つかの間の休息
ほのぼの。短いです。
結論から言うと。
俺の左腕には見事な黒い騎竜の紋様が浮かんでいた。
同時に竜に噛まれた後もしっかりとくっついていた。
うん。
押しかけ契約とか聞いたことない。
「きゅっきゅー♪」
「お前なあ…なんでそんなご機嫌なの…」
竜に体当たりされて吹っ飛ばされた俺の身はもちろんと言うべきか満身創痍だった。
地面に思いっきり激突したのが悪かったのか、その竜の体重を一身に受けたのがまずかったのか、一時は意識不明の重体レベルまで逝ったらしい。
幸いなことに、竜が脱走した時のために癒しも使えるメンバーを用意していたため大事には至らなかったものの、意識を取り戻したらすぐに叔父上にこってりと絞られた。
曰く。
隷従の陣は最後の最後で使う予定で、本来なら使用予定はなかった事。
ファティマが最後だったのは単純に、黒騎竜と力勝負をすれば認めてもらえるんじゃないかとのファティマの希望のためだった事。
彼女の番が終わったら、こっそり叔父上の自己責任で一目だけ合わせてもらえる手はずだったらしい(だからこそサルートと茶番劇をして団員から同情を買う作戦だったとか)。
…そうですよね、じゃなきゃあんな近くにいないよね。
勘違いしてごめんなさい。
『主、主』
「んー?」
『動く、ない? どして?』
ベッドの上に寝転がった俺の上に、ちびっこくなった黒い竜が1匹。
でかくなったと聞いていたけれど、黒騎竜はなんとサイズ変動が可能な竜だったらしい…契約した事で本来のサイズに戻ったようだが、今はさらにサイズを縮小している。
というのも、血の盟約を結んだ故にあまり傍を離れる事が出来ないのだが(魔力が馴染むまでと言われているが俺の魔力って…?)、俺の部屋に竜をいれるにもでかすぎて入らなかったらしいのだ。どうしたらいいものかと部屋の前で悩んでいたところ、ドアをくぐれなかった竜が目の前でさらに小さくなって飛び込んで行ったとか。
なので現状、5kg程度の50cm四方愛玩サイズに変更したまま俺の上に乗っている状態である。
…こいつ無駄に頭いいな。
しかも俺が習得に相当苦労した古代言語、さくさく使ってるし。
赤ちゃんのはずなんだが…年齢関係ないんかな?
あ、でも契約の名言以外は少し舌たらずな気もする。
『怪我をしたせいで血が足りなくてね。もうちょっと安静にしてるよ』
『安静。大事』
こくん、と頷き。
きゅっきゅー、と鳴くちび竜に癒される…。
する、とその頭に手を置くとすべすべつるつるの感触がした。ちょっとあったかい。
「いい天気だなー」
「きゅー」
窓の外は快晴。
俺は謹慎。
悪いようにはしないと叔父上もサルートも約束してくれたし、元々契約予定だった俺が契約しただけだ。
一度契約した場合、騎竜は死ぬまでその契約主を守ると言うし、無理に解除されることも恐らくはないだろう。
だから、これで勇者PTには近づけた…と思いたいが…。
「もう少し強くならんとなあ…」
黒騎竜とはいえ、幼竜に一方的にやられて満身創痍。
そもそも慌てていたとはいえ、噛まれるのすら自分自身を庇えていないとか、剣士としても騎士候補としても失格すぎる。
こいつと無理に引きはがされないためにも、しっかりしないとな。
「ノエル」
「きゅー♪」
『これからよろしくな?』
もう一度頭を撫で。
俺は魔術書を手に取ると、読書を再開させることにした。
(もっと強くなりたい)
せめてこの騎竜の横にいても、遜色がないくらいには。
次回は閑話です。別名蛇足休憩。