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偵察

近衛時代突入です。

でも王様は殆ど出てきません(なんだってー)

声だけが響く夢。

会えない間に削られていく記憶。

…覚えているはずなのに顔が思い出せない。

彼女はいつも笑っていたはずなのに。


「ユリス? どうしたの、ぼーっとしてるね?」

「ああ、クララ…」

「強行軍だったもんね。疲れてる?」


首を振ると、彼女がにっこり笑う。

俺はもう慣れた、と笑い返す事が出来た。

…我ながら、微妙な笑顔だった気がしないでもないけど。





近衛見習いになって2年がたとうとしている。

もうすぐ20歳。

神様に言われていた節目まで、もうすぐだろうか。


あれから魔の森の活発化は激化の一途。

近衛だけに限らず、第一師団第二師団共に、地方に駆り出されるような毎日。

王都に関しては魔の森からはかなり遠いため、むしろ王都が手薄にならないように調整しながら魔獣の討伐は行われていた。


見習いとはいえ、足の速い騎竜士たちは斥候に使用されることも多く、俺の勤務は激務になっていた。

魔法が使えない故に、常に魔術師のサポートを要する俺はすこぶる魔術師たちの評判が悪い。

だが、2年たって完全に成竜となった黒騎竜ノエルの疾さはすさまじく支援魔法をかけるだけで確定的に一撃離脱・迅速な先駆が可能になるので、活躍の場は増えていた。


…。

まぁぶっちゃけ俺上乗ってるだけで剣とか殆ど使ってませんけど。

こう言う時衝動的に指輪を外したくはなるよね。

まあ、ノエルは自分で動くしよっぽどのミスでない限りは呼びかけすらも必要がない。

ノエルを譲ってくれと言われた回数、既に覚え切れていない。


いや、無理だから。

ノエルが俺以外を主として認めるわけもなく、お前が命令しろとか意味のわからん事言ってくる魔術師とか本当に抹殺したい。

盟約切れた竜に命令って何したいの。

竜の賢さ舐めすぎだろう。竜は家畜じゃねぇよ馬鹿共が。


部隊が違えば頻繁に会う事はないと思っていたが…。

所属が近衛という性質上、サルートとよく行動するようになった。

あとクララも見習いが今年までなので、その縁で良く同じ行軍・配属になる。

特にサポート系の魔法はクララもそれなりに使え、サルートにいたってはそのくらいなら何も問題はない、と言う事で必ず様子見してくる始末。

おいおい、身内贔屓すぎるだろ。


「サルート兄様、毎回こっち来てて怒られません?」

「んー? 斥候のサポートは副官おれの役目だから、団長にも許可はもらってる。大体、お前の斥候情報は本当に役に立つし、サポートで支援かけるくらい普通だろ」

「なら、いいんですが」

「ユリスは気にしいだなー。そうおもわねぇ? クララ」

「えっ、はい!?」


敵の数を把握してるのはノエルだけどな。

俺とノエルの意思疎通が出来る→ノエルは生物の反応を広範囲で辿れる→教えてもらって一通り確認して戻る。

通常は索敵とかは騎竜士本人が魔法をかけて把握するもんなんだけどねー…いやはや、ノエル様様である。


「大体、斥候とか超危険だろうがよ。そこに支援なしで放り込む方が気が触れてる」

「はあ…」

「騎士は使い捨てじゃないんだ。…まったくわかってねぇ馬鹿が多すぎる」


遠くに見える国境に、何を思うのか。

じっと見えてきている魔の森の姿を眺めつつ、サルートは俺の肩をたたいた。


「本当に一人で大丈夫か?」

「ええ。下手に複数だと逃げ切れなくなるかもしれないんで」

「…わかった。命だけは絶対に、無駄に、するなよ?」


何度となく繰り返された言葉。

…俺は無駄にしているつもりなど毛頭ないのだが、黒騎竜の疾さについてこれる竜等いるはずもなく、却って複数だと足手まといが増えるだけ。

だから心配してくれるサルートに、俺は笑う。


敵の数の把握も、地図の作成の仕方も、地域の情報や魔獣の勢力図も。

俺の頭の中には全部入ってる。向かうべき場所と知っていたから。

