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後始末は大変です

ぱたん、と本を閉じる。


(これでもないなあ…)


読書は俺の日課だ。それこそ文字が読めるようになった頃からの。

最近でこそ竜の生態についてや剣技の本も読むようになったが、昔は家にある魔術に関しての蔵書を片っ端から読んでいた。

生粋の魔術師家系の家にある本は禁書も多かったが、ほぼ軟禁状態である事を不憫に思っていたのか読む本を制限された事はなかったし、それこそ魔術の知識に関しては人並み以上にある


自信はある。

自信はあるのだが。


(魔力を貯めなきゃ使えない魔法って…なんだ?)


ここ16年俺が悩んでいる事。

それは、俺の魔力の使い先だった。



この世界の魔法は、勿論属性などもあるが基本はイメージが重視される。

火・風・水・土・氷・光…基本的に思い浮かぶ魔術は、一通り存在しそれをあらわす文字も、組み込む魔方陣も無数に存在する。

後はほぼセンス。

よってオリジナル魔法を書いた蔵書はそれこそ腐るほどあり、一つ一つ俺は調べていたがまだ分かっていない事がある。


恐らく、俺が使用する予定の魔法は魔力を途方もなく使用するものであろう事。

だが、調べる限りそこまで魔力を使用する魔法がこの世界に存在していないようなのだ。


攻撃魔法や、転移魔法。

魔力を大量に使用すると思われるものはいくつか考えられたが、俺の総魔力量を考えると、それこそ国単位で転移移動でもしない限りはそこまで魔力使用をしそうにない。

攻撃魔法に置き換えると、普通に国が滅ぶ勢いなので、これも使用するとは考えづらい。


「うーん、やっぱり転移かなあ…」


しかし転移魔法は基本、行った事ある土地にしか使用できない。

もし大量の人数を隣国に運ぶ、などの行為が必要なら俺は転移させる必要がある所まで旅しておかなければならないのだ。

そしてさすがに貴族である俺が理由もなく国外に出ると言うのは無理があり…かと言って騎士団にでも入れば、ほぼ王城のある王都から動く事はかなわなくなるだろう。

それまでにある程度、俺が何をすべきか見当をつけておかなければならない。


「後は時空とか…?」


時をさかのぼる魔法。

これに関しては禁書に乗っていたが、本人の巻き戻りぐらいしか使えないようだったので少々考えづらい。

ちなみに不老不死(あくまで疑似的なもの)はこの時空魔法の応用らしくつい内容を覚えてしまったが、果たして使う日が来るのだろうか。

…戦いで若返りってどう考えても必要ない気がする。

と言うか別に不老不死はいらんだろ。基本魔力の高い人間は老化が止まるらしいし、俺多分老化自体そんなにしないんじゃないかな。


「後考えられるのは勇者召喚のやり直し…とか、かねえ…いやでも勇者助けるんじゃなかったっけ…?」


勇者召喚。

物心ついて真っ先に調べたその内容は、非常に興味深い。

実際の召喚を見た人と話す機会がないので本でしか調べた事がないが、魔王がある程度の力をつけると自動的に神様から神子へ啓示がくだる。

啓示をうけた神子を中心にして、その時魔王に対峙するに適した者を【世界関係なく】召喚する。

これが基本らしい。


ちなみにその召喚内容だが、もしかして異世界? と思える召喚者も何人か存在した。

しかも勇者、種族すら限定されていない上年数もランダムらしくいろいろマチマチだ。

ひとつ前の召喚はどうもリザードマンっぽかったしね。わぁ異世界。


ちなみにこの国は人族の国なので、その勇者との交流はないようだ。50年ほど前の話だからまだ生存していると聞いたが、訪問したくても現状じゃ無理だろうなあ。

後種族はどうも対抗する相手に合わせているらしく、次がどうなるかもわからないらしい。

俺が地球から来てるわけだし、地球から来てる人もいるのかなーと思ってわくわく調べてみたのだが、残念ながら地球からの召喚者はいないようだった。

人が存在するのは地球だけじゃないのかもな。

なんかいろいろスケールがでかい。理解出来ないけど。


「せめて召喚の陣が見れれば、なあ…」


召喚の陣は、この国からこれまた1カ月はかかる微妙な位置にある。

黒い靄の方向とは逆側にあるので近くに行く事は可能だろうが、召喚陣自体は全面的に立ち入り禁止のため恐らく見る事はかなわない。

召喚と言うからには魔術師の力とか必要なのかなーと思っていたのがそうでもなく、神子が中心となって召喚するため、魔術師たちも詳細は殆ど知らないとか。

俺神官にでもなった方が良かったんじゃね? 適正きっとないけど。


「はあ…わっかんね」

「何がわからないんだ?」

「!?」

「きゅー!!」


ばさ。

魔術書がベッドを滑り落ち、ノエルの頭に落ちる。

ノエルの泣き声を聞きつつもドアの方へ目線を飛ばすと、そこにはサルートがいた。


「? なんかあったのかユリス」

「い、いつからいたんですか兄様…」

「今」


答えにほっとする。

サルートはその気になればまったく気配を見せないのでうっかり独り言を聞かれる可能性があるからだ。

ただサルートは嘘はつかない。

だから聞かれたのは今の一言だけだ。


「気配消して来ないで下さい、吃驚します」

「ん? ああ、特に気にしてなかった。悪い」

「いえ…」


こう言う時に差があるな、と感じる。

サルートは基本的に気配を断っているらしく、こちらも緊張していないと普通に入ってこられても気づかない事が多い。

プライベート的なものがあるのでわざわざこちらに感知させていつも入ってきてくれているのだろう。

それを忘れただけなのに、力量の差を感じてちょっと切なくなる。


「何かありました?」

「何かあったっていうか…事情を聴けと言われたと言うか…」

「?」


珍しく歯切れ悪いサルートに首を傾げると、サルートは壁にかかっている俺の剣をベッドサイドまで運んできた。

…剣?

