日常は緩やかに過ぎ去る
のんびりゆるやか
3か月立った。
騎竜を得た後の実習は、非常に楽しく時間はあっという間に過ぎた。
もちろんノエルは幼竜なので、通常であれば飼育の方に力が入り、実習であれば他の騎竜を借りるのが通常であるのだが…。
ノエル曰く。
『主はノエル以外に乗っちゃダメ!』
だ、そうで。
実習の時は他の騎竜のサイズになり、飛行練習を一緒にやる始末。
生まれて半年もたたないのにもう飛ぶの? おい?
と心配してしまったが、騎竜の中の王の称号は伊達ではなく。俺を乗せて飛ぶのくらいなら全く問題はないそうだ。
力持ち。
ただ二人乗り以上になると重量が厳しくふらつくし、またノエルも他の人間を載せようとしてくれないため非常に困った。
疲れさせすぎないように実習自体にも制限がかかるし、余った時間を他の騎竜に乗ろうとするとぐずりだすし。
そのため二人乗り以上の実習の日は、いつもノエルとの駆け引きになる。
『だから。今日は二人乗りじゃないといけないんだ。乗せてくれないら他の子に頼む』
『駄目! のえ 行く!』
『じゃあ他の子乗せていい?』
『うりゅぅー』
ぐすんぐすんされると精神に来るのをなんとかして頂きたい…。
というか基本騎竜は救助目的で使用されることも多く、何人乗せられるかも救助行動では大事な事。
そうすると王としてのプライドが発生し……怪我人を運ぶならば恐らくいやがりはしないのだろうが、練習となると抵抗があるようで一向に承諾してもらえない。
うん、面倒。
『主ぃ~』
『…泣いても駄目』
ここは心を鬼に!
甘やかして救助のできない子にするわけにはいかないし! いかないし!
練習だからって我儘を通していいわけが…!
『きゅぅ~~』
『ぐ…』
甘えた泣き方をされると、非常に弱い。
結局のところ説得は難航し…2回に1回は説得失敗になる。
で、実習はどうなるか、というと…
「ユリス、私ならいいから」
「ごめんクララ…」
ノエルの母竜の契約騎竜士クララに頼る羽目になることが常々だった。
幼竜として生まれて3週間近く、ほぼ近くでノエルの面倒を見ていたクララにはさすがに拒否反応はないらしく、練習と言う緊張感を持てない場でも彼女なら乗せてくれるのだ。
ノエル、好き嫌い激しすぎるだろ…。
ちなみにノエルは雌竜である。
「ううん、ノエルはユリスの事が大好きなだけだもんね?」
『主、好きー!』
「はあ…」
ちなみにノエル、共通語も理解は出来ているらしい。
何故共通語じゃなくて古代言語を使用するのかな、と思っていたのだが…ノエルに聞いたら簡単にわかった。
発声的な問題で、共通語は人間が喋りやすいように出来ているためどうも使用が難しいらしい。
まあ確かに。
おれも古代言語は単語から一つずつ一つずつ習得したが、文字で習得するのの3倍はかかったもんな発音。
未だ発音が甘いものもある。陣を組むためには発音も大事なため、そこだけは怠らなかったので大抵の発音は出来る自信があるが…、正直騎竜士クラスだと古代言語喋るのは俺ぐらいだった。
まあ弟や両親の発音を知る限りでは、生粋の魔術師でも喋るの結構大変そうだったしな。こういう部分は『経験』として昔の能力を受け継いでるのかもしれない。
伊達に数ヶ国語喋れたわけじゃないぞ。今は喋れと言われると英語すら非常に怪しいが。
「じゃ、行きましょ?」
「了解」
まあ今日も今日とて、実習だ。
平和が何より。
☆
実習を終えて寮の部屋に向かう途中、オルトに遭遇した。
あまり頻繁に声を掛け合う仲でもないが、別段仲が悪いというわけでもない。
目線が合うと、あちらから寄って来た。
「…ユリス」
「オルトか。珍しいな」
「あ、ああ…」
オドオドと言い淀む姿に首を傾げる。
オルトはアリス・ファティマとともに1学年の時同じ部屋だった奴だ。
口達者な割にその…能力的にはアレで、すぐクラスが分かれてしまったのであまり話す機会がなかったのだが…寮の部屋は割合近いままなので、会う時は会う。
「ちょっと聞きたい事があって…」
「聞きたい事?」
「ああ。え、っと、ユリスは選抜大会、出る、のか?」
選抜大会。
勇者PTのメンバーを選ぶ5年ごとの大会だ。参加資格は成人している事、で腕試しや箔付けに学生や見習いがが参加することも多い。
年齢制限は30歳まで。それ以上となると身体的な能力の問題が出る、と言う事で基礎体力等の測定が入ると聞く。
俺は今年16になったので参加する事は出来る、が…あまり興味はない。
「出ないよ?」
「えっ」
「いや、え、って言われても。俺は単体での戦闘能力そんなにないし」
ノエルが大きくなったら出るのも有かもしれないけど、俺は槍使えないしなあ…。
対人戦になるとノエルの攻撃力が逆に制限されて勝てない気がするな。幼竜なのに速いし、爪の攻撃力とか藁人形を倒すんじゃなくて切り倒すレベルなんだぜ…。
いくら治癒術使える人がいたとしても、即死させたら大変である。正直無理。
「そっか、でない、のか…うん…」
「というか、なんでそんな事聞くんだ? お前出るの?」
「で、出れない! まだ14だし!」
「あ。そうか」
剣士系と魔術師系で分かれて開催されるこの大会は、確かに勇者PTに入るには一番の近道。
一応参加した方が印象に残るだろうし、黒騎竜の縁もあるから王様の印象良くしておいた方が…とは思ったのだが、サルートを通して実家にお伺いしたら即却下された。
…はいはい。
まあ、剣士系でもふんだんに魔術飛んでくるからね! よく考えなくても無理だったね!
「…いや、その、なんでもないんだ、ホント」
「?」
「出ないならまだ、なんとか、って…あっ! なんでもねえ!!!」
「????」
オルトがそのまま逃げるように去っていくのを首を傾げながら俺は見送った。
俺が出ないとなんかあんの?