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選ばれし者

竜舎に一人一人はいっていくのを見つめる。

何故俺があそこにいけないのかと、歯噛みしながら。


「なんでユリスは駄目なんですか!?」

「聞き分けろサルート。勇者と縁のある竜だぞ? 魔力のない人間をそんな危険な目に合わせるわけにはいかぬだろう」

「しかし…!」


目の前で言い争っているのは叔父上とサルート。

竜舎にならんでいるのは最上級クラスの4年生と5年生たち。

そして俺は第一師団に万が一の事がないように囲まれていた。監視いい加減にしてください。


猛者と契約させたいと言う王様の意向もほぼ無に帰したため(全員竜に断られた)、今度は学生を試してみようとなったのが数日前。

学生に危険があってはならないため、第一師団の人間が交互に付き添いつつ、一人一人が陣を持って声をかけている状態になったのが今日。

頼みの騎竜士クラスはといえば、まさかの全員契約持ち(主に俺のせい)だったため、急遽最上級クラスから契約者が出ないかと試すことになったのだ。


そこでなぜ俺が入れないのかと言うと。


「大体契約陣がユリスは使えないだろう…」

「そんなものいりません。ユリスはあの竜が卵の時点で触れることが出来たんですよ? 攻撃されるわけがありません」

「それを上の者に言っても無駄だ。黒騎竜は2週間でかなりの大きさにまで成長してるんだ、ユリスに何かがあったら困る」

「だから何かがあるわけないでしょう! 寵愛持ちですよ!?」


まず契約陣が使用不能。

さらに竜の大きさがでかすぎて危険。

最大障害が貴族のため万が一があったら困る。


……。

最後の障害いらん。自己責任でいいから俺契約チャレンジさせてくれよ。

そして叔父上を推すサルートが結構頼もしい。


「そうは言ってもな…お前も見ただろう。あの竜、かなりのストレスを感じてる」

「それはユリスと会えないからでしょう。俺が見た時は匂い嗅いで鳴いてるくらいでした」

「…卵の段階で匂い覚えてるとかありえんだろうが…」

「ああ、もう! とにかく! 俺は何度も言ってるようにあの竜の契約者はユリスしかいないと思ってるんです!」


苛立たしげに地団駄を踏むサルートも本当はわかっているのだろう。

団長の伯父上に噛みつくように口論しながらも、あまり本気で抗議しているように見えない。

と言うか、何だろうこの違和感。

この親子、似たもの同士なのである。口論しているのも殆ど見た事がないし、どちらかと言うと口げんかも楽しげにやるような人たちだったように思うのだが…サルートは何を焦っているのか?


竜舎に目を向けると。

一人の少女が目に入る。


「…ファティマ」


彼女ならば、黒騎竜の相手にふさわしいのだろうか。

キレのある剣筋、類稀なる才能に恵まれた彼女なら、貴族であっても問題ないと言うのか。


(当然だろうな)


彼女がいるからこそむしろ学生の可能性に気付いた可能性すらある。

だが。

彼女の様子も周りの様子も何かがおかしくて、俺は眉をひそめた。


いつの間にか生徒が並んでいた列がなくなっており、無人になっていた。

そこで遅れてきたファティマは二人の騎士とともに竜舎へ入っていく。

そこまでは…貴族故に、別扱いとも言えるが、何かがおかしい。何かが。


(…なんで人払い、してる…?)


竜舎から竜が脱走して来た時のために、第一師団のメンバーは竜舎から100mほど離れたこの位置にならんでいる。

俺がここにいるのは監視を兼ねつつ、第一師団切っての使い手のサルートをここから離すわけにもいかず、かと言って他のメンバーが俺の監視となると俺が貴族なので押し切られてアウトとなる可能性があるため、ここに連行されているの、だが。

本来なら陸竜や馬の整備のため人が近くにいるのに、人影が消えていて辺りが無音になっていた。


サルートの焦燥と、団長の痛ましい視線。

本来なら一番最初に契約を試されそうなファティマが最後で有り、騎士を二人連れていたと言う事。

それは、なにを意味している?


「…まさか…」


呟いた瞬間、遠くで竜の泣き声が聞こえた。

泣き声。

…いやがる、声。


「サルート、まさかアレなの!?」

「え? いや、そんなはずは…」

「っくそ!」

「ばっ、ユリス!? 動くな!!!」


サルートが離れていたのをいい事に、近くにいた騎士の足を引っ掛けて押し倒しすり抜ける。

ここから竜舎は100m。

走り抜ければ入れる!


「やめろ! お前が行ってどうする!?」

「隷従なんてさせるもんか!!!」


走り抜ける俺に、重力が掛かりかける。

これは…。


「動くな、撃つぞ!?」

「撃てばいい!!」


振り向かずに叫び、足は止めない。

重量を感じるのは、右斜め後ろに2個、真後ろに1個。

この感覚は火炎弾と氷槍か。撃てばいい。打てるものなら。

俺に打てるのはサルートと叔父上くらいだ。変に怪我をさせたら懲罰ものだからな!


後50m。

たかが10秒少しの距離が遠い。

真っ直ぐに駆け抜ける俺に、魔力の塊が近づく。


「バ…ッ、ホントに当ててどうするんだよ!?」

「避けろユリス!」


焦ったサルートと叔父上の声に冷静になる。

避ける程の距離がないが、不思議となんとかなる気がした。

だてに…魔物相手に魔法の対処法を考えたわけじゃない…!


(どうする?)


軽く顔だけ振り向くと間近に、陣のくまれた火炎弾が二つ。氷槍は解除されたのか見当たらない。

俺は軸足を出し、振り向きざまに身体を一回転させながら先に飛んできた魔方陣に剣を滑らせると、中心を剣でたたき割ることにした。

幸い魔法本体よりターゲッティングの方が優先されたのか魔法陣の方が俺の方に近い。

着弾するより前に、陣が両方壊れるのが見えた。


「…え…っ」


ぽかん、とする騎士団の面々には目もくれず。

俺はそのまま竜舎へ駆け込む――――――――!




…つもりだったが。




「きゅううううううううううううううううう!」

「うおあ!?」



同時に竜舎の方からすっ飛んできた黒い物体が俺をふっ飛ばし、宙に足が浮く。

左腕に痛み。

腹部に激痛。

一気に来た痛覚に混乱した途端、流れ込んでくる騎竜の意識。



「ユリス…!?」



叫ぶファティマの声。

それよりも歌うように流れる、古代言語の歌が俺の耳に響く。



『我、血の盟約を用いて主と契約す…!』



辺りに響く竜の吼える声。

次の瞬間眼の眩むような光が発生し、俺は間近の光と背に感じた衝撃で気を失った。




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