何故に。


「これ、実家から送ってきた剣だよな?」

「ええ。力がないので、切れ味のよくて軽い物を頼んだんですが…」

「一般的な剣だよな?」

「一般的なものよりは高いと思いますが、特に魔法もなにも刻まれてないただの剣ですね」


多少剣を交わしても折れないように、補強はされているかもしれないが。

特に魔法陣等は組まれていないなんの変哲もない剣。

魔法に触れるとどうなるかわからない俺のために、わざわざ魔法のかかっていないものを選んで送ってきてくれたものだ。最初は魔法剣も持っていたのだが…。


「あー…ほらさ。忘れてるかもしれんがお前、これで火炎弾を団員連中の前で切ったろ…?」

「あ」

「それ見た同僚どもが、どんな剣使ってるんだって興味深々でさ。ちと誤魔化すのに苦労してるっつーか…」

「はあ…」


思っていたより慌てていたらしい。

そういえば火炎弾、陣ごとぶった切ったな。

それどころじゃなかったのですっかり忘れていたが…魔法剣で魔法を切るならともかく、普通の剣じゃ切れるわけないものな…。


「俺は一度お前が指で消したの見てるからなんとなく察したんだけどさ。親父とかが、もうびっくりしちまっててな。どう説明したらいいもんかと」

「あー…叔父上にはそのまま言ってもらって構いません、が…」

「つーか、指じゃなくても消せるんだな火炎弾」

「陣の見える魔法は消せますよ。陣の位置によって消せないのも多いですが」

「へえ。なんだかんだいって研究してんのか」


そういえば手紙は無難な内容しか送ってなかったなあ、とぼんやり思いだす。

そもそも魔法関連の授業は危ないから、とかいろんな理由をつけられて殆ど見学しか出来ないので対人をした事がないのだ。

一度無茶をして魔法使ってくる魔物相手に試した事があるのだが…。


「一応、手から離れてない武器なら出来るみたいですね」

「手から離れてない武器?」

「ええ。距離で何かあったら怖いんで槍とかは試した事はないですが、剣ならほぼ切れました」

「手から離れる武器ってなんだよ?」

「…」


痛いところを突かれて、押し黙る。

だってほら、あの時サルートは魔弾で打ち抜かれたって言ってたじゃないか?

だからほら、練習するよね、うん。

ちなみに俺、ダーツとか投げナイフの技術は全くなかった。

向いてないらしいので物理的な遠距離攻撃は不可。明後日の方向に飛ぶので危なすぎる。

ちなみに。


「…一度、どうなるかなと思って間近で剣を投げた事がありまして…」

「……」

「陣ごと、その、剣爆発しまし…て…」

「……おい」

「あの時はやばかったですね…。一体何をやったんだと…大騒ぎになりました…」


結局は魔物が魔法を暴走させたのだろうと言う事で決着がつき、俺のせいだと言う事はバレなかったのだが。

あのせいでなおの事魔法関係の実習が出来なくなったのは黒歴史である。

おかげで魔法耐性授業の実習もオール見学化したからな…はははは…。さらに言えば魔法の刻んだ剣だったため、以後魔法剣の扱いも出来なくなった。

思い出したくないことを思い出した。


「あれ、じゃあ、もしかしてお前が魔法を『切れる』事って、学校の奴らは知らないのか?」

「知らないです。説明しろと言われても正直困るし」

「まあそうか」

「大半の陣が打ち出された後は本体の魔法の後ろに来るんで、飛んできた後だと切れませんしね。ぶっちゃけ使えないんで言ってませんしこれからも言う気はありません」


唯一ターゲッティングが早い火系の魔法は前に来やすいので切りやすいのがわかっている位か。

そのため俺にとって火系は割と対処が楽な部類の魔法だ。あそこで氷槍が飛んで来ていたら、回避し切れたかは正直自信がない。

運が良かったと言わざるを得ない。


「んー…わかった。父上にだけ言っておく」

「お願いします」

「しかしなあ…団員全員見ちゃったんだよなあ…」


うーん、と唸るサルートに俺は申し訳なくなって俯いた。

正直使えるんだか使えない技能ばっかりなんだよな、俺。

陣が見えてサルートの魔法を消した魔法使いのように『魔法で陣の中央を打ち抜く』事が出来るなら、とても強いと思う。

けれど接近でしか使えない挙句、飛んできた魔法だと無効化出来るものが殆どないって何の技能だよ…。


「じゃあ、まぐれってことで…」

「あー…それしかないっかー…」


まあ何とかすると請け負ってくれるサルートに感謝しながら。

どんどん増える秘密になんとなく辟易した。

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