつけていって来て下さい」
『きゅー♪』
頷くサルートに、ノエルが楽しげに鳴く。
その光景はいつも通りすぎて。
…これから起こる事は、予想すらできなかった。




