で、転生するの?
とりあえず転生するところまで。
俺の名前は 本郷 幸人。幸多かれとつけられた名前と、そこそこの人生を歩んでいたごく平凡な男だ。
その平凡さの割に三十路突入前にあっけなく、事故で死んでしまったわけだが。
まぁそれも人生。割と幸せ絶頂期だっただけにふざけんなといいたいが、俺の死自体は確定事項だったそうで、転生させるために殺したのではないと言われた。
…まぁ殺してても言わないとは思うが、わからんのでそういうことにしておこう。
本来なら嘆く所なのだろうが、俺は昔からそういった感情は気薄だった。
ぶっちゃけ起こったことに対して憤っても埒があかないからそういった怒りは湧かないのだ。
そう告げると。
そんな君だからここに呼んだのだ、と『神様』は言った。
「何人も、候補者を選んではみたのだけど」
「はあ」
「それこそね、世界を救うのが運命だとか思えちゃう人とか、責任感の強い人とか。いろいろ当てはめて試してはみたんだよ」
「はあ…」
俺が転生条件を聞いた時、まず思った事は[なんで俺?]だったのだ。
俺は多少は武術の心得はあるものの、世界レベルとかそんな強さはまったくなく、平凡を絵にかいたような生活しかしていなかった。
それでなぜ選ばれるのかと。
「…責任感強い人は駄目なんだよね」
「何故」
「壊れちゃうんだ」
…壊れるって、また端的に怖い事聞いたなおい。
「強いだけの人は、何かあると心が折れちゃうんだよね。その点君はなんて言うか…」
「なんていうか?」
「鈍い」
バサ。
効果音まで聞こえてきそうな身も蓋もない言い方に、俺は怒るでもなく呆れた。
「何ですかその酷い扱い」
「ほらねー? 怒らないじゃない? もうね、心広いんだよね君。何がどうなったらそんな風になるのかわからないんだけど、試行錯誤した結果、君が適任ってわかったんだよね」
「…勝手に適任にしないでくれます?」
呆れてついていけない。
胡乱な目で『神様』を見つめると、少年はぺろりと舌を出した。
「まぁそんなわけで。引き受けてほしいんだよね」
「引き受けるのはともかくとして。なんでまた、魔法の使える世界で魔法を使わない生活をしろって事になるんです?」
男にかわいくされても全く嬉しくない。
どう考えても無理難題だろう、と思われる事を告げると美少年はじっとこちらを見てきた。
「魔法ってさ。使うのに魔力がいるんだよね」
「そりゃ無制限に使える世界とかはっきり言って怖いよな」
「うん。で、本来ならその魔法に使う魔力をだね。敵対者と戦うまで、貯めてほしいんだよね」
「貯める?」
使わないで生活、というのは。
そうやら使わずに必死こいて貯めこめという意味だったらしい。
「貯めるってどこに?」
「あー、それは生まれる時に持たせるよ。割と『神具』を持って生まれる子は多いから何ら問題はない」
「はあ」
ファンタジーですね。
生まれたばかりの子供がなんか変なもの持ってるって、生まれてくる時に引っかかったりしねーの? こええな。
「ちなみにコレにする予定」
「ソレ、俺の結婚指輪じゃねーか…」
「思い入れがある方がなじみやすいし、丁度いいから。ちなみに普通に埋葬する時に一緒に入れられてたので持ってきちゃいました☆」
「神様が盗みかよ」
しかし埋葬とか…。
死んだ人間に対してヘビーな事言いすぎだろこのガキ。
「子供じゃないもん」
「ナチュラルに心の声に答えんなよ」
別にもうなんでもいいけど。
もう一度確認させてほしい。
「とりあえずアンタが俺に望んでるのは、1・転生してほしい 2・転生して魔法が使える状況にあるにもかかわらず使わずに魔力をため込んでほしい」
「うんうん」
「で、3・貯めこんだ魔力で『代行者たち』を救ってほしい」
「そう!」
ぐっと親指を突き立ててこちらにいい笑顔を向けないでほしい。
聞きたい事はまだあるんだ
「で、具体的に何しろと? 大体救うって何? んでもってなんでにっぶーーーい俺じゃねーと出来ない事なのそれ?」
「あ、それはね…って…あああ!!!」
突然叫ぶ少年。
その姿がぼやけた。
「は?」
「ご、ごめん超ゴメン時間切れ! そういう事で…後は頼んだーー!!!」
「マテコラ全然具体的な案がねーだろー!?!?!」
光が空間を満たす。
霞んだ視界の中で、焦ったまま土下座する少年の姿だけが目に焼きついた。
…謝ってすむかボケ!!
と言う事で転生した彼が次の話からまったり成長します。