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ようやく本格的に弟登場。

生まれて一年たった騎竜はそれなりの動きが出来る。

実質の大きさはまだまだだし、女性でないと少々乗せるのが辛いサイズではあるが、サイズ変幻可能なノエルにとってはなんとかなる範囲であった。


季節は巡り、夏。

実地訓練が始まった。






まずは王城に勤める際の、1週間の座学。

その後騎竜師団にグループでついて回り、地方の観察に分担して回ることになっている。

その座学で俺は、魔術師見習いと一緒になった。


ざわつく構内には人、人、人。

王城に勤める人員は、年々増えていると言う。

理由は簡単だ。魔物が活性化しているからだ。


地方に回されることもあるが、基本王都を守る軍の整備が急務となっているため、見習い人数も半端ない。

地方に行く人も希望すれば受けられるらしく、ランダムで教室が分かれているようだった。

その、50人程度の中に見知った顔が入るのはどうかと思うが。


少し薄い金色の髪に空色の瞳。

数人と談笑していた彼は、俺と目が合うと大きく見開いた。


「…」

「…」


俺はどう声をかけていいかわからない。

無視すれば良かったのだが、完全に目線が合っている。そして談笑していた友人らしき人物も俺を認め、じっとこちらを見るものだから見なかったふりもできない。


一言。

一言、挨拶して違う席に座ればいい。

そう思うのに、脚が止まる。


「…兄上!」

「!」


左肩に乗せたノエルの尻尾が揺れる。

力が入ったのがわかってしまったのだろう、きゅ? と不思議そうに鳴くノエルを撫でるふりをして俺はいったん目線を外す。


(…大丈夫。大丈夫だ)


彼は友人を見向きもせず真っ直ぐ俺のところまで歩いて、俺を見上げてくる。

ゆっくりと目線を合わせればそこにあるのは、好奇心に満ちた瞳。

目が再度合った瞬間に、弟の―――トリスの目がノエルを見て輝いた。


「お久しぶりです、兄上。あっ、その子が兄上の騎竜ですか!?」

「あ、ああ」

『きゅー』


ノエルが返事をするように鳴く。

俺の感情を受けてどう反応するかわからなかったのだが、特に反抗する様子はない。

首を伸ばしてトリスの方へ顔を出したので、トリスがそっと手を出した。


「…え、と。撫でていいです?」

『きゅー♪』

「いいってさ」


恐る恐る、という風にトリスの伸ばす手にノエルが頭を下げる。

撫でられるのが好きなノエルは大人しくしている。

彼女が大人しくしていると言う事は、嫌ではないのだろう。だから止める必要もない。

撫でる様子をじっと見ていると、しばらくして満足したのかトリスがこちらに向き直った。


「あ、えと。しばらくお会いしていませんでしたが、お元気でしたか?」

「ああ、特に大事ないよ」

「それは良かったです」


ほっと安心したように息を吐き出すトリス。

その様子は、表情だけは昔と変わりのないもので…俺は戸惑う。

…最後に話したのは、何年前だっただろうか。


「父上から少しだけ、お話は聞いていたんですが…ここ数年、実家に帰って来られていなかったので、少しの間でも顔が見れてよかったです」

「…父上から話?」

「はい。昨年から騎竜士クラスに飛び級して、今は黒騎竜を育てていらっしゃると」

「…そう」


その数年前の事は特に聞いてないのかな?

だがまあ、現状は王城に行くにも遜色ない能力(主に騎竜関係だけど)を持っていることになるんだから、そこまで問題のある事は言われないか。

父から俺の話がトリスに伝わっている事は結構意外だったが。


「あ、そろそろ始まるみたいですね」

「そうだな。さっきから彼らがこちらを見ているみたいだが、行かなくていいのか?」

「え、ああ…」


好奇心に満ちた視線はだんだん増えている。

そしてトリスの友人なのか、先ほどまで周りを囲んでいた魔術師見習い共がこちらをむしろ睨んでいる。

なんだろう…特に何もしていない筈なだけに居心地が悪い。


「…すみません、友人を待たせていますのであちらに僕は座りますね」

「わかった、気にするな」

「いえ…あいつらを放置するのも面倒ですから…」

「は?」

「なんでもないのです。では兄上、また後で」


トリスはもう一度ノエルを一撫ですると、大人しく席に帰っていた。

…結構名残惜しそうにこちらを見ているが、そんなに騎竜触りたかったのか…。

そういえば、トリスは動物はすごく好きだったな。

俺の周りに来る鳥やら迷い込んだ犬やらを、追いかけまわしては遊んでいた、筈だ。まあ小さい頃の話だけど。


『主~?』

「ん?」

『主と同じ匂い。誰?』

「ああ。弟だよ」

『家族。大事』

「…ああ」


ノエルが何故大人しくなったのか疑問だったが、どうやら血の問題だったようだな。

家族であるために魔力の質も似ているのかもしれない。

撫でられて気持ち良さそうだったのは、俺と共通する部分があるからこそか。


「…ノエルはトリスが好きか?」

『違う』

「?」


なんとはなしに、問いかける。

俺より魔術師の資質を認められている弟。

…その存在を、嫌だと思った事はないけれど。


『ノエル、主好き』

「ん、ありがと?」

『トリス、同じ』

「同じ?」

『同じ。好き』


首を傾げると、ノエルはまたきゅー、と鳴いた。

…何が同じなのかよくわからんが、ノエル的にはトリスは敵意対象ではないらしい事だけはわかる。

ノエルは割と好き嫌いが激しいので、その点では及第点と言えるだろうか。


(まあ、トリスはなんでも出来る奴だしな…)


無駄に力のはいってしまった肩の力を抜きつつも。

俺は講義に集中するために、トリスから無理やり目線を外した。

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