だから―――大丈夫。


「いってきます、兄様」

「おう。遅くなるようなら必ず煙筒使え」


見送るサルートとクララに手を振って俺は飛ぶ。

最近見慣れた彼ら二人の姿は小さくなり、瞬く間に見えなくなった。






竜で飛ぶ世界は、とても高くていろんなものが見渡せる。

魔王の復活はまだ囁かれていない。

けれど、この魔獣の増え方は異常で、いつ被害が増えるともわからない状況にまでなっていた。


第一師団を中心とした大規模な数減らし―――。

これが今回の目的だ。


命こそ落としたものは少ないものの、この2年間で騎士の数は減り始めた。

正確に言えば、増やされていた見習い騎士たちの数を中心に負傷が理由でかなりの数が減っている。

なかには命を落としてしまった同級生もいるし、退役した騎士も数え切れなくなっている。

襲われてしまった小さな集落や、放棄された村なども魔の森の周辺では点在していると言う。


明らかに異常になっていく平和だった世界。

大きな魔獣は確認されていないが、軒並み威力の高くなった魔獣や、進化を遂げた魔物が魔の森からあふれ出し、国境周辺を侵食し始めた。

国内は荒れてこそいないが、街や都市を歩けば不安が募っているのが見て取れる。


『ノエル、気になる処はある?』

『前、おおきいの。右、ちいさいの、3つ』


前方の大きいのは視認できる。

おそらく熊か猪が魔獣化したものか? どどどー、と土埃をあげてそこらを走り回っているのが見える。

恐らく狩中かな。あの遠さであれば奇襲で拠点を襲われる心配はないが、早めの討伐を進言しておこう。


気になるのは右の三つ、か。

どうやら点在しているのか、右に周回しながらノエルが気配を探っているのがわかる。

この遠さであれば何か魔法でない限り撃ち落としもないだろうが気をつけてぐるりとノエルを回らせる。



――――と。



「ノエル、避けろ!」

『きゅー!』


黒いものが飛んできて、ノエルをとっさに左へ避けさせる。

手綱は操作するために持っているわけじゃないんだが、口で言うより早い事もあるのでちゃんとついているのだ。

…後で怒られることもあるけど。


「なんだ…? こうもり? ノエ、ブレス!」

『ガァァァ!』


黒い小さなものがひゅんひゅん飛んで来ては空気を乱す。

ノエルに先手必勝とばかりにブレスを吐かせ、迎え撃ちの体勢を取る。

俺は、と言えば…。

とりあえず打ち洩らしがあれば切ろうと剣を構えてみる。


ノエルの炎の範囲は広くて、打ち洩らしとかあんまりないのだけど。

あの速さなら突っ込んでくると思ったが、何故か炎を直角に避けられているのが見えて、俺は身を乗り出して飛んできた黒いものを叩き斬った。

1匹…2匹…3匹。

数が増えるかもしれないので、ブレスを吐きつつ撤退を指示し、さらに後ろから追ってきたモノをたたき斬る。


「…なんだ、これ…」


しゅる、と剣にまとわりつく黒い靄。

蝙蝠ではなくて、魔物でもなくて、瘴気の塊か何か…なのか?

触れないように気をつけながら、さらに飛んできたものを2匹斬ったところで、謎の物体の飛来は止まる。

剣は真っ黒になっているが、切れ味が落ちた感触はない。

ただ…この状態の剣が不気味すぎる。持って帰っていいものか。


「どうしようノエル、これ」

『変。それ、変。燃やす』

「剣が溶けちまうって…」


さすがに予備はあるものの、ここで燃やすのもどうなのか…。

まあ平均的な騎士の剣ではあるが、一応備品ですコレ。

自分の剣は予備用なのだ。

理由? 剣に金掛かってないんで騎士剣の方が安上がr(げふげふげふ)。


…仕方ないな。

俺はノエルに指示して、森の中に下りる。

剣を燃やしてすぐ帰るしかない…幸い周りに敵はいないようだし、と。

俺は持ち帰ることを選ばず、剣にまわとわりついた黒い靄ごと剣を燃やす選択をした。




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