戦友(17歳)
「次に会う時は王城だね~、来年楽しみにしてるね」
「ああ、クララも見習い頑張れよ」
「はーい」
春。
俺は2年目の騎竜士クラスを迎えた。
☆
最上級クラスと同様で、最高学年は実習が発生する。
騎竜士クラスの実習は勿論王都騎竜師団での経験になる
俺の場合、卵からの幼竜育成があったため去年は参加していなかった。勿論、今年の在籍が確定していたからでもあるが。
飛び級者は俺一人だったため、落第者もいなかった騎竜士クラスは新しいクラスメイトを迎えた。
黒騎竜を契約しようとしていたファティマを思い出し身構えていたが、ファティマはそのまま最上級クラスに進み、同じクラスになったのは…。
「アリス?」
「やほーユリス、また一年よろしくねー」
一年前まで同じクラスだったアリスだった。
一年前と違い、バッサリと切ったらしい短い髪を俺はついマジマジと見てしまった。
「あ? これ?」
「どうしたんだその髪?」
キリっとしたストレートのファティマの髪の長さが変わる事はよくあったが(夏になるとばっさり切っていた)、天パでふわふわの髪が腰に届くくらいあった彼女の髪が短かった事は一度も見た事がなかった。
二人並ぶとその飾り気の違いは明白で、面白いほど違ったものだ。
…そのトレードマークとも言える髪が肩口で居心地悪そうに揺れていた。
「ちょっとね~ある意味決別ってやつかな?」
「?」
「まぁすぐ伸びると思うし。気にしないでよ」
「はあ…」
肩口まで切りそろえられた髪が、風に吹かれてふわりと目の前を揺れる。
金色の髪。
―――光を吸い込んだ、茶色い髪を思い出させて。
懐かしい想いに駆られてその毛先を追うと、肩をすくめられた。
「ちょっとー、何を思い出してんのよその顔はー」
「え? なんか変な顔してたか?」
「してたしてた。やっさしい顔しちゃってさー、なぁに恋人との髪型にでも似てた?」
「!」
恋人じゃなくて奥さんです。
とは言えず慌てて頭を振ると、信じてもらえなかったのか口を尖らせてくる。
…その仕草もなんか似てて、苦笑しそうになる。
が。
「嘘おっしゃい、知ってるんだからねーう・わ・さー」
「は? 噂?」
「うん。クララちゃんだっけ? お熱いんだってねー?」
「は…はぁ!?」
何このデジャブ。
って言うかまた何か誤解されてるのか!?
「ち、違うし」
「えーうっそだー。卒業式で『また来年王城で♪』とか皆の前で堂々と約束したって聞きましたが?」
「そ、っれは…約束は、したが…」
今年近衛師団に入隊したクララは、王都の騎竜師団とは別の配属になる。
学生の実習先は騎竜師団の方になるし、殆どが地方実習になるため王城に近づくことも殆どないから俺が卒業するまで会えないねー、とは言ったのだ、確かに。
…だが、断じて色恋沙汰ではない。
「ほーらみなさーい」
「違うって、来年近衛に入ったらまた一緒なだけだって」
「はいはーい。言い訳は見苦しくてよー。いいじゃない、身分もそれなりにつり合ってて、黒騎竜の母竜の契約者で縁もばっちりなかわいい彼女。オススメ物件じゃない♪ いいわー青春だわー」
「お前は俺の母親かッ!」
にまぁ、と笑うアリスに脱力して座り込みかけ。
頭を抱えつつ腰を曲げたまま見上げると、彼女はすっと真顔になった。
「…まあ、いいんじゃない?」
「何がだよ」
「クララちゃんはー、貴族って言っても地方の方だし、かわいい子だって評判だけど妬まれるほどでもないんだから否定する必要はないでしょ?」
「……」
何を言われたのかに気付き、俺は黙りこむ。
アリスが言っているのは、他でもない。
これからの事…だ。
「噂でもなんでも利用しなさいっての。相変わらずなのね、ユリスは」
「…あぁ、悪い。気にしててくれたのか」
「私は逃げた方だからね。ま、それくらいは」
眉を下げる彼女に俺は首を振る。
アリスがどんな気持ちでいたのか知っているから、俺は彼女を責める気はない。
辛かったら俺も逃げてもいいんだと、聞いたのはいつだったか。
「あーやめやめ、まったり一年よろしくねー」
「ああ」
差し出された手を握る。
その瞬間突きささる、好奇の目。
…あ、しまった、ここ、新クラスの教室内だった。
「ユリス」
「あ?」
「浮気はいけないと思いますっ!!」
「握手で浮気かよ!!」
馬鹿な事を言って混ぜ返すアリスに笑いつつ。
こうして俺の最高学年はスタートした。
さて、戦友は誰をさすでしょう?