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12歳になりました




「―――今日は、ここまで」



家庭教師の声がやむ。

俺はひっそりと息をついた。…やっと終わった。


「相変わらず完璧です、ユリス様」

「ありがとうございます」


顔をあげると、冷たい眼差し。

いくら子供でも、そんなキツイ目で見たら心の声まで聞こえると思うんだがな? と思うものの、俺はそのまま目線を伏せるだけにとどめる。


下手に逆らってはいけない。

ここ5年で俺が学んだ事は、まずそれだった。


閉じる教科書。羊皮紙に書かれた、複雑な文様。

相変わらず必要最低限しか答えない俺に、家庭教師はそのまま退出して行く。


「…っはー…肩こるわ…」


確実に気配がいなくなってから、俺は肩の力を抜く。

勉強は嫌いじゃない、元々俺は大の読書好きでファンタジーに出てくる魔法って構成どうなってんのかな、とか科学分析するような馬鹿である。

複雑な文様にどんな意味があるか、魔法陣はどのように構成されているか、魔力はどうやって出すか、つけられた家庭教師に教えられる事は楽しくて楽しくて、言葉も満足に操れない3歳ぐらいから意欲的だった俺は『神童』と呼ばれた。


まあそりゃそうだよな、外見三歳だけど年齢は29+3才だったんだものなー。

元々語学も嫌いじゃなかったし、赤ちゃんから外国語に触れて生活するようなもんだ、今ではこの言語と日本語と、魔法に使う古代言語と。3カ国言語は完ぺきである。


「しかし…どうするのかね…ホント…」


その神童と呼ばれた地位が失墜したのは6-7歳の頃。

魔法を使える人間は、5歳ごろまでには魔力の片鱗を見せる。『神具』を持って生まれてきて、3歳のころには古代言語にも興味を見せ始め、子供とは思えない理解力を発揮した俺は、当然のことながら[稀代の魔術師]になるのではないかと期待されていた。


それが庶民ですら片鱗を感じさせる7歳になっても魔力が顕れない。

魔力の魔の字も感じさせないほどに魔力がないのだ。

そりゃあおかしい、と誰しもが思うだろう。


それでも最初は遅れているだけだと父も母も気にしていなかった。

だが、2歳年下の弟がこれまた能力の高い魔力を具現し始めれば、嫌でも彼らは気付く。


『長子には魔法の才能がない』


この世界は特殊で、特に身分に呼び名などはないようなのだが。

それなりに伯爵とか子爵とか、それに準じる家名というのはあるらしく、俺が生まれた家はなんというか、代々魔術師を選出している名家だった。

そのため家庭教師なども最高基準を誇っていて、実の処俺は技術だけは叩きこまれている状態ではあるのだが…。


未だ基礎魔法の一つ、出来ない長男に。

父と母の心が離れるのは当然のことだった。


「いっそ外すか」


左の薬指にはめた、結婚指輪を光にかざす。

『神具』らしく、サイズは常に俺の指合うように変化するらしい、その指輪の中央にある埋め込まれた小さなダイヤを見つめて、溜息をつく。


「大体、なにしろって言うんだよ…」


おそらくこの指輪をはずせば、俺は魔法を使えるだろう。

朝起きると力が満ちているのがわかるし、その後徐々に吸い込まれている感覚がある。それはもう、魔力が顕れると言われている5歳より少し前、4歳ぐらいだったろうか。

そのくらいの時からの馴染みの感覚で。


魔力を動かす、そんな基礎を習った後に朝やってみたら力が動くのも感じたので、恐らくは間違いはない。

間違いはない、のだが。



もう一度溜息をつく。



「一度でも魔法使ったら、救えなくなるんかね…?」



口に出したその現実は重くて。

俺はそっと、指輪をした手をポケットへ突っ込んだ。

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